いやーーー 超感動の一冊でした。
なんで、こんな本を今ごろ読んだのか、って?
実は今度発売する日向敏文さんの新作『Angles in Dystopia』に「Sylvia and company」という曲があるのだ。昨晩、日向さんのインスタグラムで曲タイが全部発表になった。全24曲!
新譜のプレス用資料を作るにあたって、その曲名についての説明を日向さんから聞き、この13曲目の曲の世界に興味を持ったのがきっかけだった。
「パリにShakespeare & Companyという本屋があります。1920年代にシルヴィア・ビーチっていう人がいて、彼女は当時誰も出版出来なかった、しかし今では世界の名著と言われるジェイムス・ジョイスの大作『ユリシーズ』を世界で初めて出版しました。Shakespeare & Companyは彼女の本屋さん。本屋さんをやることで、彼女は多くのアーティストの活動の場を作っていたんですね。
その場所はヘミングウェイ、アンドレジッド、ポールヴァレリー、ルデュックとかが、ガートルード・スタイン、マン・レイなどが集まり、まさにウッディ・アレンの『ミッドナイト・イン・パリ』の世界でした。
彼女は同性愛の恋人がいました。いわゆるロスト・ジェネレーションの時代。ちょっとデカダンスな感じのイメージで、その当時の出来事を勝手に妄想して作った曲です。
その後戦争で店は閉じてしまうのですが、1980年にジョージ・ウイットマンという人がいて本屋を再開させました。その人の娘で今のオーナーもシルヴィアという名前なんですよ。なので、タイトルにシルヴィアという名前を加えました。パリに行くと必ず行ってみたくなってしまう本屋さんです」(日向敏文さん談)
とういうわけで、興味を持った私は、シルヴィア・ビーチの本を買ってみた。正直絶版で高かったし(4,500円くらいした)当初は、仕事がらみと思い読み始めたのだけど、いやーーーー すっかり彼女の話に引き込まれてしまったのだ。
舞台は 1920年代のパリ。あの感じに憧れる感じはウッディ・アレンの『ミッドナイト・イン・パリ』に描かれているのだけれど、当時、アートの拠点となったShakespeare and Companyという本屋さんがパリにあったそうで…
日向さんいわく彼女の伝記を読んだのだけど、「知っている作家がぞろぞろ出て来て、面白いんですよ」とのこと。
しかし、ロストジェネレーション。私はヘミングウェイもフィッツジェラルドも読んだことがない無教養な輩であった…アイルランド・ファンなら必読のジョイスですら、ちゃんと読破できたのは『ダブリン市民』のみというテイタラクぶり… とほほ(爆)
で、このシルビアの本屋こそ、あの『ユリシーズ』を最初に世に出したすごい本屋さんなのだった。
だからちょっとドキドキして、この本を買った。日向さんみたいに英語で読めればいいんだけれど、英語なんてこんなにたくさんあったら私にとっては模様にしか見えない。
そして届いた本を読み始めたのはいいけれど、最初にまず「訳が古っ!」と思った。なんか漢字も古い使い方が多い。が、一度慣れてしまうと、いっぺんにこの本の世界に引き込まれてしまったのだった。
というのか、私はすっかりこの作者であるシルヴィアに超感情移入してしまったのだ。というか、勝手にシルヴィアの姿を無名のアーティストたちをプロモーションする自分の姿をあてはめてしまったのだ。
このシルヴィアの「自分はなんの才能もない人間だけど、才能のある人を助けたい」「この素晴らしい芸術のそばにいたい」という感じが、めっちゃ響く。私も彼女のように生きたい!
それは例えばちょっとした手紙のポスト役を買ってあげたりする感じ、そして嬉々として雑用や苦労を引き受ける感じ。すべてがもう…まるで私みたい!?
なんていうと、この素晴らしい店主と自分を比較するなど、めっちゃ偉そうだけど、これは私だ、私のことが書いてある。と貪るように読んでしまったのだ。
単なるミーハー心といえば、それまでかもしれない。でもこれはアーティストの本当の心も友人になれる女性の話だ。私もこうありたいよ!!! こうありたい!
結局本屋は儲かるわけでもなく、戦争にやられて閉店してしまう。が、後世に評価が爆上がりする素晴らしい芸術の空間が間違いなくそこに存在していたわけだ。彼女がいなかったら、きっといろんなことが無理だったよ!!!
彼女は文学の歴史を変えたと思う。すごい人だ。
でも彼女の日常は、本当に自分の本屋がオープンして嬉しい感じ、看板が夜になると盗まれてしまうから夜は取り込むようにしていた…みたいな小さなエピソードに彩られ、それがめっちゃ大変そうなんだけど、めっちゃ幸せそうで、私は本当に彼女のファンになってしまった。
実際、事業については実際かなりの素人で、カタログや索引カードも作らないで「むしろどれだけ本が欠けているのか利用者自身に発見させる方法を選んだ」とか、いちいち響きまくり。
私も誰に仕事を教わるでもなく、自分で自己流ビジネスだよーー(涙)そしてミュージシャンに育ててもらってるんだよ、だからわかるよー シルヴィアの気持ちがわかる!!
そしてアメリカで自分の表現活動に苦労している作家たちが、アメリカからパリへやってくるわけです。みんなすごいよね。故郷を捨ててしまうわけだから。(で、戦争が始まりそうになるとまたみんな帰国する)
そしてその大部分が、彼女の書店を彼らのクラブと考えていた、とシルヴィアは語る。シェイクスピア&カンパニー書店を、彼らは彼らのパリでの住所として故郷の友達たちに伝えていた、と。
例えば フランスにやってきて言葉が話せないシャーウッド・アンダソン(『ワインズバーグ・オハイオ』の作者 これまた私は読んでおらず…)などが出版社を訪ねる時、シルヴィアは一緒行ってあげて通訳をしてあげたり、またアンダソンをガートルード・スタインに紹介したり
、シルヴィアは1920年代のパリにおける文化のハブになったんだよね。
この感じはわかる。それにしてもガートルード・スタインもすごい。すごいキャラクターだ。ガートルード・スタインは、今回はじめてちゃんと知ったけど、ピカソやマチスなどを援助した詩人で、小説家で美術愛好家だったお金持ちのアメリカ人女性。
なんというか、当時のお金持ちはお金の使い方を知っていた。
(この辺についてはこの本も超必読なので、ぜひ読んでほしいな。多くの人がお金と時間の使い方知らないから、みんな消費社会に飲み込まれ「忙しいのに退屈している」という結果になるんだよっっ!(怒)それにくらべてこの時代のお金持ちはお金の使い方を知っていたんだよね)
ガートルード・スタインが、これまた最高にかっこいいんだわ!
まずシルヴィアと、ガートルードと彼女のガールフレンド(彼女は同性愛者だった)とのシスターフッドな感じもいいんだ。女同士にしかわからない、この感じ。あぁ、すごくいい!!!
最高に笑ったのは、
偉い作家さんが妻を伴ってガートルードの家を訪ねる場合、シルヴィアいわく「ガートルードの家を訪ねる時の妻たるものが守らなくてはならないしきたりを、私は知っておりました」とか書いてて、もう爆笑。
つまり、作家とガートルードが高度な話題を始める。同行した奥さんはここでは無理に会話に入ろうとせず、そっと控えめにしていないといけない…というのだ。間違っても会話に入ろうとしてはいけない。
これ、 わかり味がありすぎるよー よくミュージシャンがガールフレンドやボーイフレンドを私とのミーティングにつれてくることもあるんだけど、そういう時の「ある、ある」である(笑)
でも、こういうことって、めちゃくちゃ重要なんだよ。無理に私とミュージシャンの会話に入ってこられても、こまるんだよ。心得てる奥さんや恋人ならわかる。
でもそうじゃないパターンがあまりにも多い。だから私はよく言うんだ。「(私は)ミュージシャンは選べても、彼らの友達や家族は選べない」
ガートルードと同じだ、私!! 私もお付きをぞろぞろ連れてくるアーティストは大嫌いである。私もそうだけど、ガートルードもその辺とくに厳しかったらしい。
しかし作家とガートルードの高度な会話に入れない奥さんを見て、シルヴィアが 「奥さんがちょっとかわいそうだった」と書いているのを見て、私はこれはもう本当にわかりみがありすぎて大爆笑してしまった。
当時も作家とを取り囲む人間関係は、今も昔もあんまり変わらないんだね(爆)
一方で、ヘミングウェイも初めてガートルードに会う時「ガートルードと話をしてみたいけど、一人じゃ怖くて行いけない」とシルヴィアに泣きついたそうで、シルヴィアは「一緒に行ってあげるから」と同伴を認めつつも、二人の会話を邪魔しないよう、ガートルードの家の前まで
ヘミングウェイを案内すると、成功を祈って彼をそこに一人で残してきたそうだ。
うまい! この匙加減。心得ている!
こういう人、こういう人が芸術の世界には必要なのよ。誰々と誰々は自分が紹介した、とか、よく音楽業界の保守親父が自慢するでしょ? あれ、あれ。あぁいうのはダメなのよ。
そして、そうなのよ、結局アーティスト同士の、あの響き合う感じは、一般人には入れないのよ。わかるわぁー、この感じ。
ここは私がシルヴィアだったとしても、まったく同じ行動に出ただろう。私もアーティストがアーティストと会う時は、あまり自分は入らないようにしている。
シルヴィア、いいよ!!
ここはもう100%シルヴィアに共感。私がその立場でも同じことするわ。だって、その方がそのアーティストのためなんだから!! 私とシルヴィア、めっちゃ友達になれる気がする。
あとジョイスの奥さんが英語しか喋れないため、
パーティで相手をするように言われた…とか…あぁ、外国のパーティでのあの上滑り的な空気とかも、いちいち、いちいち、いちいち分かりみがありすぎるでしょ。
そしてユリシーズの表紙に、ギリシャの国旗のブルーを再現しようとしたり、ジョイスの校正好きで費用がめっちゃかかったり、でも作家の夢や希望をなんとか形にしょうと奮闘したり。
一方で、自分は生涯一冊だけしか本を出さないつもりだったのにユリシーズの成功で、他から売り込みがたくさんきたり。あぁ、ほんと同じだ、同じ。
笑えたのは…いや、笑っちゃかわいそうなんだけど、特に『ユリシーズ』を出したことによって彼女の書店は「好色文学専門」(笑)と思った作家が多かったらしい。
そして、またそこに可愛い悪戯をしかけるシルヴィア。これも本当にイカしている! 作家たちがシルヴィアを好きなのが理解できるわ。ユーモアのセンスよねぇ…
そう! 魅力ある人間はおもろくないといけない。ユーモア、めっちゃ大事。
そしてまたシルヴィアは『チャタレイ夫人〜』を断った時は、本当に心が痛かったとも告白している。
『ユリシーズ』も『チャタレイ〜』も祖国を追放された書物は著作権に
よって保護されておらず、海賊本が本当に多かったそうで、いや、ほんとに出版なんて、書店なんて、まったくもって割にあわない仕事なんだよなぁ、としみじみ思った。今に始まったことじゃない。
また女性の経営者だからとビジネス上も舐められたりすることもあったみたい。一方で作家に信頼され、誰よりも早く本を出版する前に原稿を読ませてもらえて狂喜乱舞したり。
私が日向さんからマスタリングしたてのホヤホヤの音源聞かせてもらって、喜ぶ感じとまるで一緒! 私も日向さんのシルヴィアでありたい!!
あぁ、もう、もう、もう、いちいち、わかりみがありすぎる!!
やばいな、この本。
芸術を愛し、芸術のそばにいたいと思う人なら誰でも共感すると思う。女性のマネージャーさん、プロデューサーさん、ぜひこの本読んでみてーーー あなたの仕事の励みになることは間違いないから。
このあと、このシルビアの生涯を客観的に綴った評伝本もあって、それも読んだのだけど、そちらにはまた別の感想を持った。でもわたしは評伝よりも、なによりも、彼女が彼女自身の中から見ていた世界が好きだなぁ。
最後にヘミングウェイが戦争中のパリに戻ってきて、彼女と道で抱き合うシーンとか、まるで映画みたい!! 小柄な彼女を持ち上げて、くるくる回しながらキスをするヘミングウェイ。やんや、やんやと盛り上がる大衆。あぁ、本当に素敵!
一方で、ジョイスのことはあんなにひどい目にあいながら(お金を無心されたり裏切られたり)、悪口は全然言ってない。素敵だ、シルヴィア。
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— 野崎洋子 (@mplantyoko) July 17, 2022