鈴木智彦『ヤクザときどきピアノ』を読みました 抱腹絶倒 これは最高に面白い!


いやーーー おもろかった。面白いという意味では、ここ最近読んだ中でピカイチだと思う。鈴木智彦さん『ヤクザときどきピアノ』

この方、有名な方なんですね。過去の傑作には『ヤクザと原発』などがある。でも私はこの著者さんの作品、初めて読みました。

とにかく文章が面白い。しかも面白いといっても、狙った感じの面白さじゃなくて、なんかこう天然な感じなのだ。それが抜群に面白い。いちいち面白い。いいわぁ、この方、きっとこの文章そのままの人なんじゃないかなと勝手に想像する。

ピアノの練習ははっきり言ってボロボロだ。でも書くことについてはもうプロ中のプロだと思う。

そもそもネタを探して、妙な閃きからそのポイントに邁進し、エンディングもある意味編集者との、言ってしまえば分かりやすい予定調和。良くも悪くもプロの仕事だ。すごい。だからこそすごい。間違いなく読者側は楽しませてもらえる。

これはプロの面白さだ。面白さにかけてはプロなのかもしれない。生き方については疑問だけれど!(爆)

このくらいの文章力の方が音楽業界にいたら、楽しいだろうなぁ!! あ、この本も一応音楽についての本だった。

そもそも出てくるピアノの先生が最高! なんとレイコ先生という(笑)。

冒頭で筆者はこういう。

 ピアノは人生に抗うための武器になる。
 俺は反逆する。
 残酷で理不尽な世の中を、楽しんで死ぬ。

これ、すごくないですか? 私も同じだよ。私も同じ気持ちでピアノを弾いている。こんな世の中、本当に最低だ。理不尽に人が殺され、ガザやウクライナはめちゃくちゃ。日本の政治もちっともよくならない。石破さんは裏金議員の扱いに手をこまねいている。明らかに悪いことなのに、誰もそれを止められない。

でも!! でも、でも、でも!! だからといって、そのことに私は私の人生を邪魔させたりしない。私は楽しんで人生をまっとうするのだ!! それは私もまったく同じ気持ちで生きている。

…と一人、空を見上げて熱く燃えたりするわけだが、もちろんそれだけでピアノが弾けるわけがない。

でもって、この本を読むと、やっぱりピアノは、先生につくのはありなのかなぁとちょっと思った。というのも、鈴木さんのピアノの先生(レイコ先生)、なかなか魅力的なのだ。

なんというか、先生、まったくブレがない。絶対に弾ける、と断言してくれる。これ、私にも覚えがある。ピアノを弾き初めの頃、作家の吉原真里さんが「この曲なら絶対に弾ける」と教えてくれたのがバーンスタインのフェリシアの曲。

確かに簡単そうではあるが、音符の数は多いし、メロディも複雑で時々転調。あまりの音の多さにどれがメインのメロディなのかわからなくなる、なかなかの難曲だ。今やっと譜面は追えるようになったのだが、まだまだ間違いだらけ。でも吉原さんは「あの曲なら絶対に弾ける」と断言してくれた。

だから、それを信じて(自分の能力ではなく)なんとなく練習をしているうちに、実際に音符は追えるよういなってしまったのだから、やっぱり指導者というのはすごい。

レイコ先生も、かっこよくてブレない。そして、著者はいつしか、人間の感動はどこからやってくるのだろうと考える。魂とは。魂が震える、とは? 

またレイコ先生に接することで、著者は「ピアノの先生」という存在を、今まではプロのピアニストになれなかった人生の敗北者と見ていたことに気づき、一人反省もしたりする。

そうなのだ。この音楽の前ではすべてのことがちっっちぇーのだ! 一人一人の人生なんて、ちっちぇーちっちぇー。それよりも、その人がどんなに真剣に音楽と向き合えたか。そこが重要なのだ。

そして初めてグランドピアノに触れた時の感動たるや! 私ももっぱら基本アップライトでグランドピアノを弾いた経験はほとんどないので、この感動には震えてしまった。(私のリアル体験では、はじめてグランドピアノで「リフレクションズ」(作曲:日向敏文)を弾いた時の音の響きはすごかった。思わずのけぞってしまった。本当に音ってすごい)

そういったエピソードがこの本に本当に真っ直ぐに素直に描かれている。この本はピアノ愛の本だ。いやーー たいしたもんだ。

そして著者がピアノを習っている様子を読みながら、私も自分のピアノの「自己流レッスン」の欠点が見えてきた。私は「曲を仕上げること」を至上目的としているため、弾けないうちからすべてを通して何度でも練習するスタイルをとっているのだが、これには問題がたくさんあるようだ。。

間違いながらも、めちゃくちゃに弾きながら、曲が少しずつ形を作っていくのを待つわけなのだが、これはあまりよくないことがわかった。

レイコ先生のおっしゃるとおり、そのやり方だと弾けたところはどんどん上手くなる。が、それ以外が追いついていかなくなる。やっぱり右手で練習、左手で練習、その後、両方をあわせてみる…といったような分解術を少しずつ繰り返すのが実際はかなりの近道だということ。

なるほどなぁ。分解ねぇ。それ、吉原先生も言ってたよなぁ。

が、私がこれらの「指導」を守るかは疑問。だって、私にとっては、早く上手くならなくてもいいから、弾いている瞬間、その時その時が、最高に楽しいのが大事なので。だからついつい無理やりでも通して弾いちゃう。

でもレイコ先生の「できない部分はそこだけ抽出して練習」というのは、一応頭にいれておこうとは思う。ふむ。

そして楽譜の読み方。そうか、なぜ上がト音記号で下がヘ音記号なのかも、わたしよくわかってなかったよ。なるほどねぇー

そしてネタバレに近くなるけど、本の最後は発表会だ。これが、またもや最高に面白い。実は自分の下手くそストリートピアノ動画をアップしているように、私には「人前でやるのには下手すぎる」とか「恥ずかしい」という気持ちがまったくない。

そういう考えのもとで、楽しい思いをすることを逃しているのなら、そちらの方がよっぽど悲劇だとさえ思う。

私の強みは「ピアノが上手い」ことではない。「ピアノ弾けなくても、べつに楽しけりゃいいじゃん」と開き直れるところにある。そこが私の長所だ。(どんだけ自己肯定感強いんじゃい…すごいな、自分)

でも鈴木さんのガチガチぶりは本当に可哀想なほどだし、レイコ先生の言う大人は大抵失敗する、というのもなんかわからないではない。「最初はほぼ全員しどろもどろになる。大人は大半がまちがえます。無事故の人はいないわね」とはレイコ先生のお言葉。

本の最後にはYou Can Danceというサイトで、鈴木さんの演奏が動画で見られるURLが掲載されていた。布団の中で読んでいたのだけど、これは見たいと携帯をかざしてみるも、URLはもう切れてしまっているようで、動画が見られない。

それでも諦めきれずに検索を続けたら、あった! こんな動画が!  You Tubeに!


 鈴木さん、うまいではないですか! なんか私は全然十分なような気がした。

それにしてもピアノっていいよなぁ。最近は、官房長官のLet it beの動画も、マイブームである。政治家がLet it beじゃダメでしょ…と思いつつ、政権にイラッとした時に見てしまう。歌もうまい。音楽ってやばいよなぁ。すべてを洗脳する力がある。

さーて、私もピアノの練習しよっと。


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