Master of Silence 静寂の巨匠…って感じ?

 ちょっといろいろあってネットではなかなか出てこない来年来日の某巨匠のバイオグラフィーを書くにあたり、資料としてアイルランド音楽関係の本を読みあさっていますが、そのうちの1冊がこれ。ずいぶん前に手にいれたやつ。手に入れた経緯とか、まったく不明だけど、時々調べることがあると出してくる本。
トラッドのミュージシャンはそれほど取り上げられてないのだけど、そこにマーティン&デニスがフィーチャーされてる。こんな写真も。


 タイトルがいいでしょ。













まぁ、なぜアルタンとマーティン&デニスかというと、この本かなりパーソナルな書き方をしている本で、おそらく筆者はあまり伝統音楽には精通しておらず(この本の中心はヴァンとかロリー・ギャラハーとかそっち方面)、ただ当時グリーンリネットというアメリカのレコード会社がパートで雇っていたパブリシストのエイミーと仲が良かったから、というのが理由っぽい。エイミーは現在でもマーティンのヨーロッパのマネージャーをしているが、今ではみんな彼女を離れ他のバンドはもう一切手がけていないと思う。年齢も結構上だと思うし、まぁ、もうマネージャーやとってうんぬんという時代ではないのだろうな。その彼女が当時力をいれていたのがアルタンでありマーティンだったわけ。ちなみにアルタンの方はフランキー・ケネディがなくなるあたりが中心で、このへんの話も興味深い。そっちの方もいずれアルタンがまた来日するときにでもご紹介できたらと思う。

マーティンの話はちょうどマーティンが2枚のアルバムをリリースし、その後「The Lonesome Touch」をリリースするあたりに渡っている。

「アイルランド音楽がまだ行き着いていないところを目指しているんだ」とマーティン。「デニスの代わりのギタリストは絶対に見つからない」と。

マーティンとデニスはシカゴで80年代の中頃であったのだという。ちょうど二人は道を隔ててあまり遠くない位置に住んでいた。時々パブで出会いはしたが、実際に一緒にやってみようということになったとき住所を交換し、はじめて「こんなに近所だったんだ」と気づいたのだという。マーティンは最初アメリカに渡った時、あまり強い意志はなかったそう。「食べて行くために仕事をしなくちゃいけないんだけど、音楽でプロになろうとは思わなかった。ただ演奏を続けるに充分な時間が得られる仕事がいいな、とは思っていた。だから実際ビジネススクールで勉強もしたりしたんだよ。でもあんまり仕事がうまくいかなくなったとき、音楽でお金を得ようと思いついたんだ。そして偶然にもプロフェッショナルな音楽家になってしまった」

アメリカでウェデイングやイベント、アイリッシュパブなどで営業演奏をしながら、デニスと出会ったマーティンはデニスを含む数人のメンバーと一緒にミッドナイトコートというバンドを始めた。マーティンいわくそれは「ムーヴィングハーツみたいなんだけど、すごくロックですごいエネルギー、すごいスピードで、unapologetic…弁解なしの徹底的なアイリッシュミュージック…もしこれをアイリッシュミュージックと呼んで良いならば、だ(笑)」「曲はアイルランドの伝統音楽だったけど、マハビシュヌ・オーケストラみたいなジャズロックを目指していた」

うーん、どんなだったか聞きたいですね。マーティンいわく「ホントにうるさい」らしいのですが、あの二人の音楽センスならそれほど悪くないものだったんじゃないかと想像するわけです。

レパートリーにもっとメインストリームなものを入れろというプレッシャーに耐えかねて1991年にこのバンドは解散。おそらく活動が営業中心だったんでしょうね… そこでマーティンは自分のファーストアルバムの制作に取りかかる。

「もうホントにバンドで疲れてたから、ゆったり演奏する必要があったんだよ。ミッドナイトコートでの経験は、僕の耳を開かせてくれたし、もっと客観的に音楽に向かいあえるように導いてくれたと思う。だから実際の影響は(ミッドナイトコートを聞いても)分からないだろうけど、ああいうバンドを経験したという事は僕が伝統音楽を演奏する上で非常に影響が大きい」

実際マーティンはこのファーストが結構売れたことにびっくりしたという。彼の演奏はすごくゆったりと優しく、なんのギミックもなく、商業主義とはかけ離れていた。デニスはこの最初のマーティンのソロ2枚には参加していないものの、ライブ活動ではマーティンと行動をともにしていた。

マーティンのフィドルは歴代のアイルランドの巨匠プレイヤーたちの他にも、同時代のフランキー・ギャヴィン(デ・ダナン)と一緒で、ステファン・グラッペリの影響が大きい。

「僕は(彼等の演奏の中に)これだというスタイルや定義を見つけることはできなかったが、そこには間違いなくオーラと表現があり、それが僕を魅了し続けたんだ。僕はその音楽の中にある発展と展開に興味がある。それらは触れることのできないフィーリングだ。その音楽の中にある気持ちと魂ということだ。彼等のイントネーション、音色やテクニックは素晴らしいものではないかもしれないが、そういった気持ちや魂を持ち込もうと。消費して消してしまってはいけない、ということだ。

たぶん僕とデニスがコンサートで演奏する音楽は、音符の数にすると他の人の公演に追いつくのに5回分演奏しないといけないと思うよ。でも最終的には魂と精神の問題なんだ。僕らは決して何か新しいことをしているわけではない。単に音楽を自由にさせてやる、それだけだ」

当時からいい事言ってますね、マーティン。

すっげーーーライブ音源。珍しくデニスのギターからはじまってますが、圧巻。アンコールかなんかかな。最後は例のパッヘルベル。ホント早く来ないかね。あと1ケ月ちょっと。公演の詳細はここ。申込フォームはここ。よろしくお願いいたします〜



*ちなみにこれ、よく聴いたらLIVE IN SEATTLEの音源ですね。27分ヴァージョンはここ。