ICE STATION講座 第1回:畔柳ユキさん(1)

さて、このあとICE STATIONの開催まで、出演ミュージシャンについてあれこれ勉強する講座みたいなシリーズをこのブログで掲載していきたいと思います。来日するのは皆さん大変なキャリアの方々。

これから連載していくシリーズは、普段ありとあらゆる音楽を聞いている皆さんなら当然の話ばかりかもしれませんが、昔の事を思い出したり、新たな発見でもあればICE STATIONのコンサートがより楽しくなるのではないかと思いますし、私も自分の周りにいるロックの達人の皆さんのお話を聞きつつ、勉強して行きたいと思っていますので、おつきあいのほどを。

まず第1回の今日はシアトルからやってくるカート・ブロック。今回来日するアメリカ人全員「音楽大好き、好きだから演奏する」って人たちばかりだということに疑いの余地はないのですが、カートのいたファストバックスは、まさにその代表格みたいなグループ。

結成は79年ごろで、カートと2人の女性メンバーからなるトリオ編成でした。ドラマーが変則的で、一時はガンズ・アンド・ローゼズのダフ・マッケイガン(現在はベーシスト)が参加していた時代もあります(その時代のレコーディングは残っていないそう)

かっこいい!  そしてめっちゃポップ。

90年代シアトルでSUB POPからレコードをリリースしていたバンドの割には一連の「グランジ」というより、ポップ・パンクみたいな位置にいたらしい。

まぁ,確かにめちゃくちゃキャッチーです。そしてカート先生、めちゃくちゃ楽しそうにギター弾いています!


というわけで、このヘンのシアトル/西海岸界隈のお話を畔柳ユキさんにうかがいました。ユキさんは皆さんご存知のとおり有名なロック・フォトグラファー。東京ドームで行なわれるコンサートにドデカいズーム・レンズのついたカメラを背負った女性カメラマンがいるとしたら、だいたいそれはユキさん。フジロックにも毎回参戦し、その勇姿はいつもフォトピットの中に見つけることができます。そしてもちろん皆さんご存知だと思うけど、ラモーンズ・ファンクラブ・ジャパンの会長でもある。(ファン・クラブは今年25周年!)90年代、ユキさんはニューヨークに住んでいた時期があり、仲間のバンドを訪ねて時々西海岸にも通っていたとか。そんなユキさんのお話なので、現場感がとにかくすごい!

ユキさんによれば、ラモーンズからスタートしたパンクは、80年代を経て一時のブームが終わったあと、イギリスとアメリカでは違う動きで、まったく新しいジャンルとして変化し根付いていったそう。特にシアトルはのちにグランジ発祥の地と言われるようになり、90年代は良いバンドをたくさん排出するようになっていった。ユキさんの友達のポートランド在住のバンドなどは「オレたちもシアトルに生まれていれば良かった!」と言っていたくらい。そのくらいシアトルには良いバンドがたくさん存在していたそうなのです。

で、なぜシアトルが盛り上がっていたかというと、理由は単純。SUB POPというレーベルがあったからで、このレーベルに多くのバンドはデモテープを送り、なんとか拾ってもらおうとやっきになっていたらしい。

再びユキさん「ファストバックス聴いてくれれば分かるように、SUB POPにいるバンドたちは、ストレートなポップ・パンクで、昔のロンドン・パンクのような音じゃない。サウンドが歪んでたりもするけど、音はストレート。それでもインディーズで思想もあったから一癖も二癖もあるバンドがたくさん存在していた」


特にファストバックスはメンバーの1人、キムが実際にSUB POPで実際に働いてたので、ちょっと他のバンドとは立ち場が違っていたようです。

ユキさん「インディーズでもひと時代を作った良質のレーベルだから、バンドやっているヤツが自然とオフィスに1人か2人いるのよね。そんなバンドだから、ファストバックスは、他のバンドからは一目置かれていた。メンバーにSUB POPで働いている人がいるという理由で、そこそこ良いんじゃないかと皆思っていたし、“SUB POPのスタッフが作ったバンド”という意味では単にリリースされましたというバンドとは、立ち位置がだいぶ違っていた。“分かってる奴がやっているバンドだぞ”みたいな。それがファストバックス」

それにしてもユキさんは、さすがこの時はアメリカ在住だっただけあって、時代をそのまま体験している。例えばL7という女性バンド(from LA)とは大の仲良しだったそうで、いろいろ楽しい思い出もあるようです。L7はイギリスのテレビ番組でパンツおろしちゃう!みたいな超過激な女性バンド。


再びユキさん「(L7に代表されるように)反体制だし思想が明確だった。で、そのあとにRiot Grrrl(ライオット・ガール)というフェミニズムやジェンダー・フリーを掲げたムーヴメントも起きたのね。女性が頑張っていた時代とも言えるかも。そういえば、ファストバックスも女性メンバーが2人いたりするから、そういう意味でも注目されていたね」


「アメリカには、そういうムーヴメントがあったのね。野崎さんとこのレーベルでも同じだと思うけど、レーベルは1つ。でも音はそれぞれ違う、だけど,何となくメンタリティは一緒、ってあるでしょう? そういう感じ。みんな権威とか大嫌い!みたいなスタンスだった」

第2回に続く…

ICE STATIONは、カート・ブロック他、アメリカのインディロックを代表するミュージシャンたちが集結します。

featuring ピーター・バック、スコット・マッコイ、マイク・ミルズ、リンダ・ピットモン、スティーヴ・ウイン、ナヌーク

2月7日(火)京都 磔磔
2月9日(木)渋谷 WWW
2月10日(金)渋谷 WWW
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