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すごい本だった。今年読んだノンフィクション、おそらくベスト3に入りそうな迫力のルポだ。中東のことは、私は全然わかっていないので、それこそ知ることすら尻込みしていたけど、朝日ポッドキャストで乗京さんの素晴らしいレポートを聞き、感銘を受けていた。
そして、これが本にならないかとずっと思っていた。そのくらい乗京さんのレポートは素晴らしかった。
で!! 嬉しくも本当にそれが本になった。というか、こういってポッドキャストや記事に寄せられた声は、私以外にもたくさんいたのだろう。これが買わずにはいられるだろうかー。
ちなみにこの本はとても読みやすい。すごくわかりやすい。だから中東のことはわからない、よく知らない、知るのが怖いと言う人もぜひ読んでほしい。
私は本当に勉強してもしても、ダメダメで歴史とか何度勉強しても覚えられない程度の脳みそしかないのだが、そんな私でも、中東のことを知るたびに中村さんの名前を伺い、そのたびに感動にふるえてしまうのだ。
こういう、国際的に活躍されている日本人が存在していたからこそ、私たち末端の海外出張組も、海外で親切にしてもらったり、よくしてもらったりするのだ。日本人の印象が良くなるのだ。中村さんはそんな日本を代表する国際人の一人だった。
そう、もう過去形だ。中村さんは殺されてしまった。
この本で中村さんのことを語るアフガニスタンの人たちの声を聞くたびにグッとくる。アフガニスタンの誰もが中村さんをヒーローと尊敬し、そういう声はこの本でも何百回(は、おおげさだけど)と紹介される。その度に涙が出そうだ。
そして著者の熱意だよね。『親愛なるレニー』もよく著者の熱意をすごく褒められたのだけど、これも本当にすごい。著者の熱意がある本はすごい。執念の取材だと思う。
本は中村医師殺害の現場、そして亡くなった時の様子からスタートする。実際それが詳細に書かれていて、中村さんが相当苦しんで亡くなられたいたのがわかり、読んでいて辛くなった。
撃たれた直後、ちょっと顔を上げた中村さん、そして手術の時も意識がいっしゅん戻った時も、中村さんは運転手や同行のスタッフは大丈夫だったかとずっと他の人のことを気遣っていたのだそうだ。
最初事件が起こった時「中村医師はかけがえのない存在。国をあげて調査していく」と息巻いていたアフガニスタンの上層部の気合いが、調査が進むんいつれ、だんだん萎んでしまったのはなぜか。また殺害予告が実は行われたいたこと。それが中村医師と一緒にいたスタッフが残した携帯電話の画像から明らかになっていく。
この携帯電話も、警察に没収されロックされていたから、事件直後は開かれなかった。が、同時に貴重な画像が削除されずにすんだ。妻の元に戻ってきて暗証番号を知る妻が携帯電話をあけて、2年後に見つけた画像が決め手になった。(そもそもイスラム圏では女性に話を聞くこと自体がとてもハードルが高い)
それにしても独自取材や調査報道なんて日本にいても難しいのに、現地に飛んだり日本にいながらにして遠隔操作したり、乗京記者の執念がすごい。
とにかく一人の人の言うことなんて信用できない世界だ。裏を取ったり、そのさらに裏を確認したりで、本当に大変な苦労の中、取材は進んでいく。そして浮かび上がってくる隣国の組織、隣国の水事情。
そしていろんなことが重なり、中村さんは殺されてしまった。全然殺されなくてもよかったのに。っていうか、殺されてしまってはいけなかったのに。
この本は長く長く多くの人に読んでもらいたいし、ぜひ取材がさらに進んだらまた乗京記者に続きを書いて欲しいと思う。普通の書籍だけど、新書版みたいに読みやすいし、必要以上に長くない。だからすぐ読めるから。
著者の乗京記者は、朝日新聞の記者だ。こんなふうに普通の記事もたくさん書いておられる。それにしても、その乗京さんが、なぜこの取材にこれだけ執念を燃やせるのか。その理由は?
その理由は、ポッドキャストでも話しておられた、本にも書かれている32年前の「アサヒシンブン」のエピソードが物語っている。そのエピソードに再び涙。
マスゴミだとか、マスコミが弱いから悪徳政治家がのさばるとかいろいろ言われる時代だけど、こういう熱血記者の方もいるんですよ。本当にすごい。乗京さん、これからも期待しております。
なおポッドキャストファンに嬉しいのは、神田記者とのポッドキャストの文字起こしが巻末についていること。ちょうど聞き返してみたいと思っていたので、これは嬉しい。
ポッドキャストでの乗京記者の声はこちらでも聞けます。本を読むのが苦手な人もよかったらこれ聞いてみて。すごいよ。事実は映画よりもすごいよ。
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