こういうの! こういうのが一番好きなんですよ、私は。この本のアマゾンのリンクはこちら。
というわけで、私の大好きなノン・フィクション。骨のあるノン・フィクション。もともと2010年出た本の文庫化で、初めて知って読んだ。
なんといっても筆者の熱意がすごい。1部の西山記者の奥さん:西山啓子さんの話も読み応えあったけど、それよりすごいのが弁護士:小町谷育子さんの話がもう最高にすごい。圧巻でした。
そして最後のオチよ。なんというか、国って卑怯だし、なんというか、かっこよくないよね。間違いを認めず、のらりくらり。
沖縄密約ご存知ですか? 沖縄返還の際に、アメリカ政府と日本政府で密約して、アメリカの引越し代(簡単にいうところの)を日本が持つ、という約束ごと。もっとも、それがなければ沖縄返還はありえなかっただろう…という歴史の見立てもあるのだけど、その存在を何年もたった後でも政府は認めなかった…という話。ずっと国民に隠してた。そして今もそれを公開していない。
それを毎日新聞の記者が、すっぱぬいた。しかし、その文書を記者に流した外務省のスタッフが彼と愛人関係にあったということで、マスコミは一斉に「不倫ネタ」の方に流れていったわけだ。国民に大事なことを隠してた政府の話題はどこへやら… なんかこういうパターン、今もよくあるよね。
簡単にいうとそういう話。Wikiに詳しくあるので、興味ある人は「西山事件」でググるとよろし。
この本、すごく登場人物の気持ちが丁寧に描かれていて、登場人物の姿がヴィヴィッドに立ち上がってくる。
確かに西山さんの記者魂はすごいと思うし(ただ、ちょっとニュースを抜くことに執着しすぎかも、とは思うが)同情もするが、でもギャンブルにのめり込んだり奥さんに心配かけたり暴力を振るったり等々、正直、全然感情移入できる人ではない。
そんな人だと分かれば、結局ギャンブル好きも、ニュースを抜くことも一緒じゃないのかよ、と思ったりもする。
とはいえ、もちろん彼の正義感はマックスで(奥さん殴って、なにが正義だとも思うけど)、日記に<挫折してはならぬし、その必要はない「権力」が善で、小生が「悪」ということでないかぎり>など記していたようだ。
彼の倫理観、そして国民に報さなくては、という正義感は確かに理解できる。(だけど奥さん、殴っちゃダメだよね。何度も書くけど)
そしてこの不倫相手の外務省の女性事務官の方も、気持ちはわからないでもないが、法廷で明らかな嘘を言ったり、まったくもって感情移入できない。っていうか、かなり卑怯な女だなぁ、と思った。
もっとも彼女も大きなキャリアを失ったのだから、言いたいこともあるだろう。それに取材元を守ることができなかった西山さんの、報道にたずさわるものとしてはあってはならないミスというのも許せなかったのだろう。
西山さんは、彼女の発言に一つも反対しなかったのだそうだ。仕方ないといえば仕方ないのだけれど、さぞ無念だったことだろう。
そして、奥さんの啓子さんの気持ちはすごくよくわかる。そしてなぜかタイミングを逃して(なのか)離婚しなかったという結論も。彼女の気持ちの「揺れ」は非常によくこの本の中でとても描けている。
しかし、とにかく最高にすごいのが、2部の主役である、この弁護士さんですよ。あくまで西山記者の個人の問題ではなく、国民の知る権利ということにフォーカスし、この事件をまっすぐに追求していく。今、彼女はBPO(放送倫理検証委員会)の委員長をしているという。素晴らしいよね。
そして最初の裁判官ですよ、杉原さん。いやー こうやって本に書いてもらえて、私のようなものもこの裁判の詳細が読めて、本当に良かった。著者の諸永さん、ありがとう。すごいです、ほんと。今、彼女はBPO(放送倫理検証委員会)の委員長をしている。心強い。
そして他にもいろんな人の名前も登場する。吉野文六さんという当時の外務省アメリカ局長。
吉野さんはかなりの高齢(91歳)で認知症も患っている状態だったけれど、35年前のことについて、しっかり裁判で証言したのだそうだ。これも良かった。
でも気持ちわかる。もう自分の人生は長くないという状況において、嘘を突き通し、墓場まで持っていくってありえないもんね。これはとてもわかる。(日航機墜落時の自衛隊関係者にもぜひこのような正直な証言をもとめたい。中曽根さんは何も言わずに死んでいったが)
人間もうすぐ死ぬという中で、保身の嘘をついてどうなるんだ、ということだ。それよりも人類の歴史上、大切な証言をしっかり残すことの方が数万倍大事なのだから。
吉野さんによれば、この「密約」は、日本の財務省とアメリカの財務省の間で交わされ、外務省は完全に蚊帳の外だったそうだ。
そんなことってあるんだなぁ、と改めて思った。とにかく外務省に情報が来た時は、すべて交渉は完了しており、ただただ外務省は事務作業を進めたのだという。なので、アメリカ側が情報公開した密約文書にはB.Yという吉野さんのイニシャルサインがあるのだという。
そして!! 日本はそれを公開できないという。アメリカは何年もたって文書公開しているのに、よ? ありえないでしょう? っていうか、絶対にその文書あるでしょ? っていうか、ないんだったら、それは問題で、なぜないのか、破棄されてしまったのかをちゃんと追求しないと? それってだって、日本国民の物でしょう? 税金使って、お金払ったんでしょう?
こういうことが日頃から日本の政治の中枢では平気で行われているんだろうか。っていうか、行われていると思われて仕方ないよね、これ。結局司法の判断は「密約はあった」ということにとどまり、文書の公開まで辿り着けていない。
とはいえ、一応チームとしてはこれは「実質勝訴」ということで結論づけているという。
奥さんの啓子さんの日記(的なもの)には、「歴史的に将来どのような位置付けをされるのか、興味はあるが、その頃は生きていない」と書かれていたという。
それしても、この文書公開については(アメリカの文書が公開された2008年ごろの話)、澤地久枝さん(澤地さんは本書の中でも、めちゃくちゃかっこいい発言もあり、本当に素晴らしい)、筑紫哲也さんや是枝裕和監督、宮台真司さん、高村薫さんも登場し、沖縄のことに詳しくない私にも、ぐっと話がリアルに見えてきた。
ジャーナリストの日隅一雄さんの名前も登場してうれしくなった(原発事故の時は本当にお世話になりました!)。なんか読み進めながらも、いろいろ涙が出た。
今、諸永さんはPFASのことについても追求されている。これからも素晴らしい本をぜひ書いてください。
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秋のケルト市は豊洲にて10月19日。ラウーと藤田恵美さん(ex - Le Couple)の公演。http://www.mplant.com/celticmarket/
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Intoxicate最新号に「ひとこまごま」登場他、多数このあと掲載される予定です。お楽しみに。
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