松尾潔『おれの歌を止めるな』を読みました。とても真っ当な抵抗の書

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先日ポリタスに著者の松尾さんが出演されていた。それを見て、とても面白かったので、そのいきおいで今読んでいる本を横において、こちらを先に読み始めてしまい、あっという間に読み終わってしまった。

とても読みやすいし、引き込まれる。松尾さんの話しているテンションそのままの文章で、すごく自然体。ちょうどいい感じ。ビックな仕事をしてきた方で、とはいえメインストリームの音楽に疎い私でも、松尾さんがミュージック・マガジンに書かれていたり、洋楽好きだったりされているので、お名前はもちろん存じあげてきた。こういう方なのね。

4時間くらいで一気読み。

タイトルの「おれ」に違和感があるという松尾さん。確かに優しそうな方である。あの和田静香が懐いている感じなので、実際優しい方なんだろう(笑)。英語タイトルはDon't Disturb My Groove。英語のタイトルの方がリアルな松尾さんとしっくりくるかもしれない。

和田静香が番組内でも言っていたが、ミュージック・マガジン編集だった高岡さんの話によると松尾さんは23歳くらいからずっとあぁいうテンションの人だったらしい(笑)

それにしても津田さん、和田さん、松尾さん。以前はSPA!で同時に書いていた時期もあったというが、いやー 不思議なものだよね。それが何年もたって、3人で六本木の伝説的なビルで(ポリタスTVをご覧あれ)こうやって話をしているなんて。

そして、この本、こうして読むと、ジャニーズ問題とか、相当自分では追いかけてきたようだったけど、わかってないところがたくさんあった。っていうか、最近はニュース追いかけててもすぐ忘れちゃうのだから困ったもんだ。

都倉俊一のコロナ禍の時の「稼げる人」「実力のある人」の話題とかもすっかり忘れてた。あの時、怒った「あの怒り」を忘れちゃいけないよなと改めて。本当にコロナの時はうちも助成金にだいぶ助けられたけど…都倉さんに言わせりゃ、それはダメなんだよね(笑)

坂本龍一の話も改めて感動した。坂本さんの音楽は実は私のよく知らないのだが、政治や社会に対してメッセージを投げかける稀有なアーティストとして、とても尊敬している。

その坂本さんの父親が三島由紀夫や「何でも見てやろう」の小田実の担当編集だったというのは、この本を読むまで知らなかった。「坂本さんは一人っ子だったから、その影響は大きかったのに違いない」とのこと。なるほど…こういうことも知らなかったよ。

他にもキング牧師の「最大の悲劇は悪人の暴力ではなく善人の沈黙だ」という言葉を紹介したり、こんな内容の文章を書く松尾さんが、ジャニーズ問題について発言するのはめちゃくちゃ自然で当たり前のことであり、普通の行動だったと理解できる。

それにしても…スマイル・カンパニーが取った態度についてはありえないと思うし、山下さんのラジオには私も心底がっかりしたけど、山下達郎さんをよく理解しているファンにとっては「ああ言う態度は山下さんにとっては当たり前のこと。あの人はいわゆる音楽職人であって善人ではない」ということらしい。ふーむ。

だがしかし、あぁいうまっというな社会人としての判断というか、まっとうな社会性をなくして、素晴らしい音楽が作れるのだろうかという疑問も残らないではない。音楽っていったいなんだろうね。

まぁ、でもファンな人はファンなんでしょう。私はよく理解できない。音楽は大事だし、音楽は人間よりも大きいなと思うことは時々あるが、それによって人間として大事なことが踏み躙られて良いわけがない。

それなのに、私は特に奥さんの音楽の方は結構よく聞いていた。私、わかってなかったなぁ。でもあれからSpotifyのプレイリストから彼女の音楽はすべて消した。

話を本に戻すと、この本の中で感動したのは、伊集院光さんのラジオのリスナーに対する「全肯定」の素晴らしさとか、そういう松尾さんが評価する人たちの素晴らしさだ。

あ、そうそう、鈴木エイトさん、音楽やってた時のステージネームがセブンだったということで、そこから一歩進めてエイトっていうんだって。そんなの知らなかったよ。そしてエイトさんの「当事者性」を松尾さんはすごく評価している。うーん、わかるなぁ!

そしてポップミュージックは常に弱者の側に立つ、とか、響く言葉があちこちに。松尾さんが声高に言っていないから、余計静かに心に来る。

あとDJ SODAさんの話題の今やすっかり忘れていたけど、思い出した。あれもすごく重要なことを私たちに教えてくれたよね。あの時、ベルクの店長が出したツイートも良かったよね。 パフォーマンスとは観客もみんなで咲かせるものだ、と。

あとアイドルやCMに出ているタレントのキャスターごっこはやめようよ、とここはバッサリ。あと音制連の話題もいい。あれには私も心底怒りに震えた。

「自民を支援する日本医師会のように、業界団体が特定政党を支持することはある。しかし会員の意志全員が自民に票を投じるだろうか」

「ましてや音楽は、白黒がはっきりつかぬ景色の色合いを細やかに描くことで成り立つような世界。そもそも右向け右が苦手な人たちだから、組織票はなじまない」と。

これについて大っぴらに批判する有名ミュージシャンがいなかったのは本当に残念だった、と。「音楽と政治は新たに出会い直すべきだ」と松尾さんは言う。うん、うん、うん。

音楽家や芸術家は政治について発言するなという意見が時々見られるけど、それは日本だけの現象で、アメリカでは、というか社会で生きている限り、犯罪行為は人間としてやってはいけないし、社会で生きている以上、ある程度大人として責任を持つべきだと思う(あっ。「べき」とかまた言っちゃった)

最後の田中康夫、近田春夫、松尾さんの3人の鼎談もいい。最後田中さんが「『声をあげる』は生き方。『ダンマリ』は世渡り」と松尾さんの言葉を紹介もしている。

本当に心に刻んでいきたい言葉だ。

コロナ禍から始まり、2023年〜2024年は日本のエンタテイメント業界にとって大きな変化があった時期ということで、それを歴史に刻むそういう本だ。この本は、その時代の思いを閉じ込めた傑作と言える。ここから私たちは変わらないとダメだ。

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