「アイルランドを知れば日本がわかる」を読みました


こちらも「積ん読」の山から。いつに買った本だろ。元アイルランド在住日本大使によるアイルランドをお褒め満載のエッセイ。

なかなかの内容ですが、ちょうどケルティック・タイガーが盛り上がりつつも不動産バブルは崩壊しつつある…という微妙な時期に書かれたらしく、このあとアイルランドは世紀の不景気になるわけで、タイミングがあまりに良くない本。資源小国なのに、経済うんぬんとか褒めてるけど、でも結局この国はバブル崩壊しちゃったんですけど… 。

それにしても日本の外交官というものは、貧しい発展途上国や紛争地域にいるような大使ならともかく、普段はパーティ三昧でニコニコ昼間からワインを傾けていればいいんじゃねぇかくらいに思ってた。その印象はこの本を読んだくらいじゃ払拭されなかったけど、それでも大使ならではの面白いエピソードがちょっとだけ披露されており,そっちの方が面白い。

例えば古いアイルランドの政治家が日本大使館主催のパーティにやってきて、昼間からウィスキーを所望されたが、準備がなく、あわてて、職員の奥さんが近所の酒屋に買いに走った…とか。シェイマス・ヒーニーと連絡がうまくとれずすれ違ってしまい、それでも向こうから丁寧な謝罪の手紙が来た、とか…。あとやっぱり日本はヨーロッパの中では「あの憎っくきロシアを一度はやっつけた勇敢な国」という評価が結構根強いから、ユリシーズの朗読会の時,持ち回りを考えるに当たって、その部分を朗読しようと思ったけれど、ロシア大使も同席してるだろうから、それは辞めておいた…とか。そういう外交官ならではの小さなエピソードの方がなんか笑えた。

またゲーリック・フットボールのスタジアムは長いあいだイングランドには貸さなかったが、ついに六カ国対抗でイングランド・チームを迎えることになり、God save the queenが歌われたこと。それについていろいろ議論はあったものの、当日はヤジも1つも飛ばず、誰もちゃちゃを入れる者もおらず、皆,厳粛な気持ちで歌にのぞんだこと…それが日本にはニュースとして流れなかったけど、自分が連絡をとった小さな新聞1紙だけがロンドンから特派員を派遣して載せてくれたこと、など。また日韓の関係を、イングランド/アイルランドの関係と比較したりして、多くの学ぶべき事があることを指摘している。このヘンの下りはすごく良かった。

よく勘違いされるが、アイルランドもイングランド側も、ホントに努力をしてきている。この本でも女王のアイルランド訪問や大統領の英国訪問がのぞまれる、と書かれているが、それはつい最近実現したわけだ。そこに至るまで、二国間とも、ものすごい努力してきたと思う。テロリストや一部の連中が何かをしたとしても、国民は怒りを変な方向に向けることはなく、「もう和解しかゴールはないのだ」という強い前提のもとに努力をしてきた。テロリストのアタックに戦争で返すのはイスラエルとアメリカさ。そして二国間の和解とは、やられた側の方が一定の納得感や精神的浄化を得て、はじめて実現されるものだ、ということなどが丁寧に書かれている。このへんの下りはなかなか充実した内容だ。

非常に読みやすいし、分かりやすく導入部分を用いて、なんとかアイルランドに興味を持ってもらおうという努力も見られて、好感がもてた。古い映画のシーンやら何やらを持ち出して分りやすく導入するところとか…。

でも「Once〜ダブリンの街角で」を「男女のラブロマンス」なんて説明してるようじゃ、オヤジ…全然分かってねぇな、と思わずにはいられないのである。

また音楽については勉強が足りないのか、自信がなかったのか「ケルト音楽とは何かということについては論議があるが」の一言で終わり。伝統音楽についても当然言及されておらず、この人が大使だった時期も、ウチのミュージシャンも多数、日本大使館にビザをもらいに行っていたのだろうに、ちょっと悔しく思う(笑)



ちなみに「Once」は「男女の【友情】」そして「ダブリンの町の優しさ」がテーマの映画である。あれはロマンスではない。おっさんはダメだな。今度、オレが解説してやる(笑)