カルロス矢吹『日本バッティングセンター考』を読みました

 


まずはひと言、申し上げたい! やはり私はノン・フィクションが好きだ。この本は読んでいてすごく楽しかった。ワクワクしてきた。いやー 本はこうでなくっちゃ!!

もちろんバッティング・センターは、多くの人が想像するように斜陽産業の一つだ。そもそも地上波テレビで野球中継がなくなった今、野球はすでに誰もが憧れる産業ではない。

カルロスやるなぁ。文章も抜群にうまい。すいすい読める。そして彼にとっては当たり前のことなんだろうけど、ちゃんと取材をしている。1冊前に読んだノン・フィクションが最高にタイムリーな話題だったのに、いまいち私には響かなかった、その理由が逆にこの本を読んでくっくりした気がした。そうだ、ノン・フィクションはこうじゃないといけない。

やっぱり良いノン・フィクションというものは、取材対象もしくは本のテーマに対して愛がある。音楽でいえばドローンのようにずっと流れる野球愛がしっかりある。そこが違いなんだわ。

愛を喰って食べられなくなるのなら、それはそれでいいではないかと思わせてくれる。だからこっちの方が返って夢があるんだ、下手に前向きな、イケてる、未来は明るいよ、これからイケイケどんどんだよーという産業じゃなくても。

なんかこのあと日本が疫病&戦争でハイパーインフレになりボロボロになって、さらに不景気になったら、みんながみんな儲からなくてもいいよということになり、国民全員が好きな仕事につけるんじゃないか…そんな気がしてきた。

音楽業界なんて、その最たるものだからさ。出てくる人たちがすべて野球愛にあふれている。そしてそんな取材対象に対する「愛」を著者が間違いなく持っている。だから読んでていて気持ちがいい。興味津々、ワクワクしちゃうその感じ。

実は私は矢吹くんとは音楽の現場で一緒に仕事をしたことがあるんだ。リアルな知り合いだから、ちょっとバイアスがかかったエコ贔屓な感想かもしれない。

たまたまTwitterのタイムラインで目に入った文化系トークラジオの黒幕こと長谷川さんがこの本のことを呟いていて、目に入ってきた。おっ、久しぶりに見る名前! がんばっとるなぁ!と、いうことで速攻ポチった。

矢吹くんは85年生まれ。もともとグラストンベリーが好きで、日本のフェスティバル・シーンでもあれこれ頑張っている人。今ではそれに加えてイビサの本は出すわ、スノーボールの本は出すわ、とにかくカルチャーシーンで大活躍している人。それが矢吹くんなのだ。

それにしても、音楽もそうだけど、例えばレコード屋やロックバー、本屋とかもそうだけど、言っちゃわるいけどいわゆる斜陽産業には妙な味わいがあるんだよねぇ。

もう終わってんじゃないかみたいな場所に、そして多くの「ちゃらんぽらんな気持ちで参入してた外野」が撤退した後に残るその場所に、「愛」のある本物が残るということなのかも。

ちょっとクサいけれど、そういうことなんだな。最後のピエール瀧さんとの対談も愛情MAXで読んでいてとても幸せな気持ちになった。いいなぁ、野球!!

しかし、やるなぁ、カルロス。このペースで愛情あるノン・フィクションを出し続けていたら20年後くらいには高野秀行さんくらいにはなれてるんじゃないか? 

高野さんのノン・フィクションもそういうところ、ある。高野さんはよく勘違いされているけど、冒険とか探検とかそういうことだけでは語れないすごいノン・フィクションライターだ。そして愛がない対象、興味がわかない対象のことは絶対に書かない。

そのくせ愛がある対象については、もう夢中になって語る。たとえば「納豆」とか(笑)。だから面白いのだ。

矢吹くん、また現場でご一緒したいね。これからも応援しています! 愛あるノンフィクションに飢えている方、おすすめです。