北海道大学『レナード・バーンスタインの生きた世界と残したレガシー』後半 LGBTQフレンドリーなまちづくり

 前半に引き続き、後半になります。

ここでの登壇はこの講演の仕掛け人、瀬名波先生の司会で、橋本邦彦さん、そしてさっぽろレインボープライド実行委員の副会長:満島てる子さんが登壇されました。

ちなみにこのブログは前半に引き続き、野崎が特に録音もせず、自分で聞き取って理解したことをメモした手書きのノートをもとにしております。理解が足りなかったり、間違った情報もあるかもしれません。いずれにしても前半に引き続き、文責のざきでお願いいたしいます。

ここで橋本さんからちょっとびっくりするようなお話がありました。『親愛なるレニー』の本には書かれていない、もう一つのシドニー移住の理由です。実は橋本さんは吉原さんには書いていいと言ってその話をしたんだけど、書簡に書かれていることを中心にしたため、吉原さんはあえてそれを書かなかったのだそうです。

でもそれは本当にプライベートなことなので、私もここにはあえて書かないでおきます。でもそのエピソードをうかがい、移住当時の橋本さんの気持ちや人生に対する考え方とか、いろんなことが去来するような不思議な感覚にとらわれました。

そんな風に、この本が世の中に出ることによって、いわゆる「カミング・アウト」した橋本さん。またこのPMFの時期に札幌にやってきて、胸に迫るものがあったと想像します。

まずは札幌のレインボープライドについての説明が、短いニュース映像から紹介されました。満島てる子さんはこの実行委員副会長として、イベントの実現と盛り上げに奮闘されているのです。

下の写真、左から瀬名波先生、橋本さん、満島さん(緑のワンピースがとっても素敵!)


2018年、東京に続いて札幌でもレインボープライドのパレードが行われるようになったそうです。だから今年は6年目。規模は少しずつですが大きくなって、パンデミック中も行い、今はパルコの前を貸し切る過去最大なもののになったのだそうです。

ただシドニーの規模には負けますと、てる子さん。実際課題も多いのだそうです。

そして橋本さんが紹介しれくれたシドニーのパレードがすごい。オーストラリアということでまずは先住民の皆さんの中でLGBTQの方たちがパレード! すごーい。

続いて、警察のグループ連、消防署のグループ連、ライフセイバーたちのグループ連、科学技術庁のグループ連、教育関係のグループ連、医者とそのインターンのグループ連、建築業者のグループ連、LGBTQの家族を持つ人たちのグループ連… とにかくひたすらひたすらいろんな職業の人たちのグループが続きます。

そして最後には首相や市長も一緒にパレード。いや、すごいでしょ! 

そして、こちらは同性の両親を持つ家族の人たち連。


みんな着飾って踊ってとっても楽しそう! こういう幸せな姿を見せられると、それに影響されてカミングアウトする人もとても増えてきたのだそうです。

っていうか、これだけ見せられたら、あなたの身近にもきっといるよね、LGBTQの当事者の人たち。そう思わせてくれる楽しそうなパレードです。

橋本さんのお話によると、実際オーストラリアでは同性パートナーシップなどもとても充実していて、たとえば同性カップルが生活をしていて大きな問題はほとんどなく、ほぼ結婚と同様の権利も保証されているのだそうです。

たとえば異性同士の内縁関係では、すでに75年に内縁の家族にも遺産が行くようになったりとか、同性でも保険証や年金なども問題ない状態が長く続いていました。

でもあえて、そういう中同性婚を可能にすることを、国民全体がこだわったのではないかと橋本さん。

というのも結婚というのはやはり祝福されるということだ、と。そういう幸せをつかみたくて、パトーナーシップでほとんどのことが生活の上でカバーされている中においても「同性婚の実現」にあえてこだわった。なるほど。

実はオーストラリアでは同性愛は犯罪だった時代もあり(英国と一緒ですね)、その反動というのはあったのかも。たとえばオーストラリアでは4,000組の子育てしている同性カップルが存在しているのだそうです。(異次元の少子化対策とか言っている人たち、聞いてますか?)

てる子さんはまた今後の課題として、パレードを観に来る人は増えているが、一緒に歩こうという人がまだまだ増えてほしい、と。現場にどう参加してもらえるかが大きな課題なのだそうです。実際、パレードについては当事者からも冷たいコメントがあったりもする。難しいですね。

戦国時代などでも日本は同性愛OKの歴史もあった。が、アメリカの戦後教育で、民主主義のおかげで、マイノリティがないがしろにされ、マジョリティが優先されることが多くなった。その典型が同性愛かもしれない、と橋本さん。

日本はオーストラリアみたいに同性愛だと刑務所行きですよ、というのがなかった反面、オーストラリアではそれがバネになったということもあるのかもしれない。努力して獲得したという力もある。日本にはそういった力がないのかも?

てる子さんいわく、明治時代には鶏姦罪(けいかんざい・この言葉初めて知った!)があって、逮捕されるようなことがほんの数年だけど実施されたことがある(これは英国がそうだったから、海外を真似しようということで導入されていたらしい)。

でもそれ以外は絶妙な空気感の中でなんとなくダメというのが出来上がっていったとも言える。一方で、決定的に理不尽な法律があることで、それを変えていこうというモチベーションが育つという傾向もあるのかも、と。

再び橋本さんのお話。とにかく周りから攻めていかないと政府は変わらない。まずは法律の面。そして次が経済の面。海外から来るカップルや企業も、日本がこんなことでは本当に困る。というのも海外では、もはや同性カップルなど当たり前なことになっているから。

(たしか2代くらい前のデンマーク大使が男性同士のカップルで、とっても素敵だったのに、本当に赴任期間が短かったのを思い出しました…そういうこと多いかもしれない)

たとえばプライド月間中に、全日空がゲイのカップルにマイレージを共有するとかそういうキャンペーンをやっているのを見たことがある。たとえば、同性カップルを認めてますということが、企業が一つの売りにできる時代が来た。日本はこういうことをどんどん進めていかないと世界においていかれるかもしれない。

そして(これ、本当に重要!!)政府にこれは「人権問題なのだ」という認識が欠けている。これは社会問題ということではない。あくまで人権。そこが今の政治家はわかっていない。

となれば、ぜひ周りからじわじわと攻めるしかないでしょう。だからビジネス=経済の分野から攻めていくことも、とても大事ですね、と橋本さんは語っておられました。

そして、そういった経済、政治の力学として動く場面だけではなく、日本では精神的なフォローも大事。そこで芸術や文化の出番。ぜひそういった側面からもLGBTQについての問いかけをい広めていってほしい。

たとえば北海道大学としても学術的なことからはじめてみたらよいかも。

たとえばメルボルンの国立美術館では作年クイア展覧会が開かれ、美術館が所属している同性愛の人達の作品や関連する作品が展示された。ローランサン、ダヴィンチ、ベーコン、キース・ヘリング、アンディ・ウォーホールなど、多くのLGBTQの絵など。

他にもテネシー・ウィリアムズ、ユリアス・シーザー、ヘンリー8世、ジョン・ケージ、ショパンなどもそういった人たちだった、と。

このように、文化的なことからぜひ攻めていってほしい。ウェブサイトを作ったりして、何か全国規模のものが動くといい。それこそ、そこでてる子さんが悩み相談のコーナーをやるとか。

日本では各グループの縦のつながりはあるけれど、それをもっと横に広げていったら、スポンサーもつくかもしれないし、規模も大きくできるかも。そういった動きをとても楽しみにしている、と橋本さんは語られていました。

またてる子さんからは「当たり前のこととして捉えること」の意識を育てていきたい。鍵となるのはおそらく大学をはじめとする教育機関。実業も大事だけどリベラルアーツを大事に。精神的な教養はとても大事ともお話がありました。

ちなみにてる子さんは学生時代にCome outしたのだそうです。だから学生さんたちはぜひComing Outしてみたら、と。そうすることによって、人生が楽になると思う。社会人になるとしがらみなどが出てきて、なかなか難しいこともある。

そんなことを広く理解してもらうためにもいわゆるロール・モデルの存在はとても重要で、バーンスタインの存在は本当に大きい。バーンスタインは同性愛についてとってもオープンで隠すようなことはしなかった。

橋本さん「バーンスタインに、あなたほど幸せな人間はいないね、と言ったことがあるんです」

そしたらバーンスタインはちょっと黙りながらも「自分もそう思う」と答えていたそうです。大好きな仕事をしてるし、幾ら稼いで、幾らお金を持っているのかも分からないで、自由にやっている。ゲイなのに子供も三人もいて孫もいて、本当に幸せだ。チャイコフスキーの時代に生まれたら大変だった、とバーンスタインは話していたそうです。素敵ですね。(チャイコフスキーが同性愛者だったのは、ほぼ定説になっています)

また橋本さんは会場からの質問に答えて、たとえば民主主義とは本当に難しい単語で、他の危険性につながりやすい。平等性、果たして一人の人間がイコール1なのか? そういった考え方には危険性がある。何が本当の民主主義なのか。

言論の自由や表現の自由をかちとることはまた別問題としてある。賛成が多いから、そちらで決めるというのは危険で、マジョリティが優先という結論になってしまう危険性がいつも存在している。同性愛者、身体障害者、そういった人たちに、もっと目をくばらなけばいけない。

PMFは複合的ななものを持つイベントで、音楽文化だけではなくいろんな文化。さまざまな文化を内包させていければ素晴らしいものになっていくと思う、と強調されていました。
 

吉原さんの河合隼雄受賞のことばに言葉の力、芸術の力、愛の力を伝える」それをなんだか噛み締めています。

この本の素晴らしさがもっと多くの人に伝わってほしい。このブログを読んでいる人で、まだこの本を読んでない人もいたら、速攻読んでください〜

こちらもぜひ!


ところで橋本さんのお話を聞いて興味を持ったので海外のニュースをググってみたら、こんな動画を発見。ワールドプライドの最後を飾るシドニーのハーバーブリッジを歩くたくさんの皆さんのピリグリメイジ。本当にすごい規模だし、みんなとっても嬉しそう。

橋の上でプロポーズする女性同士のカップル、そして7ヶ月前に50年つれそったパートナーとを亡くし、一緒になれなかった、とてもエモーショナルだと話す78歳のおじいちゃんも、みんな一緒にこのパレードに参加しています。俳優のサム・ニールさんの姿も。

それに、ほんとだ、首相も市長も参加してます! 首相は「状況はまだまだだけど、以前よりもよくなっていると感じます」とコメントとしています。 
 
 

 それから札幌のプライドパレード、今年は9月16日、17日に行われるようです。応援のクラウドファンディングはもう終わっちゃったみたいですが、みなさん、ぜひ参加ください。