読んだわ…ついに読んだ。映画「ノー・カントリー」の原作者としても有名なコーマック・マッカーシーの作品。角幡唯介さんが「アグルーカの行方」を書くきかっけとなった本だと言って紹介していた名著。いや〜、すごい本でした。なるほどね。これ極地探検とすごくテンションが似ている。一歩間違うと死んでしまう世界。人間の根源を問う、突き詰められた世界。なるほどね。こういうテンションの本をノン・フィクションで書きたかったと言っていた角幡さんの話を、今、やっと理解した。これは、なるほどチェリー・ガラードの「世界最悪の旅」にも良く似たテンションだ。
理由は分からない(物語の中では最後まで、その理由は明らかにされない)けど、荒廃した世界を彷徨うことになった親子の物語。世界は核爆発だか、地球が隕石にぶつかったかで、とにかくものすごいダメージをくらたらしく、すべては消滅。あるのは灰色に焼けこげた空間だけ。太陽も輝かない。植物もなければ、動物もみな死に絶え、当然食べ物もなく、親子はショッピングカートに持てるだけの荷物を積み、南へと向う。(この絵づらが「子連れ狼」に似ている、と解説にあったが、なるほど、と思う)寒い冬をなんとかしのぐためだ。世界はすでに大変な混乱で、生き残っている者は、ほとんどいない。数すくない生き残るものは略奪、殺人,時にはカニバリズムに走るまでして、なんとか生きのびようとしている。
親子はそれこそひからびた死体から、並べられた首やら、子供を食べる大人たちやら、ひどいシーンに遭遇する。
そんな最悪の状況下で、心に残るのは子供のピュアさだ。人とすれ違うたびに、自分より弱い相手であれば「どうして助けてあげられないの?」「どうして食べ物を分けてあげないの?」と父親に問う。父親はなんとか説明をする。餓えに苦しみ、もう駄目だ…と思うと昔の缶詰などが貯蔵さ家などを発見し、なんとか生き延びる。
ちなみに「さわやかな読後」とかそういうのは、そういうものはまったく期待できない。ずっしり重い、それだけの小説だ。最後の文章が重く心に残る。
「かつて山の渓流には川鱒が棲んでいた。琥珀色の流れの中で縁の白いひれを柔らかく波打たせている姿を見ることができた」
「川鱒が棲んでいた深い谷間ではすべてのものが人間より古い存在でありそれらは神秘の歌を静かに口ずさんでいたのだった」
とにかくすごい本だ。何度か読めば、そのたびに印象は変わるかもしれない。ほんとに重い、すごい世界を見せてもらったという気がする。ちなみにYou Tubeでちょっと検索したら、映画の方も出て来た。字幕はないけど簡単に見ることが出来る。
PS
妙な話だけどこんな世界に憧れる気持ちもないわけではない。なんか根源的な人間力が試されるというか、なんというか…。そして、こういう世界って、もしかしたらかなり近未来に本当に来るんじゃないか…とも思ったり。いずれにしても今ある世界が当たり前と思ったら大変なことだ。高度に進化した文明。それはもう行き過ぎたほどに…