いやーーー 良かった! もしかしたら今年の映画NO.1『バービー』超えたかも。明らかに『福田村事件』は抜いたかな。うん、今年の一位は『バービー』とこれで決定かも。そのくらい感動した。
先日会った映画関係の仕事をしている友人も激推薦してたし、文春でも高得点。文春のすべてを賞賛するわけじゃないんだけど、あそこの映画レビュー、誰が書いているか忘れちゃったけど、めっちゃ私の好みと合うのよねぇ… あそこでの高得点映画は私はほぼ大好きだ。
いやー ヴィム・ベンダースだからそうでしょうよ。良いでしょうよ。役所広司さん、すごい俳優さんだもの、そうでしょうよ。ちなみに日本映画はあまり観ない私ですが、『Shall we dance?』はかなり好きな作品の一つです。
でもって細部が良すぎる。音楽の良さに言及する人も多いけど、本も良さそう。紹介されてた本はどれも知らない本だったけど(わたし、ノンフィクションしか読まないんだよね…エッセイとかも読まないし)
古本屋さんのシーンに、今、本のPRをお手伝いさせていただいている吉原真里さんに教えてもらった水村美苗さんの印象的な『私小説』の表紙が映り、おおおっっとのけぞる。吉原センセー、水村さんの本がさりげなく置いてありますっっ!(笑)
それにしても素晴らしい映画だと思った。
もちろん役所さん演じる主人公「平山さん」が掃除にいくトイレの前に住み着いている、踊るホームレスが田中泯さんだったり(存在感とオーラMAX。セリフはない)、バーの歌の上手いママが石川さゆりだったり… ちょっとおとぎ話がすぎやしないかと思わないでもなかった。
いわゆる財布を落としても、ほぼ間違いなく出てくる東京の良いところを、おとき話的に見せている日本大好き外国人監督の映画… というと嫌味かもしれない。
でも実際そうだとも思う。まず、この主人公のルーティンの安心さってのがあるよね。しかも主人公はめちゃくちゃ幸せそうで、自分の生活をじっくりとかみしてめているのだ。
わたしもそうだけど、わたしもランニングして、自炊して、銭湯に行って、編み物ができて、本が読める日が一番好きだ。このルーティンが一生続けばいいなと思う。そういう意味ではツアーも、アーティストの来日も何もいらないと、本気で思う今日この頃なのだ。もう若いころの自分とは違う。
役所さん演じる平山さんの生活を見ていても、どうかこの幸せが続きますように、何も起こらないといいなと切に願う。なんだろ。You Tubeとかで「モーニング・ルーティン」みたいな動画が流行るのに似たメンタリティなのかも。
こういう自分で選び取ったルーティン・ワークには癒しがあるんだよね。
「平山さん」は、本を読むのも丁寧だ。一つ読み終わると100円の特売の棚から名作を選び出す。私みたいに思い立った本は躊躇することなうバンバン貪欲に購入し、その積読状態がひどいのとは全然わけが違う。
「平山さん」みたいに丁寧に読書しようとは思わないが、私は私で私の読書スタイルがあるというわけだ。私は私である程度トライを重ね、自分が一番幸せだという場所に着地しているにすぎない。人の真似をしているのではない。
ちなみに私の「銭湯」はいつも追加料金払ってサウナにも入ってるし、行くのにバスを使っているから「平山さん」よりお金がかかっている。ちょっとした贅沢だと自分では思っているのだ。
私をふくめ、こういう人たちは幸せだ。なぜ「平山さん」が幸せそうに見えるかって、それは自分の幸せが何かわかっているからだ。自分で選んだ生活だからだ。ここが自分の好きな場所、これが自分の好きなやり方、とすべて明確で、それをすべて得た生活をしている。そのなんたる充足感。いやーーー 素敵すぎる。
確かにユニクロとか渋谷区とかサントリーとか、協賛関係の匂いがきついだろと思わないわけじゃないんだけど、それ言ったら「バービー」だって企業ものだからね。
思うに企業がお金を出して資金に心配することがなく、そこで優れた俳優や監督に数字を気にせず自由にやってもらえれば、これだけの作品ができるということなのかもしれない。
いわゆる日本映画の方程式である「製作委員会方式」とかとはまったく違うやり方でできた映画だ。メディアの事業部のいない映画って、それだけで気持ちがいいと思うのは、そういうのに乗れない自分のやっかみかもしれない。でもそれが事実なのだから、やっぱり素晴らしい。
エクゼクティブ・プロデューサーを役所さんが勤めているのも、『バービー』と似ている。主演俳優がエクゼなのは、素晴らしい本気の作品だということなのか?
でも記者会見映像で役所さんが話しているのをみたら(日刊スポーツの記者さんグッジョブ。私もそれが気になってました)、「バービー」の彼女のように強い意志があったわけではないらしく、ただただ企画の段階から役所さんは映画に関わり、役所さんの周りに集まってきたクリエイター、プロデューサーたちの中心に立つもの、という意味でのエクゼの肩書きらしい。
役所さんが記者会見で指摘してたけど、普通エグゼクティブ・プロデューサーとは映画作りで一番偉い人。一番責任がある人。視聴者は注目してないけどね。
通常はお金に責任を持つ人。コンサートで言えば主催者ということにもなるんだろうが、このクレジットは監督やプロデューサーたちが勧めたもので、役所さんにそういう自覚はあまりない様子だった。
でも確かにあそこのエクゼのクレジットにユニクロの人が座っちゃうと、また印象が全然違うもんね。これはこれで正しい決断だと思う。
それにしてもこの企画を始めた渋谷区は「してやったり」だと思う。この映画のヒットであのトイレ達を聖地みたいに訪ねるインバウンドさんたちも増えることであろう。その効果たるや…うらやましすぎるではないか。
でも文化ってでもそういうもんだ。文化は常に時代の流れや、誰かの思惑から逃れることはできない。そこにマスメディアも、ひょっとすると代理店みたいな存在もいらない。
必要なのは作る側と、お金を出す側(パトロン)との幸せなマッチングだ。お互いを尊敬しあう、そういう出会いだ。だからこれから映画製作や音楽の現場にそういうパターンが増えるといいいなと、私なんぞは思ったりする。
その辺の経緯も知りたくてパンフレット買ったんだけど、これについての詳細な言及はなかった。
パンフレットといえば、そこに載ってた川上未央子の話が良かった。彼女、すごいね。あまりにするどい指摘のそのするどさに感動すら覚えた。ちなみにSWITCHの特集号も良さげなので、帰宅して注文してしまった。
あとあがた森魚さんはすぐわかったけど、柴田元幸さんが出ていたのは、パンフレット購入するまで気づかなかった。パンフレットの柴田先生のエッセイもすごくいいです。必読。っていうか、このパンフ作りもSwitchが絡んでいるんだろう。そういうところも、いちいち素晴らしい。
あ、そうそう、この記者会見の動画では田中泯さんが、「愛の鞭」として「今の日本の映画・映像の制作者は視聴者のことを馬鹿にしすぎている」ということを話されており、そんな中で「多数は偶然」みたいな言葉を話されていて、これはキーワードとしてしっかり覚えておこうと思った。いやー 本当にさすがである。
こちらが公式サイト。サイトも素敵な作りだ。いちいち良いなぁと思う。
★
THE MUSIC PLANT次の主催公演は、カウリスマキと同じ、フィンランドからやってきたハーモニカ・カルテット:スヴェング。
そういや、このプロフィール写真、なんかカウリスマキっぽい(笑)
シベリウスにショパン、哀愁のロシアン民謡、日本の童謡や「恋のバカンス」そして「ハウルの動く城」、踊り出したくなるようなタンゴ、敬愛するタラフ・ドゥ・ハイドゥークスに捧げたジプシー風のオリジナル曲などなど。なんでもハーモニカだけで演奏しちゃう脅威の雑食系ハーモニカ・カルテット。
詳細はこちら。
日程:2024年1月23日(火)19:00開演
チケット:¥7,000+オーダー
せつないアレンジが抜群の「ハウルの動く城」