絲山秋子さん『まっとうな人生』を読みました


久しぶりの絲山ワールド。本当に、まったく自然に、まったくさらっと、なごやんと花ちゃんが私の世界に戻ってきた。読みはじめれば、まったく自然に『逃亡くそたわけ』の世界に私が入っていった。

『逃亡くそたわけ』って、結構初期の作品だよね。調べたら映画化されてるやーん!!!? 見てない! どっかで見れないのか。DVD買うしかないのか…。配信はないのかな。THE ピーズが音楽やってる。

で、ググった。そうだ、直木賞の候補になったんだっけ。2005年の作品だ。

「花ちゃん」と「なごやん」。2005年に精神病院から逃亡をはかった二人の珍道中が描かれた『逃亡くそたわけ』。もう詳細は覚えていないけど、最後はめちゃくちゃ爽やかだったように記憶している。

そして、この『まっとうな人生』で、二人は偶然富山で再び出会う。今、実にまっとうな人生を送れていると思う。いい家族に恵まれ、いろいろあったりはするけれど、すごくいいと思う。すごくいい。

そしてまた二人は自然に去っていった。本が終わってしまうとちょっと寂しい。また続編が10年後くらいに出てくるんじゃないかと思う。

絲山さんの本を読むといつも思うんですけど、めっちゃリアル。ディテールが細かいからかな。たくさん事前取材とかきっとしてたりするんだろうなぁ、とも思う。人の名前もフルネームじゃなくて、いつもなんだか愛称というかニックネームだったりするところとか。

たとえばそのニックネームはフルネームよりも、多くの情報量を含む。

そのくせお店や道路なんかの名前となると、しごく具体的な固有名詞が出てくる。

そんなふうに、説明が長いわけじゃないんだけど、とにかく一つの文章の中から得られる情報量が多い。そしてその情報が十分ある中に、ぐさっとくる普遍的なひと言が、ものすごく力強く置かれているのが絲山さんのスタイルなんだと思う。

(この説明わかる? でも絲山ファンは分かるよね)

二人、それぞれの人生。劇的なことがあるわけでもないが…いやコロナが劇的といえば劇的なのかもしれないが、登場人物がやっていることや思うことは、わたしたちとまるで一緒だ。絲山さんの本読んでると、そうやって、登場人物と一緒に生きている感じがすごくするんだよね。

最後はそして、爽やかな感動…っていうか、ささやかなんだけど、確実な何かが残るのだった。なんというか、キャンプの朝食のやきそば。そして賢く愛おしい娘。これぞ、まっとうな人生なのかも。

それにしても久しぶりに絲山さんの本を出たばっかりの段階ですぐ購入してすぐ読んだりした。Twitterで見る絲山さんはせっせと営業活動をしている。本をたくさん売らなくちゃ、と。絲山さん、本当に素晴らしいよね。自分の作品のために犠牲になれないクリエイターはダメだ。

そうやって、絲山さんも花ちゃんもなごやんも、みんなリアル。みんな一緒の時間を生きている。また会おうね、花ちゃん、なごやん。

今年読んだフィクションものでは、NO.1かな。『逃亡くそたわけ』も久しぶりに引っ張り出して読んでみるか。