いや〜、すごい本でした。迫力の1冊。尊敬する郷原さんだけど、著作を読んだのは初めてだったかも。とにかく絶句の内容でした。『深層 起訴されれば99%超が有罪になる国で カルロス・ゴーンとの対話』を読みました。
郷原さんはテレビ番組やネットの番組でコメントを伺ってもいつも納得できて常識的で私は大ファンなのであるが、実は本はちゃんと読んだことがなかった。特にゴーン氏に興味があったわけではないけど、入国管理や外国人に対する日本のあり方、そしてもちろん元検察官である郷原さんが信念をもってつらぬいてらっしゃる検察のあり方を問うということについては興味があったので、一度ちゃんと読んでみようということにしたのだ。
検察の問題では村木厚子さんの著書でも読んでてブチ切れたことを思い出した。あれは本当にひどい話だった…
THE MUSIC PLANT Blog: 村木厚子「あきらめない」 https://t.co/UIMorY6jIn— 野崎洋子 (@mplantyoko) May 30, 2020
が、これも… 本当にひどい。こんなことが許されていいのか、という思いもあるが、本当にびっくりなのが検察があまりもちゃちいというか、甘いというのが、ものすごくやばいと思う。用意周到に練られた作戦で、誰にもわからないように隠しているならまだしも… これはあまりにも子供っぽいのではないか。例の黒川氏の賭博麻雀の話もそうだったけど、脇があまいというか… 脇ってのも違うなぁ…もう正面も甘いというか、そんなのありえないでしょう、みたいな暴走行為が許されているのだ。まったくもって信じられない。
まず最初から目鱗だったのは、おそらく私たち誰もが覚えているあのプライベートジェットに捜査員が乗り込んでゴーン氏が逮捕されたシーン。あの映像だけど、実はゴーン氏が逮捕されたのは、プライベートジェットの中ではないのだ。ターミナルに入って係員と通過した入国審査で急に呼び止められたのだという。あれ、そうだったっけ?とびっくり。まったく私もニュースをきちんと追いかけてないなぁ、と自分でも呆れるのだけど…。
とにかくすべてがありえない。そして私のような馬鹿な視聴者はあのプライベートジェットのシーンですっかり騙されてしまったのだった。(もっとも郷原さんの本によると、一応大きな新聞で、あのシーンはまったくの演出だったということが報道されたようだ。ただ私のように新聞読まない、テレビみないみたいな人間には、あのプライベートジェットの映像が強烈すぎて、他はちゃんと覚えてないというのが実情だ。ほんと馬鹿だよね)そしてゴーン氏の結婚式だというベルサイユ宮殿のシーンなどで「強欲な独裁者」というイメージをしっかり植え付けられてしまったわけだ。
ちなみにこのベルサイユ宮殿は単なる奥さんの誕生会で総額は3,000万ほどだったという。まぁ結構なお値段だけど世界的な自動車会社のトップならまぁまぁの値段でしょう。そしてどうやらそれが企業のメセナ行動と結びついていたようで、それで「会社の利権の私的利用」ということになったらしいのだけど、ルノーのメセナ活動は、この時だけではなく継続しておこなわれていたし、そもそもそんなもの社内で解決してほしいレベルの問題だ。ちなみにゴーン氏本人は請求書がなかったためいくらかかった等は知らなかったのだという。
そしてきちんとした説明もされないまま逮捕されるゴーン氏。5日くらいたって説明がやっとあったもののそれはまだ受け取ってさえいない報酬の申請に関する罪だったという。しかも8年同じことをしていたのにもかかわらず、1つの罪ではなく、直近の3年と、その前の5年とを分けて訴える検察の姑息さ(あっ、言っちゃった)にあきれる。そして、おそらくこの件は郷原さんいわく、ほぼ間違いなく「無罪になっただろう」とのこと。
そのあと延長のために持ち出された会社に損害を与えたという特別背任について中東の二つのルート(サウジアラビアとオマーン)について。これについては、無罪を取れたとしても最終決着するのに10年くらいかかったのではないだろうか、と郷原さんは説明する。うーん。ここに絶望してゴーン氏は逃亡したのであった。申し訳ないが逃亡は正しい決断だったと言わざるをえない。
この他いわゆる「フリンジベネフィット」(会社の車や住宅を私的に利用するとか、そういった行為にかかわる税金)も、まずは課税上の問題にすべきであり、それをいきなり「会社に不利益を与えた」と「不正」にしてしまうのもどうなのか、ということもある。
そして取り調べに弁護士のたちあいが許されていないという事実。とにかく推定無罪の原則がまるで守られていない。有罪率が99%という驚異的な国なのだ。「東電OL事件」でもあったとおり、無罪を訴える外国人にとって、日本は絶望的な国だと言わざるをえない。
それにしても、どうしてこういうことが起こったのだろう。日産が日本の会社でなくなってしまう可能性を恐れてうんぬんという説も浮上したらしいのだが、ゴーン氏本人はあくまで「持ち株会社」説を推していた。私はこういう話にはちっとも明るくないので、郷原さんがわかりやすく何度も説明してくれていても右から左へ理解がすべて流れていってしまうのであるが、いずれにしても私が得た印象だとゴーン氏は、日本のスタイルも尊重し、日本側のこともわかってくれる世界的なビジネスマンだったということだ。女性の役員不在の問題なども、そこここで話題にしてくれている。そして、とにかくすべての裏に経産相がいたのではないかというのは、否定できない。そして検察は、その経産相のまったくの操り人形だったのではないか、と。おそらく彼らは日本のブランドがフランスに売られてしまうと「勘違い」した。そして暴走した。
しかし実際一つ一つのニュースを吟味しておっていく時間がない一般人としては、時間をかけて1つの事件の真相・深層を知ることは難しい。そしてだいたい真実は複雑だし、いろんな側面があって理解が難しい。気になる事件があったら、ちゃんと書かれた本を読むべきだよなと思いつつも、とにかく時間がない。…ということを言い訳にすっかり騙されるわけだ。
そして日産は最新のニュースによれば、もう立ち直れないのではないかというくらい業績が悪化しているらしい。(コロナ禍というのもあるが、その前からダメダメだったらしい)
あ、そうそう、ゴーン氏による検察の印象について。「彼らはつまらないことで罪の意識を感じさせようとする」との話には申し訳ないけど笑った。ゴーン氏がモーターショウで来た日産カラーのスーツ。そのスーツを会社であてがわれ、それを着てイベントのぞんだ。検察に「そのあとそのスーツを着ましたか?」と尋ねられ、いわゆる舞台衣装だから、その後は着ていないと答えた。そしたらその検察官は「僕も若手に講義にいったりするが、組織からスーツは買ってもらっていない」と話すのだという。つ、つまんねーーーー!!(あっ、言っちゃった) まったくゴーン氏のいうとおり「いったい何が言いたいの?」だ。何百万人に見られるモーターショウのスーツと若手検察官への講義のためのスーツ。その違いを説明するのも疲れる、とゴーン氏は言う。ちょっと傲慢に聞こえるかもしれないが、これは重要なことだ。常識に欠けてるんじゃないの?(あっ、また言っちゃった)
私が子供のころ、「おっさんの世界は大人なんだなぁ」と思って社会を見ていたのだけど、自分が大人になって社会に出てみれば、結局は大人はみんなケチで汚い奴ばっか。そしてそれが巧妙に仕組まれてて「頭いいなぁ」となれば別だけど、あまりにもちゃちくて、子供っぽくて、まったくもって呆れる。仕事のできない奴ばっかじゃないか。たとえばゴーン氏もこの本で話しているのだが、拘置所での最初の夜。外国人をしょっぴいて無理やり連れてきたにもかからず英語を誰もしゃべらず誰とも会話ができなかった、とかちょっとありない。ゴーン氏は、まったく何も知らされず、西川さん率いるクーデーターうんぬんもフランス大使が訪ねてきてやっと知ったのだという。それが、それまでの日産がらみの弁護士を変えることを決心させたわけで、まさに危機一髪だったわけだ。それがなければ検察側はゴーン氏をまるめこみ、自白においこみ有罪にできる、と考えたのではないだろうか。あまりにもちゃちい。
あとクーデターの本丸と言われていた日産の西川(さいかわ)さんについては「上にはヘコヘコと媚びまくる単なるちっちぇー強欲ケチ親父」としか感想が出てこない。当然のことながら彼はとっとと失脚している。いずれにしてもこの件はこの本だけでは済まされないだろう。そのうちゴーン氏本人が書いた日本の警察の暴露本がリリースされることは間違いない。そして彼らのスボラぶりが全世界に配信される。まったくもってみっともないったらありゃしない。
そうそう郷原さんがご自身のYou Tubeでおっしゃってたんだけど、例えば先日「訓告」をうけた黒川さんは、同じ検察で同期だったから面識はあって本当にチャーミングな人あたりのいい、いい人だったんだって。なんか悲しくなるよな。なんかもうダメだな、この国は… しかし日本には検察の闇に挑もうと日々努力されている郷原さんもいる。江川紹子さんもそうだ。私たちはより良い未来のために努力をしていかなければならない。
あ、そうそう。ゴーン氏の言葉で印象に残ったもの「日本人の多くは人あたりがよく、厳しく振舞うのを遠慮する。一方、厳格で人にも自分にも要求がきつい人が起業家として成功する。ソニーやホンダの創業者などもそうだ。この人たちはお人好しではない。大企業の創設者は皆、タフガイ」
そして日本人に対して何かいいたいことは?と郷原さんに聞かれたゴーン氏の言葉「言われたことをそのまま信じるな、現実を見よ」
郷原氏は、そもそも根本的に日産の経営幹部たちがゴーン氏独裁の状況になることに協力し、それを利用してきたにもかかわらず、個人的な利害や感情を動機に会長追放クーデターという会社にとってはハードランディングである方法をとったことがそもそも問題だ、と指摘する。これが会社にとって良いことであるはずがない。一方でゴーン氏は日産を離れようと思えば離れられる立場にあった。同レベルかそれ以上の報酬も可能だった。それなのにそれをしなかった。ゴーン氏がライバル会社に引き抜かれることは絶対に避けたかった日産。勝手に誤解して、勝手に強いと思われる検察や経産相に踊らされ、こんなことして、いったい会社のことを考えていないのはどっちだろうか。これでいいのか、日本の正義?!