これは最高にバカな1冊。超おすすめ!!!「みんなバーに帰る」を読みました。

いやー 笑った、笑った。この本は最高に面白かった。こんなに面白い本は本当に久しぶりである。もう超おすすめ。こんなに自信を持って人に薦められる本も本当に久しぶり。

本当にどうしようもない、最低最悪の人たちが吹き溜まる、ハリウッドの片隅のバーの物語である。まさにこの帯キャッチに嘘なし。泥酔文学の金字塔。翻訳家の茂木健さんの翻訳が最高に素晴らしい。っていうか、茂木さんを知る人なら分かると思うが、まるで茂木さんがそのまま書いているようだ。テンポもよく、とにかくとにかく笑わせてくれる。海外文学の翻訳本にありがちなストレスはまったくない。

「きみ」という主人公を外から語って行くことで、だんだんバーの様子が浮き彫りになる。バーに集まる数々のヘンな人たち。みんな訳ありで、まともな人間など1人もいない。訳もふるっている。「子役さん」って現本では英語でなんて書いてあるんだろう(笑) どんな英語だったとしても、それを「子役さん」としてしまう茂木さんのセンスに爆笑してしまう。そしてある日、「きみ」の妻が家を出て行ってしまうことで「きみ」自身の堕落も始まる。そして気付けば…最低最悪。お酒とクスリで身体はボロボロ。生活はボロボロ。でも圧倒的につきはなした文体がめちゃくちゃドライなので、読者に同情する隙間を与えない。そして最後まで主人公に名前はない。

まったく投げやりな話で、まるで同情も出来ない話なのだが、めちゃくちゃ面白い。声を出して笑ったり、「何これ、さいてー」とか何度爆笑したことか。特にグランドキャニオンでのブルーベリーのシーンは……(以下自粛)

あーあ!! まったくどうしようもない。そして最後は犯罪に手を染める主人公。でもドキドキしながらも、最後はあっけなくストンと終わってしまう。もっと読んでいたいとも思ったり、これで充分かな、とも。でも、これまた茂木さんの最後の解説で妙に腑に落ちる。解説も必読ですよ。それにしても…お酒は人間が最低で最悪な存在だということを教えてくれるのだ。お酒自体には何の罪もない。

作者のパトリック・デウィットはカナダの生まれ,現在はアメリカ在住の40歳。最初デイヴィットというファミリーネームかとずっと思ってたが、デウィットが正しく、deWittと書く。パトリックというからにはアイリッシュ系なのかも。この本がデビュー作で、この本の後にリリースされブッカー賞の候補にもなった「シスターズ・ブラザーズ」は、日本ではこの本よりも前に翻訳が発売になり結構なヒットになっているそうである。分かる。これは面白いもの。こっちも茂木さんの翻訳だし、絶対に読まなくちゃ! 

それにしても。このデウィットと茂木の最高の組み合わせは、イシグロ/土屋組に匹敵する最高の組み合わせじゃなかろうか、と思うが、二人はどうやって出会ったんだろ。

大島豊さんは自分が翻訳するSF本とか自分で探して出版社に売り込むって言っていたけど、翻訳家でも本当にクリエイティブな人は、発注された仕事だけには留まっていない。さすがだと思う。この翻訳は茂木さん以外、ちょっと考えられない。茂木さんじゃなかったら、こんなに面白くないと思う。ホントにすごいよなぁ。この出会いが編集者のキャスティングだとしたら、これまたすごい編集者だと思う。奇跡みたいな完成度の本だ。必読!!!



PS
いや、ホント人間はどうしようもないですよ。ジェイムソンの方に罪はない…(爆)

Jameson Irish Whiskey "Lost Barrel" from anthony decarolis on Vimeo.