「バンドにエイド」アーティスト紹介:ザ・ゴサード・シスターズ

ゴサード姉妹たちはウチの一番新しいアーティストだ。シアトルの近くに住む、典型的ニューヨークに行ったことのない田舎に住むアメリカ人(爆)。可愛い三人姉妹だった。ツアーにはママが同行。パパも最後の1週間は合流し、家族で楽しい時間を過ごした。

このツアーは5週間におよぶすごい長いツアーだった。ウチの、自分のところ主催のツアーではなく民音さんのツアー。だから全国の巨大ホールを回れる。すばらしい。こんなに長いつあーは私も初めてだ。とても良い経験をさせてもらった。

子供のころは…  いや、この仕事を始めてしばらくたってからも、大きなホールでできるというのは小さいホールからスタートして少しずつ動員をのばしていくということなのだと思っていた。でも実際はそうじゃない。大きなホールのツアーは別のロジックで行われているのだ。それについてはくわしくは書かないが、つまりはそういうことだ。民音さんのツアーは、新しい音楽との出会いをもとめる会員さんたちによって応援されており、無名のアーティストながらたくさんの大きなホールを回ることができる。

ツアー中、確か4、5泊連続して宿泊した大阪のホテルの前庭には「足湯」が設置してあって、彼女たちは足湯が大好きだった。なんでも冒険するヨーロッパの連中に比べてアメリカ人はいろんな意味で保守的だ。まず食べ物。食べ物は自分が絶対に大丈夫というものしか食べない。最初私は「なんだ、つまんないなぁ」と思っていたが、よく考えればツアー中における彼女たちの非常にプロフェッショナルな習慣の一つなのだ。5週間の持久戦みたいなツアー。変なものを食べて体調をくずしたら、そこでツアーは大変なことになる。そりゃあツアー中いろんなものを経験するのは楽しいけど、でも余計な、お腹が慣れていないものは食べないという姿勢は彼女たちのプロフェッショナリズムの現れなのであった。最初は「つまんない」と思っていた私も、そういう彼女たちの態度を理解し感心したものだった。私なら食べたいもの、食べちゃうけどな(笑)

そして温泉。ツアーには私も行ったことのないような地方の街もあり、当然ながら温泉もあって、何回か「行ってみようよ」と促したが、ついに彼女たちが温泉を体験することはなかった。でも足湯なら大丈夫だろうと思い、某温泉街で足湯をやってみせたら、真似をして彼女たちも足をお湯につけた。それがたいそう気に入り、大阪のホテルの中庭にも足湯を発見して彼女たちは狂喜乱舞…となったわけだ。

特にこのホテルには数日後にホリディでやってくるお父さんも合流することになっていたから「パパにも足湯を体験させてあげられる」と末っ子のソラナが、涙ぐんで喜んでいたのが忘れられない。ソラナ。まじで心が綺麗な、素敵な子だった。

三姉妹ってのがいいよね。長女のグレタは素晴らしいリーダーでしっかりしてて意志が強い。このバンドを引っ張って行こうという気概にあふれている。私とマネジメントやプロモーションに関する話をするのが好きで…   というか、自分たちでマネジメントもやっているので、そういうことを普段喋ったり相談したりできる相手がいないのかもしれない。私が話す他のバンドの話やマネジメントのやり方などすごく興味を持って聞き、いろんなことを質問された。私もあーでもない、こーでもないと仕事の話をするのは好きなので、前向きにがんばる彼女との会話は大好きだ。気がつくとツアー中はいつもグレタの隣に座りグレタとしゃべっていた。グレタは明るくてしっかりもので、頼れるお姉ちゃんだ。ツアーが終わってしまって、実は一番恋しいのは彼女との会話だ。本当に頭がよくて、うんと年上の私だが話していてすごく刺激になった。

次女のウィローは、お姉ちゃんに負けずと頑張る努力家だ。音楽もすごくよく聞いてる。ブライアン・フィネガンの大ファンで、まじで好きらしくフルックのことをあれやこれやよく聞かれた。いつかフルックと一緒に演奏させてあげたいなぁ。ウィローも本当に素晴らしい頭のいい女性だ。ツアーをしていない時の海外とのコレスポンデンスはウィローが担当で、いつも私にメールをよこすのはウィローだった。そしていつも内容が的確でしっかりしていた。バルトロメイ・ビットマンのところでも書いたけど、実は彼女たちも空港で「はじめまして」のアーティストだったんだけど、でもメールの調子ですぐわかった。彼女たちはものすごくしっかりした子たちだなって。これなら大丈夫だ、と。一方で、どんなに身近に親しくしていても「こいつとは仕事はできん」と思うミュージシャンも山ほどいる。

三女のソラナは体も一番ちっちゃくて可愛くて、本当に天使みたいな子だった。何も…なーんにーも邪念がない。しっかり者のお姉ちゃんに囲まれて、すごくピュアな自分でずっといられたんだと思う。とにかく本当に綺麗な子だ。純粋培養みたいなところもある。音楽に対してとても真面目で、おそらくミュージシャンとしての気概は三人の中で一番あるんじゃないかと思う。末っ子だけど負けてられない、って思っているのかもしれない。歌は彼女がほとんどリードヴォーカルなので、自分の体調には人一倍気を使っている様子だった。そして面白いことにステージの機材関係のこととかも、彼女が実は一番詳しい。逆にお姉ちゃんはそういうことは妹にまかせておおらかな感じでいる。あのバランスとチームワークが素晴らしいんだよなぁ。

それにしてもアメリカ人とこんなに親しくなったのは初めてかもしれない。もちろん今まで一緒に仕事したアメリカ人は多数いたけど、ツアーでこんなに長くいたのは初めてだ。私は長いツアーが大嫌いで日本人で「ホール60箇所」とかやる人、信じられなーいとかよく言っていたのだが、彼女たちやチーフタンズみたいなプロフェッショナルな人たちとなら3ヶ月ツアーしても構わない。本当にプロの現場は気持ちがいい。

それにしても、どうしたらこんなにいい子たちが育つんだろうと思ってお母さんに子育ての秘訣を聞いたのだがわからない。でも彼女たち実は学校には行ったことがないので(アメリカにはホームスクールという制度がある)、そこがポイントなのかもしれないと思う。確かに会社勤めしたりしない限りは、ホームスクールの方がいいのかもしれない。余計な団体行動などもサークルや習いごとなどで体験できるんだし…


好きな食べ物。グレタはキノコ類が好きなのでマッシュルーム・ゴサード、ウィローはエビが好きなのでシュリンプ・ゴサード、ソラナはワサビが好きなのでワサビ・ゴサードと呼ばれているのであった。

彼女たちがくれた手作りカード。こういうの、涙出ちゃうよね。



きゃぁー ここは天国かしら!? 100円ショップが大好き。

嵐山は絶対に行きたいと思っていた場所のひとつ。よかったね。



カバンもリュックもみんなお揃いなのよね。黒いカバンにみんなそれぞれの色のリボンがついている。「みんなのリュックいいなぁ、ポケットとかすごくプラクティカルなのね」と感心していたいた、帰国後私にもお母さんが同じものを送ってくれた。ヨーコ・ゴサードも次回はお揃いのリュックでツアーします!!


ママ・ゴサード。ツアーは一番慣れてない感じなのだけど(すぐあれこれ細かいことを忘れちゃう)、ご飯食べてる時とか「ヨーコ、これも食べなさい、あれも食べなさい」とか気をつかってくれるのはやっぱりお母さんなのよね。


後ろでグレタが万歳しているのが笑える。


お寿司が大好き。でも頼むのはいつも「かっぱまき」「かんぴょうまき」「おしんこまき」。生魚は基本的に食べない。エビ好きのウィローも、エビのボイルしたやつも、ツアーが終わりに近くまで食べなかった。


大きなツアーだから全国を回るスタッフも10人くらい。そこに時々照明担当で現地スタッフも加わる。三姉妹はスタッフのみんなの評判がすごく良く、彼女たちも日本側のスタッフはクールで素晴らしいって感動してた。つないだ私はもう鼻が高かったよ。お世話になった大塚さんと。ありがとう、大塚組の皆さん。また一緒にツアーしましょうね!!



でもツアー中、大抵は朝が超早いスタッフさんとは移動もご飯も別々。

下の写真は公演後に行ったうどん屋さん。うどんはあんまり好きじゃなかったみたいだった。彼女たちが圧倒的に好きなのはラーメン。特に家系が好きみたいだった。それ、糖分、脂分、塩分すごいんだよと言ったんだけど、日本のものだからヘルシーだって思っているのかな… 私は一生食べる分のラーメンを食べて、けっこうげっそりだった。ツアー終わりにみんながくれたカードには「ラーメンばっか食べてごめんなさい」と書いてあった(笑) 私がいやいや付き合ってるのがバレてた…


ステージの演出。彼女たちの子供のころの写真を流そう、と言ったのは自慢しちゃうけど私のアイディア。三人が小さなヴァイオリンを持っている写真とか絶対にあるだろうから、って。

写真も送られてきたのだけど、よかったのはグレタが編集したビデオ(っていうか、そうよね、彼女たちの年齢だったら子供のころのビデオもあるわよね・笑)。この曲を演奏してる時、スクリーンに映る子供時代の彼女たちの姿を見て、最前列に座ったおばちゃんたちがポロポロ泣いているのがステージ袖からも見えた。こういう大きなステージは、こういう演出ができるからいいんだよなぁ。



それにしても不思議な縁で知り合った彼女たち。

実は彼女たちから最初売り込みのメールをもらった時、うーん、これはウチの事務所では難しいかなと思った。うちのミュージシャンは小さなライブの積み重ねとCDの完成度で売っていくのが常だったから。なので、そのまま「聞かせていただきました。あなたたちの音楽は素晴らしいとは思いますが…」みたいな定型文を返信しようとして、ふと思い留まり民音さんならこういうのいいかもと思い民音さんにプレゼンしてみたのだ。

民音さんからは前からケルトの何かを売り込んでほしいとは言われていたし、女の子バンドというのも受けが良さそうだった。しかもたった三人でステージができる。演奏、歌、ダンスとなんでもある。

というか、仕事を長く続ける時、同じカードを何枚も持っていても広がらないのだ。違うカードを持たないと。これってかなり大事。

そんなわけで、彼女たちとの交信が具体的に始まったのだが、彼女たちは本当に協力的だった。これなら絶対に大丈夫だと確信したのは、コミュニケーションの初期の段階で、ウィローから言われた言葉だった。「私たちはあなたがいつもプロモーションしているような本格的な伝統音楽のバンドではありません。その場でリールだジグだとぱっと演奏できる才能は私たちにはない。私たちはあくまで練習するバンドなんだ。だから練習する時間が必要。日本の曲も演奏できるし歌うけど、時間が必要」とウィローははっきり言った。このプロフェッショナリズムを見よ。こういうことをはっきり先方に伝えることができる、というのは、ものすごく重要なのだ。私は「これなら信じられる」と確信した。

あと楽器についても「ヴァイオリン」と書け、私たちが演奏しているのはフィドルではない、と。「私は鈴木メソードで音楽を習った」だから「フィドルではない」と。うーん、しっかりしている!! っていうか自分たちの立場を本当によくわきまえているよね。

ところで、ちなみにこれが民音さんを説得した時に使った映像。よくできてるでしょ?


それにしても、そういう彼女たちと接していて、なにか私はこれがケルトなんだ、というものを自分なりに掴んだ気がした。彼女たちの祖先はスコットランドや北欧から来ているらしいのだが、彼女たちは特にそれによってアイルランドの音楽に興味をもったわけではない。そういうことはあまりこのバンドの場合、関係ないのだ。実は彼女たちは「リバーダンス」を見て感動し、あぁいう音楽をやってみたいということで、この道に進んだのだそうだ。つまり90年代のあの素晴らしいアイルランド音楽、それに惹かれて自分たちもやってみた。

90年代のアイルランド音楽は本当に素晴らしかった。当時日本でもアイルランドやケルト音楽を演奏する音楽家たちがぐっと増えた時期だ。

実際ポーランドの伝統音楽シーンもそうだし、たぶんどんな伝統文化においてもそうだと思うけど、今や伝統は「外からきた」「これを素晴らしいと思い自ら選んだ」人たちにより、その存在が支えられている。もう親がどうとか、親戚がどうとか、どこの生まれなのだとか、そういうことはあまり関係ないのだ。そうやって「これがかっこいい」「これでなくちゃダメ」と「自らその文化を選んだもの」がそれを継承していくのだ。そうやって、海外にちらばったケルトの文化が、今、音楽でまた一つになろうとしている。今度は前よりももっと強固な形で。

自分は…というかTHE MUSIC PLANTは、今までいわゆる本格的な演奏をする楽器がうまい連中ばかりに入れ込んできた。でもその連中でこれだけのキャパシティの会場を一つにまとめることができるバンドがいるだろうか? こういう長いツアーをできるバンドがいるだろうか? 彼女たちほどお客さんに心を開いて演奏するバンドはいない。これこそがプロフェッショナル。彼女たちにとってはお客さんの満足度が自分の満足度なのだ。彼女たちと比較したら、うちの他のアーティストはみんな自分の好きな表現活動をしているにすぎない。もちろんそれはそれで大事なことなんだけどね。

それにしても民音さんのツアーでは、アイリッシュ・ミュージックをこんなにたくさんの人に聞いてもらえるということ自体、それだけで驚愕だった。ジグだ、リールだなんて、一般の人には普通わからないだろう。それを伝えることができた。なにせ分母の数が違う。民音さんと、民音のお客さん、本当にありがとうございました。

さてコロナ禍の今、彼女たちも、Patreonというシステムを使いオンラインでの活動を続けている。彼女たちにとってこれからがバンドの大事な時。すべてが早くノーマルに戻りますように。彼女たちの来日も実はすでにもう早くも次の計画が動きはじめている。なんとか決まりますように。でも決まったとしてもだいぶ先なんだけど(笑)

「バンドにエイド」に収録する曲の選択は、私が「スカボロ・フェアがいい」と押したのだった。彼女たちにとっても、だいぶ古いレコーディング(9年前)だから、彼女たちは新しい曲の方がいいと言ったけど、私はこれを押した。私はオリジナルで勝負するより、すでにみんなによく知られた曲で、彼女たちのアレンジのセンスがよく出ているこのトラックがいいと思ったんだよね。こういうアレンジはいわゆる生粋の伝統音楽家からは出てこない。クラシックの教育を受けたものでないと出てこないものなのだ。それを皆さんに聞いてもらいたかった。