映画『哀れなるものたち(POOR THINGS)』を観ました。なるほどこれはすごい。

 


映画を見て、帰り道にかった大きな柘榴。今朝食べたら、台所が流血状態みたいに真っ赤かに。美味しかった。ポリフェノール、マックス!

さて、昨日は今、めっちゃ話題になってる映画『哀れなるものたち POOR THINGS』を観ました。ちょい前の文春で大絶賛で、あそこの選者は誰か忘れちゃったけど(笑)あそこで大絶賛されているものはだいたい自分にすごく合うというか、私も好きにいなることがが多いので、すごい信頼してるので、高得点のものを見つけた時は、必ずチェックするようにしている。

で、期待マックスで行ってみた。その期待は裏切られなかった。

公開後初のウエンズデーということで、映画館は平日の昼間だってのに超満員。右にも左にもお客がいて、ちょっときゅうくつではあったけど、堪能しました。素晴らしかった。

外人さんが近くにいたせいか、笑い声がしょっちゅうあがり、それにつられて私も笑う。いや、面白い映画だった。コメディだと思う、これ。

POOR THINGってよく私が行く英語圏でよく使われる言い回し。特におばちゃん言葉のようにも思う。アイリッシュに多いのかな? 例えば私が雨に濡れて待ち合わせ場所に到着したら「まぁ、よーこ、Poor Thing!」「お腹すいてたの? Poor Thing!」とか言うの。「まぁ、可哀想に!」くらいの言い回しか。

それにしても圧巻なのが目のぎょろっとした主演女優のエマ・ストーン。彼女のことは『バードマン』で観て結構感動し、『ラ・ラ・ランド』は好きな映画ではないが、女優さんはいいよなぁと思って感動し、とはいえ、私の中では特に好きでも嫌いでもなく…という感じの存在だったけど、この映画で私の彼女への評価は爆上がりなのであった。

子供の脳を移植された元妊婦の、よちよち歩きで自分の体をコントロールできてない感じの歩き方とか圧巻。最初のピアノのシーンでは、子供の手と足が平等に動くあの感じとかがよく表現されてる。

あと最初の方は妙に撮影のレンズも魚眼ぽっかったり、広角ぽかったりで「ゆがみ」がすごい。それがモノクロ画面からカラーになって、どんどん矯正されていくのもいい。

とにかく主人公であるベラのことをみんなが好きになる。彼女、いいなぁ!! 友達になりたいなぁ、と。好奇心旺盛で、自分の欲求に忠実。そして旅の途中で出会う人々に影響されて、どんどん成長していく。

それにシーンひとつひとつが、それこそアートフィルムのようで、マシュー・バーニーやビョークも真っ青といったら褒めすぎだけど、そんなテイスト。ちょっとした歪みが、不安感をあおる感じ。なんともシャープでかっこいい。色味もどきついようでいて、嫌じゃない。

そして。この映画の決定的魅力。それは、映画のストーリーでもそうなんだけど、パンフレットを読んで、この妥協のない作品の制作のキモがわかった。この映画が素晴らしいのは、彼女自身がプロデューサーで制作に関わっているといるからなのだ。

これって、すごく最近の自分の中ではキーワードになってる事実。何度かここにも書いているけど、人間は自分が言い出しっぺのことで一番能力を発揮できる、ということ。誰かのオファーを待っていては何もできない、そういうこと。

これも何度もここに書いていることだけど、尊敬する女優の小林聡美さんが「女優とは、待つ仕事」とエッセイで書かれていたのが、実は私には、すごいショックだった。

確かに彼女を使うとなれば、制作側のハードルはすごくあがるだろうし、一方の彼女は彼女で自分が演じたくない役を我慢してやるほどの感じでもない。でもそんな才能あふれる脚本家ばかりが存在しているわけでもない。存在していたとしても、自分のところにオファーが来るのかはわからない。

正直「かもめ食堂」や一連の「ほんわかムーヴィー」に出演されている頃、世間の評価とは反比例して私は彼女をあまり評価してなかった。でもコメディや、リリー・フランキーとやった離婚する夫婦ドラマとかは、すごく面白くて、そこから彼女にすごく興味を持った。三谷幸喜と結婚してた、というのもいい。そして彼女の本も買って読んでみたのだ。

「女優の仕事とは待つこと」と書く彼女の、ある意味での業界に対する「嫌味」と彼女の「強さ」がなんだか私には響いた。「女優とは待つ仕事」…なるほどね。

だから! だからこそ、女優さん言い出しっぺの作品はすごいものが多いと思うのだ。

例えばグレン・クローズの『アルバート氏の人生』、トニャーの女優さんが作った『I、トーニャ』、そして『バービー』。すべて作品の力が違う。女優魂が違う。伝えようとするものの力が違う。

(一方で、『Perfect days』の役所さんのプロデューサー・クレジットには思うところが多い。あれは代理店の「技」だよな…)

この作品も彼女が熱心に企画段階から取り組み、2017年くらいから組み立ててきたものの結実なのだ。すごいな。

プロデュースも手がける女優さんは教えてくれる。待ってるだけじゃだめなのだ、と。

これからはどんな職業でも、自分の能力を最大限に発揮できる環境を自分で生み出さないとダメなのだ、と。そしてそれに責任を持つ。雇われでいてはダメなんだと自覚することなのだ。あっ、また断定の「だ」を連発で言っちゃった。

でも、小林さん、小林さんや日本の女優さんこそ、それ必要だと思う。放送局の事業部や代理店主体の、映画産業を打ち砕け!(笑)

っていうか、この映画自体もベラが子供のころの好奇心を失わずにどんどん成長してきて、自分の自立を獲得するというか、そういう話だものね。

うん、やっぱり人間は自分のやりたいことをひたすら追求するのがいいのだ。それこそが生きるということなのだ…って、映画を深読みしすぎ?

それにしてもすごい映画であった。エマ・ストーン自身が、この映画が、すごく大事なことを伝えている。本当にあっという間に終わったし、最後のエンディングの妙に救われる感じも、これまた大好きな終わり方だ。

あ、音楽もよかった。すごく映画とマッチしてた。いろんなことでブレてない作品だった。

ぜひ観に行ってください。あちこちの映画館で公開中。