「バンドにエイド」アーティスト紹介:ブー・ヒュワディーン Boo Hewerdine

さて今日から2週間、「バンドにエイド」参加アーティストの紹介をしたいと思います。

まずは1曲目のブー・ヒュワディーンから。ブーは、日本ではエディ・リーダーとの活動でもっともよく知られる英国のシンガー・ソングライター。ロンドン出身。長くケンブリッジに住んでいた。その後、新しい奥さんとイリーに引っ越し、今はグラスゴー在住。

エディのこの曲はブーが書いた。

この曲のエピソード。何度かここにも書いていることだが、改めてまた紹介すると、当時ブーはバスが通る大通りに面した家に住んでいて、自宅の2階の窓辺で生まれたばかりの赤ん坊をあやしていると、ダブルデッカーのバスの二階に乗った人たちが泣いている赤ん坊に向かって手を振ってくれていたそうで、それが歌い出しの「バスの窓から彼女は彼が手を振ってくれているのを見たと思った」みたいな歌詞になっている。もともとはブーのバンド、バイブルのための曲だった。

ところが当時LAでストレス満載のレコーディングをしたエディが「曲が足りない」と泣いてブーの自宅に電話をかけてきたそうで、そこでブーは寝起きの格好のまんま(ほぼパンツ一丁)電話に向かってこの曲を歌った。曲は大ヒットし、エディはこの曲で大きな賞をゲットしメインストリームに返り咲いた。

エディとブーって本当に仲良しだ。印象的だったのは、いつかブーが何かの都合で来日が出来なくなってブーなしのエディのコンサートを東京でやった時のこと。エディはこのヒット曲をふくむブーが書いた楽曲(かなりの数がある)を一切歌わなかった。ブーがステージにいないと、ブーの曲は歌えない、ということか。二人の音楽的な結びつきの強さを感じるエピソードだ。

ブーとエディ。六本木プリンス近くの喫茶店にて。20年近く前の写真かも? 

ブーって、不思議な人でウチでもっとも長い付き合いのあるアーティストの一人なんだけど最初はクライヴ・グレッグソンの友達ということで紹介されて知り合ったんだよね。クライヴが一切SNSをやらないので、結構疎遠になっちゃったのとは対照的にブーとは、なんだかいつも仲良しだと自分でも思う。そうそう、私の一人目のfacebook友はブーだった。ブーがこれ面白いよ、と誘ってくれたのだった。

自分のアーティストを友達と私は呼ばないが、ブーは友達だ。いろんな意味ですごくブーを近くに感じることがある。奴にならつい女友達にも話したこともないような自分の話をしてしまうことがある。本当に不思議な人だが、エディもブーのそういうところが好きなのかも。

それにしても懐かしい。一生懸命やればきっといつかは売れると信じていたあの頃。「売れる」ってそういうことじゃないって理解したのは、その20年後なのであった。

今回、この企画を思いついてブーを始め多くのアーティストにメールをしたら、ブーの返事は一番早かったと思う。ブーは、そのちょっと前からパトレオンを始めてて私もそれに参加していた。子供たちはもうそれぞれ独立したと思うけど、ブーもツアーがキャンセルになって大変そうだ。「CDを作るのはナイスなアイディアだ」と速攻で私のメールに返事してきた。ブーのメールはいつも早い。そしてだいたい1行くらいで、私とチャットみたいな応酬になる。

最初、私は収録曲は矢井田瞳さんがカバーした「Bell Book and Candle」がいいと主張したのだが、ブーは乗り気ではなかった。そもそも歌が古いし、新曲を送ろうかともいってくれたのだが、いや、それよりもこのコンピレーションをうちのお客さんが手にした時「ブー、Who?」とかならないようにわかりやすい曲がいいと私は主張した。あんたのライブを、ウチとしてももう14年作ってないのだから、ウチのお客さんを10年やってる人でもあんたを知らない可能性は高いんだよ、と説明した。そしたらわかってくれたようで、そこからまた数回メールを交信していた。最後はブーが根負けしてこのアルバムからなら好きなのを選んでいいよ、と言ってくれた。

そして結局「The Birds Are Leaving」に決めたのは、歌い出しに10月と言う言葉が出てくるから。同時にCDの1曲目はこの曲にしようと決めた。空気を深く肺まで吸い込むと、10月を感じるという歌い出しの歌詞が大好きだ。

このコンピレーションには、ブーの他にもウォリス、ポール、ロビンと4人のシンガー・ソングライターが参加しているが、歌詞を書くことに対する特別な才能が一番素晴らしいのはブーだと思う。ポールは明らかにメロディライターだと自分でも言ってるし、ウォリスは歌と歌詞が一体化しているけど、どちらかというとパフォーマンスは瞬間の爆発力みたいなところがある。ロビンの歌詞はさらに進んでいて言葉遊びみたいなところがある。

あとブーは、よくエディやポール・ヤング、kd ラング、ナタリー・インブルーリアへなどへの楽曲提供のせいで、ソングライターとして扱われることが多いが、実は彼が持っている才能で一番スペシャルなのは「歌」だと思う。声がすごくいい。「歌」そして「歌詞」だ。「ブーはシンガーだ、俺はソングライターだけど」っていうのはクライヴもよく言ってたことだ。

このアルバムが出た当時、ブーは日本市場ではメジャーと契約していて(もちろん契約をコーディネイトしたのは私なのだが)、そこのディレクターは自分の仲間のアメリカ人に歌詞対訳を発注し、私はその日本語訳が、「なんか違う」とずっと思っていた。特に最後の Heaven knows why I can make you...は、Happyにかかるのであって、次のLook outside...にかかるものではないだろうとずっと思ってきたので(「空を見ろ」じゃないだろw)、今回、通訳の染谷和美さんの正しい訳がついて、本当に嬉しく思う。

CDでヘッドフォンして聴くとジョン・ウッドのプロデュースが盛り沢山に効いている。当時ジョンはほぼ引退してたんだけど、それを引っ張り出したと確かブーは説明していた。ブーは学校を卒業してからしばらくはケンブリッジのアンディースというレコード屋で働いていて(リアル『ハイフィデリティ』・笑)、ジョンがプロデュースする音楽が大好きだったから、ジョンにこのアルバムをプロデュースしてもらって、すごく嬉しかった、と。またこのアルバムの制作中は、バックコーラスで参加しているマーサ・ウェインライトの家にブーは滞在していて、ずっとツアーで不在だったルーファス・ウェインライトのベットを借りていた…と話していた…のは別のアルバムだったかな。なんか記憶がもうないや。何はともあれ。

代官山で公演前にヘアカット。