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面白かった。かなり多くの友人が面白い、面白いっていうから読んでみたら、本当に面白かった。音楽知らない人でもこれは楽しめる。
まず旅日記みたいな読みものは、基本的に面白いってのがある。ルナサのクラファン盛り上げブログを書いていた時、一番アクセスがあったのは、私のシアトル・ルナサ追っかけ日記であった。あれは4日分書いて、彼らのことが出てくるのはたった1日である。
でも世の中なんて、そんなもんだ。一方で、年金生活者を紹介するYou Tubeみてたら、決定的な趣味がない人はたいてい旅行に走っている。
このように「旅」「移動」というのはいつになっても面白いものなのかもしれない。
また貧乏であればあるほど旅日記は読ませる。若き日の小澤さんは、貨物船にのって、スクーターに乗って旅をする。応募締め切りすぎてたけど、アメリカ大使館にコネもないのに潜り込み、ダメ押しで参加したブザンソン国際指揮者コンクールでなんと優勝。
そしてあれこれあるうちに、バーンスタインにひっぱられてニューヨーク・フィルへ。そして日本へ帰国。その凱旋公演というところでこの文庫本の話は終わる。
のちに結婚されるピアニストの江戸京子さんが出てくるも面白かったし、若い頃の江戸さん、美人!(っていうか、年取っても美しい方だったのだと思うが)。
でも向こうはパリに音楽留学中の三井不動産のお嬢様だ。そのお嬢さんたちと一緒に貧乏学生のオザワが、電車のコンパートメントで旅をする様子などもめちゃくちゃリアルで面白い。
(ちなみにもうだいぶ前だけどTHE MUSIC PLANTは、アリオン音楽財団のM山さんには本当にお世話になった。本当にありがとうございました)
ウチは小諸で本当に手作りで、陶芸家の方とシリーズコンサートをやるようになったんだけど(それは10年続けることができた)それが、始まってからは、合言葉のよう「打倒サイトウ記念」とか(冗談ですよ)よく言っていた。
世界の小澤と巨大資本たちと戦う我らは雑草だが音楽愛は負けないとか勝手に燃えていた(爆)
でも小澤さんってこんな方だったんだ、と、ちょっと…というかかなり好きになった。
この本においても特に素敵なのが、時々未来のマエストロに訪れる圧倒的に鮮やかな音楽体験。田舎の教会での讃美歌とか。あぁいう音楽の神様が降臨するモーメント。その描写が素敵で「あぁ、いいなぁ、わかるなぁ」と私も共感してしまうのであった。
そしてまたもや登場するバーンスタインのチャーミングなことよ!! めっちゃ素敵。バーンスタイン Being バーンスタイン。これはどんな文献を読んでも裏切られない強烈なキャラクター。いいなぁ、バーンスタイン。
小澤さんは「ウエスト・サイド・ストーリー」をみていると、レニー(バーンスタイン)のあの話す時の表情や、豊かさとか大きさ、魅力というものをヴィヴィドに感じるとこの本の中でも語っている。音楽家って、ほんと作り出す音楽そのものだよね。あぁ!!!
凱旋帰国した空港。小澤さんの肩を後ろからガシッと抱き、よかったなぁ、よかったなぁと喜ぶ姿は、まるで子供だ。レニー(バーンスタイン)、可愛すぎる!!
そしてカラヤンはこの本のどのシーンにおいてもやっぱりBeingカラヤンなのであった。これだけ多くの本を読んでもいつも同じことが書いてあるということは、本当にそういう人だったんだろうなぁと改めて。
小澤さん、バーンスタインに「飯に行こう」と誘われると「OK」とはずむような色良い返事ができる、そして内心で「しめた、今日はうまいものにありつける」と思うのだそうだ。でも相手がカラヤンだとそうはいかないらしい。
カラヤンは上品で気さくで親切だけど、しかし偉大さがいつも体に染み付いてるようだ、と小澤さんは言う。「飯を食おう」と誘われても、あまり嬉しくなかったそうだ。
でも小澤さんはパリよりベルリンが好きだったようだ。戦争で痛めつけられた街の復活を感じる、とこの本でも熱く語る。そしてアメリカの自由は(また、この時期もっともアメリカが華やかだった時代なのかも)外国人にとっては最高に良いとも話す。
そして小澤青年は、日本のクラシック愛好家は本当に視野が狭い、と嘆く。ジャズ、そして民謡など多くを知っておくべきだとも語る。ここにもグッと来た。
小澤さんを直接知る人の話によると、すごくチャーミングな人だったらしいし、その感じがこの本を読んでビシビシ伝わってきた。
とにかく青春。ユーモラスでもある。若い頃はなんでもできるね。私も若い頃から暴れてた方だと思うけど、若い音楽家の皆さんはこれ、絶対に読んだ方がいい。
今の若い子たちは頭でっかちで行動力ないとか言われているけど、やってる子はものすごく努力しているし、今やあれこれあるものの、基本どんな人たちにもチャンスはある時代になってきた。
そしてやっぱり行動する人にとって、行動して感動した経験は、その人を一生支えてくれるの財産になるのだと思った。私もそうだったし、この本で見る世界のオザワも同じだ。感動した経験は、あなたをまた別の感動へと運んでくれる。
若いころ感動してないと、歳とってからはもう全然感動できない。
よく言われるんだけど、若いころコンサートに行ってた経験がない人は、年取ってからお金も時間もあってコンサート行ってもあまり感動できないと聞く。やっぱり若いころに経験しないとダメなんだ。若い頃の経験はお金を払ってでも得ておいた方がいい。
あっ、いかん、人生の先輩ヅラしちゃった。いけないな、こういうの(笑)
ところで小澤さんの訃報が伝えられた時の、村上春樹のこれ、よかったよね。この文字数で全てを語る。やっぱり彼も天才だ。私は彼の小説はあまり好きではないのだけど(エッセイは好き)、これは認めざるを得ないと思ったのだった。(…なんて、私ったら、世界のムラカミ相手に何言ってるんだか…)
小澤征爾さんを失って 村上春樹さん寄稿:朝日新聞デジタル https://t.co/WD6XJneVyW
— 野崎洋子 (@mplantyoko) March 14, 2024
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PS
あ、そうそう、若いころの小澤青年が羽目を外したりしないように、小言をいってた秘書のおばさんが何度か登場するのだが、後書きでこの秘書のおばさんが、このレニー本にも登場し、天野和子さん(天野さんが誰だかわからない人はチラシ参考にしてください)に対して、心から良くしてくれた、あのヘレン・コーツ女史だと知って、これまた震えた。
そして7月にTHE MUSIC PLANTは、初めてクラシックの企画に挑戦します。『親愛なるレニー』、ぜひこちらのイベントもよろしくね。
公式サイトは、こちら。