早見和真『ラストインタビュー 藤島ジュリー景子との47時間』を読みましたが…


なんかいたたまれない。レビューを書くべきかどうか悩んだけど、記録に書いておく。そもそもこういう本が出て、それをお金を出して買うという自分がやってしまったことの意味を考えるととても痛い。でも書きます。

まずはノンフィクションとしての、冷静な分析から書く。(なんか偉そうだな、私)

さすが売れっ子作家さんということで、文章はするする読みやすい。でもノンフィクションを書くのに慣れてないのか、これは流し仕事でいいと思ったのか、ノンフィクションとしてのパンチがないと思った。

というか、本にするならもっと追求すべきだろう。インタビュアーとしての切り込みがまったく弱い。

ただ後書きの部分を読んでも、この著者さんもこういう本を書くリスクということは、ご本人も理解しているようだし、かなり複雑な心境のようだ。そりゃあそうだろう。被害者の人はたくさんいるわけだから。うーむ。

SMAPの解散の裏話は、この本の中でもっとも面白い場所だったけれど、それについては鈴木おさむさんの「フィクション」の方が圧倒的に良かったし。あれはなんというかぐいぐい読ませる、すごくいい本だった。本の印税もどこかに寄付してたし。

しかしこういう本を出す時の、周りのアドバイスはなかったのかなと思う。かつ私だって、自分をしっかり、自分自身をしっかり持たないとこういう間違い?は起こすのかもな、とも思ったり、一刻早くいろいろなことを払拭しようと、こういう行動に出てしまうのは間違いない。

そもそも彼女は自分と娘にふりかかった、彼女としては「災難」としか理解していないことを払拭することにすべてが行き、被害者の人たちを助けようという努力がまったく持ってたりていない。まずは、そこだろう。

本としてのパンチがないのは、そもそもそれがあるからだ。加えて、そもそもジャニーズのいろんなことをよく知らないと、この本は楽しめない、という点もある。

私はSMAPのメンバーこそ、今は名前を全部言えるけど、漢字で正確に何も見ないで書けるかというとまったく自信はなく、嵐とTOKIOの区別もよくついいていない。

嵐はこういうバンド、TOKIOはこういうバンドとか、そういう前情報的なセクションもまったく、この本は書かれている。そこがまず自分とは合わなかった点。

加えて、何度も書いてしまうけど構成が工夫された形式もなく、単に日々のインタビューの書き起こしみたいな感じなので、バカな私は途中まで嵐のことをTOKIOだと思ってずっと読み進んでしまっていた。(バカすぎる)

なんか違うなと思って、Googleで画像検索してみたら私の頭に浮かんでいたグループはTOKIOで嵐ではなかった。

といいつつも、あっという間に2晩で読み終わってしまったのは、人間は卑しい好奇心にはあらがえないという私の弱さなんだろうか。

それにしても、芸能界のお嬢様の彼女でさえも「嵐は自分が育てた」という自負がものすごいんだなと思った。

この業界にはよくいる「あれオレ」話が、彼女にも見事に適用されている。そこに私は、自分と似たような何かを見つけて、震え上がる。怖すぎる。自分もそういう間違いをしてしまうかもしれない、と。

ジャニーズの本社には近づかったなかったという話が何度も出てきて強調されるのだけど、果たして、それが事実であったとしても、彼女の周辺がそれに納得するんだろうかと思う。周りはあきらかにジャニーズファミリーとしての彼女しか見ていないからだ。

彼女がジャニーズファミリーにいることは本当に明らかで、テレビ関係者の彼女への視線はあきらかに私みたいなコネなし宣伝ウーマンに対するそれとは違う。(なんでも自分に引き寄せて考える私も、なに様?って感じだよな。でもそれは同情とも違う、私の優しい部分だとも思う。もし、それが自分だったら…と)

芸能界のお嬢様という立場で、利益を享受し、桁違いの富を得てきた。そしてそれ以外の部分では世間知らずで、この状況にどうやって対応したらいいのかわからない、本当に彼女のことを考えてくれるブレインもいない、寂しい人だと言う印象を改めて強くした。

しかし、おそらく彼女の「あれオレ」はおそらく本人にとっては、とっても大事な部分で、同時に彼女としては、おそらくそこが弱点なのではないかと思った。

彼女を徹底的に痛めつけたいのなら、嵐の成功はお前がいなくてもありえたのだ…という文章を誰かが書けばいい。それは一発で彼女を精神的に殺す結果になるだろう。そういうこと考えちゃう、私も相当意地悪だ。

でも被害にあった子供たちは、そうやって精神的に殺され、その傷をずっと持って苦しみながら生きているのだ。

でも先日話をした「出来る後輩」のTによると「嵐は桁はずれで売れた」とのこと。私は、まったく知らないのだけど、そんなもんなのかとも思う。(これだからウチにはヒットがでない)

そして、よくよく街を見渡せば、ジャニーズに接しない日はない。街の広告、流れてくる音楽、ジャニーズは世の中を席巻している。テレビを見なくても、Everywhereだ。

それにしても、芸能界や音楽の「あれオレ」感は、とても危うい価値観であり、彼女の寂しさがそこに存在している。

そして本当の「悪」は、こんなふうに自覚がないのだな、というのも考えた。そもそも悪いことをする人というのは大半がそういう人たちだ。そこにも、ちょっと同情する。

それを思うにつけ、自分も自分が気づかない間に誰かに悪いことをしている可能性もあると思うと震え上がる。本当に自分の能力以上の力など、持たない方がいい。ろくな結果にならない。

とにかく買ってしまって、ちょっと後悔した本。本はどんな本でも買っても後悔しないもんだが、これは後悔した。早く中古として売ってしまおう。

この本の印税は彼女にはいかず、このライターさんに行くということなのだが、それも違うとも思った。

なによりこのライターさんにとっては、リスクが大きすぎるし、うそもそもこういう本を出す時は、ゴーストが聞き書きをし、印税はいったん集めて、すべて補償にあてるとか、子供に対する犯罪防止のNPOに寄付するとか、自分は受け取らず寄付という方が真っ当じゃないだろうか。

新潮社も、こんな本だして…。こういうとこだよなぁ、こういうとこ。

文庫とか結構持っているし、角幡さんの本とか出してくれてる編集者もいるから悪くは言いたくないのだけれど…

あ、あと妙に理解が進んだな、というのは彼女の母親であるメリーの存在。なんとなーく、エキセントリックな人だということは聞いていたけど、なるほどこういうことね、と妙に納得でき、かつキャラクターが鮮やかに浮かびあがってきたような気がした。

こういう高齢女性、いるよね。こっちも自分がこうならないように気をつけないとな、と思う。

それにしても不思議なのは、ジュリーとかメリーとかジャニーとか英語のミドルネームがあってアメリカに住んだりしている人たちの、バンドのメーミングのセンスというか、歌詞の英語のセンスとかが奇妙だということ。やっぱり理解できない世界ではある。


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