角幡唯介『狩りの思考法』を読みました。今年の圧倒的NO.1 !!!!



「現実は、とても残酷だ。でも現実は、とっても美しい」
「未来を見つめて、いまを直視できない私たちへ」

読んだ。率直な感想は「ついにここまで来たか、角幡ワールド!!?」。すごい作品です。いやー 圧倒的に、圧倒的に、圧倒的に、今年のNO.1プラチナ本です。角幡さん、やっぱりすごい。

なんか「極夜行」以来、妙に突き抜けてるんだよなぁ。迷いがなくなったというか、角幡さんは、年齢を重ね、角幡さんである固有の角幡さんにますます成っていったというか…(この辺も角幡さんの著作を読んでいる人なら、なんのことを言っているかすぐわかるはず)

まずはこの本、アサヒグループホールディングス株式会社発行、清水弘文堂書房編集発売とある。どういうキャスティングなんだろう。そしてAsahiというビールと同じロゴが。どうやらエコ関係、環境関係の本ばかり出しているみたい。ビール屋さんが、本屋も始めた…ということなのか? アンテナ低い私は全然知りませんでした。

しかもどこかに連載されていた文章かというクレジットもなく、ということは、まったくの書き下ろし? すごいなぁ。

でも妙に豪華な装丁だ。表紙は厚くモノクロだが立派で、巻頭にカラー写真もたくさん掲載されており、なにより驚いたのは本文部分の紙の質。

これはなんという紙なんだろう。お風呂で本を読む私には嬉しい、耐久性がありそうなすごくいい紙を使っている。なんか、すごいな。ツルツルしているよ。顔でなでなでしたくなるくらい(笑)

そして、それがたったの1600円+税。安い!!! しかもPR TIMESに打たれたリリースを見ても、いつもの角幡本の宣伝文句とちょっと違う感じもする。うーん、どんな人たちが仕掛けているんだろう。

ま、そんなことはさておいて、内容はというと、これが角幡節全開で、ファンの期待をまったく裏切らない大傑作だと言えるだろう。わたしにしてみたら、もう身悶えして「あぁ、もうっっ!! こういうパンチのある文章を読みたかったのよ」という感じ。いや、マジでさすがです。

今年も本は何冊も読んだし、その中には相当面白いものもあったけれど、しかしどれもスーパープラチナには遠かった。ここへ来て、角幡さんの新刊本が出て、やっと手応えのあるものが読めた気がした。やっぱり角幡さんの文章は最高中の最高なのだ。

そりゃー 読みやすい文章を書くノンフィクションライターは世の中にたくさんいるけれど、こんな風に思考が深まっていく感じは、角幡さんならでの世界なのだわ…

それにしても角幡さん、あいかわらず思考がぐるぐる、ぐるぐるしている。いや、ぐるぐるしながらも深く深く深まっていく。

こういう感じが好きな読者はたくさんいるんだろうし、もちろん私もその一人で、時々読みながら声に出して「うーーーん」と唸ったり、読むのをやめて少し自分で考えたり…。そんなことを促してくれる本だ。

で、たとえば今までの角幡さんだとちょっと立ち止まってテレの部分なのか、自虐ネタなのか、そういう笑える部分も文章内に挿入されていたのだが、そういうところはいっさいなく、逆にこの文章スタイルをつらぬくことで、私は実は角幡さんはいろいろ考えているようで、まったく考えていなく、ただただ意味もないことを考えているりバカではないだろうか」と思い、一人笑ってしまってもいた(ごめんなさい)。

いや、そこが角幡流のユーモアの進化なのかもしれない。真面目に考えすぎて、なんかおかしい、っていう… そういう感じ。

というのも、こんなふうに考えたところで、いったい実生活の何の役にたつんだろう、というのが根本にある。だって実際わたしたちはある程度便利な社会と環境に生きているわけで、今さらイヌイットの考え方に自分の思考法が近くなっていったとして、いったいなんのメリットがあるんだろうか。

でもそういった、馬鹿なことを考えるのが、やっぱりめちゃくちゃ面白いのだ。

そして時々このブログにも書いている多言語を身につけると人は何倍も人生を生きられる…とかいう話も思い出した。イヌイットの思考法を身につけることで、人は人生を2倍生きれるようになるんだろうと思う。

いやーーー ほんとうに面白い。興味深いと言う意味でも面白いし、バカみたいだなという点でもおもしろい。とにかく角幡ワールド全開で、突き抜けていて、なんかもう角幡さんに迷いはないよ!って感じなのだ。

ファンとしては、もう犬ぞりでもなんでも好きなことして自由に生きてくださーい!!! この本を読み終わって、心から、そういう気持ちである。

だけど、それでも本当に書くのはやめてもらってはこまる。だって角幡さんの書いたものをもっともっと読みたいから。だから、もっともっと書いてほしいなぁ。

先日、荻田さんのところの配信で拝見した角幡さんのトークを聞けば、すでに角幡さんはこの本からもとっくに心が離れて、さらに先に気持ちが行ってしまっているご様子。まずは北海道に移住されるんじゃないだろうか、と本気で思ったりしてしまった。

鎌倉で購入した家のローンはどうなるのであろうか。あれ、あれは現金で買ったのだったけか? もう忘れてしまったが(笑)

そして、ついに角幡さん、書くことからもさらに飛びたってしまったのだろうか…

実は私はリアルで角幡さんに何度かお会いしたことがあるんだけど、そういった時、チャンスとばかりに大ファンとして「あの本のあの文章がよかった」とか著者さんに必死に訴えたりも言するんだけれど、角幡さん、書いちゃうとすべて忘れちゃうらしく…(笑)

以前私が「あのアグルーカの、あそこが好きなんですぅー」「“生きるということは不快に耐えてやり過ごす時間の連なりに他ならない”って、めっちゃ言えてると思うんですぅー。何度も何度も読んでますー」とか私が必死に訴えても、当の角幡さんは「?????」という感じだった。

そういう人なんだよねー。でも角幡さんのつづる言葉は、探検のできない私たちにめちゃくちゃ響く。そうやって、私たちはとにかく角幡さんの言葉を貪るように読む。そして、わずかながら、そこに自分自身を発見し、著者との一体感を感じるのである。

いや、もしかしたら角幡さんは読者が読んでいるほど深く考えていないのかもしれない。

イヌイットのように目の前のことに身体能力、思考能力のすべてをかけて取り組み、今を生きるのに向いていて、いったん作品になったら、その思考はもうそれで完結。昇華して、そのあま次に、今の自分を生きているのかもしれない。きっとそうだろう。

やっぱり角幡さんは高野秀行さんが対談本の後書きで書いていた通り、本当のバカなのかもしれない。でもそのバカなのが、めちゃくちゃかっこいいんだよなぁ!!!(いや、ほんとうに褒めています)

いやーーー 次の本、早く読みたいよー。とりあえずこの本と、そして「アグルーカの行方」もう一回読むかーっっ ちくしょー(笑)

いやーーー私はやっぱり角幡ワールドが好きです。

「あとがき」に書かれた「エスキモーになった日本人」大島さんとの大島さん引退犬ぞり旅もめちゃくちゃ良い。まさに角幡さんの言うとおり。大島さんはすごい人なのだ。スタッフがゾロゾロたくさんついている三浦なんとかさんの登山よりもよっぽどすごい。


今回特に響いた角幡ワードを自分用にメモ。

「真の現実」と「未来予測」
(あぁ、そんなことなんて、どうだっていいじゃないの!! と思いつつ、こういうことを考えることがやめられない…)

「生と死は同線上にあるもの」「シオラパルクでは死が生から分断されておらず、隠蔽されておらず、生との境界線を曖昧に残したまま、ただそこにある」「だから死はタブーではないし、不浄のものでもなく、また同時に、とくに厳粛にあつかうものでもない」
(めっちゃ共感。死んだ人だから褒めるってのも大嫌い。この辺はケルトの思想にも通じる)

「ナルホイヤ」I don't knowというより I can not say
「未来を正確に予期することなど人間にはできない、人間は今目の前の現実に身をさらすことでしか生きていくことはできない」

「真の現実たる無秩序に触れなければ、人は生の躍動を経験することはできない」
(あぁこういうの、人間力が低い私とかには、めっちゃ痛い言葉。おっしゃる通りです)

「ナルホイヤというのは諦念という受動的なものではなく、未来を計画してはならず、現在の中に生きなければならない、ナルホイヤでなければならぬ、という積極的道徳哲学」
(でも狩りで生計たててるわけではない、わたしたちにどーすればいいって言うねん!?)

「未来を予測することはむずかしいし、そもそも無理である。こうした彼らはあるモラルを導きだす。彼らの生のモラルとは何か。それは自分の頭で考えろということである。決まったやり方などない、そのときの状況に応じてやり方を柔軟に考えなきゃならん、ということだ」
(でも日本社会に生きる私たち。いったいどーしろって言うねん!?!!)

あぁ、読者を置き去りにして、角幡ワールドは続く…  でも置き去りにされたことも嫌ではない。 皆さん、ぜひ読んでください。大傑作です。