西加奈子『くもをさがす』を読みました

 


「くもをさがす」って「雲」かと思ってたら「蜘蛛」だった。確かによく表紙を見たら、蜘蛛のイラストも載っている。

札幌で友人に勧められて読んだ本。確かにどの書店に行っても積まれており、人気作家さんなことがうかがえる。ところが私はフィクションはほとんど読まないので、全然わからないのでさった。

西加奈子さん、私よりも10くらい年下で乳がんになった話。

導入部分が最高によい。ちょっと詩的でもある。蜘蛛にかまれた?と思った著者は病院に行き、そこで癌が発見される…というだけの話だけど、そこはなんだか小説家っぽい引きの強い書き方で一気に引き込まれる。こういうの、さすがだよなぁ。

癌は治療方法とかもそれぞれだとは思うし、副反応も本当にそれぞれ。でも彼女と同じく私の場合も最初に癌が発見された時、お医者さんは小さくしてから切りましょう、と提案した。

いわゆる癌が発見されると、癌そのものと、その周りを囲んでいる癌になりそうなモヤモヤ(と説明された)が体の中にあるわけで(このモヤモヤが実を結ぶと癌になる、みたいなイメージか)、まずはこのモヤモヤをとりのぞき、癌を小さくしてから切ろうというそういう流れになる。

つまり癌そのものを切っても、モヤモヤが体内に残っていると再発してしまう。そういうことなんだと私は理解した。

私がなった膵臓癌はとにかく早く対応することが求められるのだが、当時(5年前)の「膵臓癌標準治療」(よく誤解されるが、これが最高治療と言う意味なのです)は、速攻で切ることだったのだけど、偶然入院した駒込病院の「臨床コース」は、いきなり切らずに、こんな風に癌を小さくしてから切るというコースで、臨床といってもすでに10年やって実績を上げているコースだと説明された。

ちなみに後から知ったのだが臨床コースだと、保険部分は国ではなく病院自体負担になるらしい。ううう、ありがとう駒込病院。そこまでして医療を進めてくれる先生たちの努力よ!

だったら今後の未来のためにも、また先生方のやる気をあおるためにも「臨床コース」行きましょうということで、私もその場で臨床コースにしてください、と先生に返事をした。

で、始まった臨床コース。私がラッキーだったのは、著者みたいに手術前の放射線や錠剤の時点で強い副反応が出ることはなくケロッとしていた。(とはいえ、この治療は医学的にはかなり強い抗癌治療だったらしい)その後、手術で取った癌は7mmだったらしい。

あと、この著者も言っている「なんで私が」。よく言われるんだよね、これ。癌患者によく言われる「なんで私が」と言う気持ち。これ、私には全然なかった。普段から風邪すらひかない超健康優良児だった私は「病気をするなら、ドラマチックなデカい病気に違いない」というのはなんとなく思って生きてきた。

癌は今や三人に一人がかかる病気だというのは知っていたし(今はさらに進んで二人に一人だったっけか?)驚くことはなかったと思う。ただなんとなくシュールな気持ちでいた。それを受け止めていたんだか、いなかったのか。ただただ忙しかったから、よく覚えていない。

あ、あと病気になって泣くというのもほとんどなかった。泣いたのは二回だけ。仕事の大先輩である川島恵子さんが病院に来てくれた時。そして執刀してくれた本田先生が手術後、私のベットを訪ねてきてくれて「きれいに取れました」と言った時。

(でもこの「きれいに取れました」は常套句らしく、隣の患者にも言っていたよ、本田先生!・笑)

いったいどんだけ無神経なんじゃいと言われそうだが、いやいや、とにかく私は忙しかったのだ。そして、ただ単に自分のTO DOリストにやるべきことが増えた、くらいにしか思わなかった。忙しいのは良い。あれこれ考えなくて済む。とにかくやるべきことをこなす、それにつきる。

もちろん、ただでさえ仕事がクソ忙しいのに!!と思わないでもなかったが、前年に本当に偶然にも素晴らしいアシスタントが私の人生に登場してくれたおかげで、決まっていたツアーや海外レコーディングは問題なく実行できたし、癌保険もおりて経済的にも問題がなかった。

かつ病院に行くのは自分にとっては非日常でとても楽しかった。特に入院なんてした際には、看護師さんが背中にニベアまで塗ってくれる。こんなに人に優しくされたことないぜよ! 泣ける! 

仕事は途絶えることがなくメールの返信は常にしていたけれど、暇になったらなったとしても、ぼーーっとゲームをしてたのだから始末に追えない。ほんとダメな自分である。

とはいえ読もうと張り切って持ってきた本はほとんど読めなかった。今思えば、それはそれで軽い鬱状態だったのかも。

あ、この本の感想からズレた。

とにかくこの本、とにかく全体のトーンとしては「暗い」と思った。暗い本を読んで励まされる人と、暗くなる人といると思うけど、私は後者だ。

でも文章をよく読めば「私たちは声をあげて笑った」とかあるし、決してそんな悲惨な状況でもないようにも思う。でもなんだろ、なんか暗いんだよね。いや、これは批判しているのではない。

暗い本だって絶対に「あり」だ。絶対に。あと思ったのは「暗い」のは癌だということではなく、著者が言葉に自信がないところから来ているように思えた。

著者は海外生まれで海外で育った経験もあるようなのだが、どうも英語に自信がないようだ。だからどっちかというとこの「暗さ」は病気から来ているのではなく、言葉の問題のような気がした。

あとどうしても「日本だったら」と比べてしまう、その、海外に住む日本人特有の、どちらにも属してない感じ。あの感じなのかな…。

坂本龍一さんの癌の話を聞いても思ったのだけど、やっぱり医療は日本がベストな気がしている。看護師さんたちは果てしなく優しいし、先生方も優秀だ。大病院のシステムも、本当によくできてる。コンサートやイベントの制作に反映したいくらいだと思った。

そういや私が入院してた病院では、中国人のめっちゃお金持ちそうな人も入院してた。保険効かないから、すごい高額だよね。今後はそうなっていくのかもしれない。でもそれはそれで日本が誇れる、日本の未来を支える道かも。

日本の医療関係者を大切に! でも、実態はみなさん寝る間もないまま、本当に一所懸命仕事をしている。

あ、また話がズレた。話を本に戻すと、言えることは「暗い」=「弱い」ではない、ということ。というか、どちらかというと著者は「強い」。

特に手術後の傷跡をきれいだと喜ぶ様や、かつらをつけずに外出したり、とにかく覚悟が決まっている。そしてドレインをつけたまま帰宅とか、すごいよー すごいよー。

私も二回の手術後はドレイン付けられたけど、あれはしんどい。あのまま帰宅とかありえない!と思ってしまった。すごいなぁ、こういう覚悟が決められる人こそ、人生の途中から海外に住もうと思えるようになるのか。

とか書いて、ふと彼女のバイオをみたら今はヴァンクーバーから帰国しているそうである。なんと! 彼女がヴァンクーバーの街が好きだ、というのはこの本を読んでみてよくわかったけど、ヴァンクーバーに渡った理由も、帰ってきた理由もよくわからない。

そして、なんとこの著者は絵も描くんだね。どの作品もパワフルで素敵。絵でも小説でも筆に力があるのが、素晴らしい。彼女のフィクションの方も時間があったら読んでみたいと思います。


PS
来週火曜日にルナサのクラウドファンディングがスタートします! どうぞよろしく。