角幡文学の新しい地平が見えた!! 角幡唯介『狩りと漂白』


角幡さん、久しぶりの新刊『狩りと漂白』を読みました。

実はこの一冊前に読んでいた本が、めっちゃ軽い宮田珠紀さんだったため、読みやすさと言う点では本当にすさまじかったのであるが、なんだろう、スタイルまるで違うのに、角幡さんの文章も、どうしてこんなに読みやすいんだろう。あっという間に読めてしまった。

(ちなみに宮田さんの本も最高に面白かった。感想は近いうちにアップする)

っていうか、今回、短くないか?! 文字数にしたらどれくらいあるだろう。これより前の本はもっと文字がつまっていたり、文字が小さかったりしていたと思う。なんか短い。

で、よく見たら「裸の大地 第一部」と書いてある! 前後編ではなく「第一部」というのが重要。ということは、たぶん三部までは最低続くだろう。第一部と二部だけだったら怒るぞっ(笑)

「人間性の始原に迫る新シリーズ」とも書いてある。

ということは、今まで1冊にしていたものが3冊に分かれるというのだろうか。うーん、これは嬉しい悲鳴である。この先も続けて出るのだろうか。今、角幡さんは北極の空の下。もうすでに脱稿していて、このあと続けて2ヶ月置きにリリースとかだったら最高に嬉しいなぁ!!

っていうか、ロックで言うところのこれはボックス・セットの一部なのか? だとしたら、それはそれで、めっちゃ嬉しい。

読んで、なぜか今までの角幡さんの本より、軽やかな印象を受けた。なんか自然体で無理がない感じ。

「極夜行」やそれまでの作品も大好きだけど、今まではもっとがっつり構成を練ってバカなジョークや失敗談も挟みつつ、読んでいる時には気づかないものの、著者が創造する壮大な演出の中に読者は放り込まれているような感覚があった。読み終わって「やられたー(悔)」みたいな。

ところが、今回はもっと軽やかな感じだ。なんでだろう。もっとなんか一緒に旅しているような感覚に引き込まれた。

それにしても、毎度のことだがページをめくったところにJASRACの表記があったので、いや〜な予感がしていたのだが、今回もまたあまり褒められない種類の音楽を北極で口ずさむ角幡さん。

まぁ、中年男性が自分が聴いてる音楽で自分のアイデンティティを保つのはよくあることだけど、そういうところがない(自分のアイデンティティを構築しない)のが、きっと角幡さん的にはかっこいいんだろうな。

おそらくご本人は無自覚でやっているんだろうけど…

だが、しかも世の中にはもっといい音楽があるんですよ、聞くお金は今やどんな音楽を聞くのも無料に近いからいいのだけれど、それよりもはるかに貴重な自分の時間というもっとも大事なものを投資するに値するすごい音楽が…と言いたくなる。余計なお世話だが。

(今回もAKBと、あともう一つなんだったかな…そういう音楽だった)

それにしてもワクワクする本であった。そういえば…というのも失礼だけど…角幡さんの本の中に「漂流」という、これまた大傑作がある。あまり話題にならなかったように記憶しているけど大好きな本だ。

最初のツアンポーや北極シリーズばかりが話題になるから、その合間にあってよく忘れられる一冊だけど、この本も「人間とは何か」を描いた、すごい作品だった。あれも今回の作品に見事につながっているような気がした。

それにしても好きな作家がいて、そうやって追いかけるように発売日に買って読むというのは、なんと楽しいことかと思う。

今回のこの旅で、角幡さんは原始人の感覚を掴みつつある。

そのうち、この原始人的感覚を完全につかんだ角幡さんは、原始人の研究の方に進まれるのであった… と勝手に未来予想(笑) 

例えばアマゾンやヒマラヤの奥地で未開の新しい人類が発見された時とか、遺跡が発掘された時とかにテレビのコメンテーターとして出てきて「それは、狩猟民族にはありえませんね」とか「この季節にそれはありませんね」「獲物はそうやって出てくるんじゃないんですよ」「それは現代人の感覚、この人たちにそれはありえません」みたいなこと言って偉ぶる、みたいな。単純かしら(笑)

あと、なんだか、どんどん角幡さんより10歳上の、読者であるわたし自身の感覚に近づいてくるような気がした。

例えばなんか不思議なところで自分の人生観がぐるっと変わっちゃうみたいな。変なタイミングで、考え方が裏返っちゃうみたいな。そういう事とか。そうなんだよね、人生の大事な転換点は、ひょっこり予期しない方向からやってくる。

「読者は本の中に自分を発見する」って書いてたのは角幡さんだけど、なんかどんどん角幡さんが自分に近づいてくるような不思議な感覚にとらわれた。

そもそも角幡文学に最初に出会ったのっていつだろうと思ってブログを遡ったら2015年だった。だから、もう7年追いかけていることになる。7年、一緒に歳をとると年齢差みたいなものが反比例で小さくなっていくのかな、とも思った。

第二部が楽しみ。