この分野、とても興味があるので読んでました。なるほど、夏葉社以降、こんなにたくさんの「(ほぼ)ひとり出版社」が活躍しているんだな、と。
最初の『つくり方』は2016年、『つづけ方』は2021年11月に出版された。この本を出した猿江商會も「小さい出版社」の一つだ。
まぁ、本の流通に関するフラストレーション=大手取次の問題はもう底なしというか、希望がまったく見えない。日本の問屋制度って、ほんと外国人には理解されないことが多いんだけど、これは本当にきついよなぁ。
従来みたいにベストセラー本が数種類ということではなく、売れ方もだいぶロングテイルというか、人の嗜好も複雑化していきている。それに対応がまったく出来ていない。
そしてトップダウンの現場無視のシステム。現場で頑張る人たちは本当に報われない。
本ばかりではなく、CDの配給についても言いたいことはたくさんあるが、本の方はさらに悪い。いや、私も素人だし、本の流通については、ネットや物の本に書かれていることくらいしか知らないが、本当にひどい。
私も今や本は注文ではなくAmazonでポンポン買ってしまうので、これもあまり良くないと思いつつ、本屋に行っても自分が欲しい本はないし、注文しても時間がかかるし…と諦めている。
そしてどうやら最近は街の本屋で好きな本を注文しても入荷されない…という事態にまで悪化してしまっているようなのだ。
一方で書店員さんたちの「作家本人が勝手に重版されたとかツイッターで呟かないでほしい、それによって店舗が混乱する」と嘆いてそれが話題を喚起したり、そんな事情にも同情を禁じ得ない。
が、悪いのは作家ではなく、小売店でもなく、間に入っている何もしないで利益を得ている意味のない人たちなのだ。…と言うと言い過ぎか?
一方で、友人たちの多くが「一人出版社」を初めている。エストニアの料理屋さん佐々木敬子さんの料理本、森百合子さんはZINEを始めた。キノローグさんもKinoLogue Books、ヒマールさんのヒマール・ブックスを始めている。
あ、しかもこうして書きだしてもると社長はみんな女性だ! うーん、面白い。素晴らしい!!
まず1冊目の「作り方」について。トップに登場するのはウチもつきあいのあるアルテス・パブリッシングさん。私は鈴木さんとも木村さんともリアルな知り合いだからいろいろ思うことはあったけど、彼らが「出版社」を作ると聞いた時はびっくりした。
えっ、出版社作っちゃうの? 編集プロダクションじゃないの?と当時は驚いた。でも今ならわかる。彼らは本を出す、出さないを他人に決められたくなかったんだよね。本を出すか出さないかの決定は自分で下したかった。それは彼らが決める一番重要なことだから。
あと、この2冊を読んでいて、何度も名前が出てくるのは「トラスビューの工藤さん」(笑)。大手取次ではなく注文出荷制という、もうしごく当たり前な方式をおこなっている会社だ。
そしてこの「工藤さん」の存在で、トランスビュー・チルドレンは今やこの本が発売になった35社から117社に広がっている。リストはこちら。すごいなぁ。
あ、と面白かったのが「荒蝦夷(あらえみし)」という名前の出版社。仙台の出版社なのだけど、ヒットが出そうになった時、チェーン店の仙台支店さんが助けてくれた話には感動した。(社名の読み方について、最初間違った表記をしておりました。指摘してくださった方、ありがとうございます)
出版って本当に難しくて、ヒットが出ることによって会社が倒産してしまう…というパターンが多くあるのだ。(詳細は省くが、そういう理不尽な世界なのだ)
そんな時、紀伊國屋の仙台の偉い女性が「わかった、うちで在庫を引き取ります、そして全国の丸善・紀伊國屋にはある、と言って対応してください。それぞれの仙台店から全国に回します」したことだった。(つまり同じチェーン店の中は店舗同士の流通システムがある)それもすごいなぁ、と思った。こんな抜け方があったのか!?
そうやって頑張っている会社には助けてくれる人たちが現れる。
それにしても面白い出版社が多い。川内有緒の『バウルを探して』を蘇らせた三輪舎、そして和田靜香の『時給はいつも最低賃金』を出した左右社も掲載されている。そうやって、なんというか心ある、小さい世界はいつもリアルだ。
一方で同じ音楽業界にいたとしても、芸能事務所のこととか、私にはからっきし理解できないし、今だにわからない。
レコード会社を辞めたりクビになったりした人が自分でレーベルを始めている。心ある人は、そうやって自分のやりたい事業を続けるているのだ。
心ある人たちはいつもリアルで、いつも見える。彼らの気持ちが理解できる。たとえ業界が違っても。そこが素晴らしい。そんなふうに本の世界にも希望がたくさんある。なんというか、やっぱり「人」なんだよなぁ、と思った。
楽しく読ませていただきました。