青木理さんのスーパー名著『安倍三代』を読みました!


再び病院読破シリーズ(笑)。2冊目。

面白い!!! 最高に面白かった。さすが名著と言われているだけある。2016年、AERAに集中連載された「安倍家三代 世襲の果てに」の書籍化。私はやっと今ごろ読みました。

先日の晋三『回顧録』も、なんだかんだ言いつつめっちゃ楽しんでしまった私。『回顧録』重要ポイントは2つ。→ 河野大臣の原発イシューと、小池都知事の事務処理能力。私の感想はここ

で、青木さんのこれ、まずはAERAの連載だったわけだけど、これを青木さんに書くよう強く薦めたのは、やはりポリタスTVでお馴染みの浜田敬子さん(当時はAERAの編集長だった)だったそうだ。

そして青木さんと一緒に取材を進めていったのは、編集部の当時の若手新人、作田裕史さん(今はたぶんAera dotの編集長だと思う)と、現在は文春にいるという宮下直之さんのお二人だった。

浜田さんが、この本を青木さんが書く時に「うちの若いもん、二人つけますから」とオファーしたという理由を、いつだったか、ポリタスでお話しされていたのを聞いたことがあるのだが、これって、めっちゃナイスなので、軽く紹介すると…

ベテランの青木さんにつくことによって、若手がその取材手法を学び伸びていくから。それがジャーナリズムの未来を作る。うーん、後輩を育てるってそういうことなんだね。すごいな。「行って勉強してきなさい」と。いやー 本当にさすが浜田さんだなぁとうなってしまうのであった。

青木さんのこの取材は貴重だ。特に、初代の寛について書かれているところ。まさに関係者や本人を知る人も、いまやかなりの高齢で、ギリギリこの本が出る前に亡くなった方も本当に多い。この取材時での取材がギリギリだった…

この本が書かれた当時の第2次安倍政権下、私たちリベラルを気取るもの…といってはなんだけど、自分はリベラルだと思っている人たちは「安倍が」「安倍が」とこぞって首相を批判した。

そんな中でルーツである場所での取材など、相当大変だっただろうなぁ。

青木さんの文章、普段ポリタスTVや、UP CLOSEや、ラジオなどで聞く青木理さんの語り口調と、とても似ている。もしかしたらベースは若手記者による聞き書きをまとめたのかもしれない。

取材して、こうだと結論を導き出しつつも、それを丁寧に解きほぐし、なるべく公平に誠実にいろんなことを伝えようとしてる真摯な気持ちが、そこここにビシバシと伝わってくる。これぞ青木ジャーナリズムの真骨頂! 

それにしても、青木さんのこの本。私は、青木さんが安倍晋三本人に向けて書いているように思えた。

違うかな。「そんなことないよ」と言われそうだけど、私はそう思うんだ。

あなたのおじいちゃんはすごい人でしたよ、あなたのお父さんはすごかったですよ。で、あなたは何をやってんの?…と。そういうメッセージのように思った。

それにしても、安倍寛という政治家は大変な信念の政治家だった。

安倍のおじいちゃんというと例の統一協会ルートで岸信介がよく取り上げられるけど、それはお母さんの方のおじいちゃん。そうじゃなくて、お父さんの方のおじいちゃん。安倍寛という政治家のことだ。

選挙活動を邪魔する当時の特攻警察の妨害が横行するなかでも信念をつらぬき、大変な選挙活動を行い当選。病床にありながらも、多くの人たちに懇願されベットの上から政治にあたっていたそうだ。そして彼は何度も何度も言っていた。「絶対に戦争を起こしちゃダメだ」と。

そしてその息子、晋三の父の安倍晋太郎の話も、なかなか泣けるものがあった。

両親(つまり阿部寛とその妻静子)が晋太郎の生後まもなく離婚。晋太郎はシングルファーザーのもとで乳母に育てられた。

その後、うんと後になって、晋太郎を置いて行った母が産んだ、父親違いの弟がいることがわかった時などのエピソードはかなりグッとくる。(この家族愛に飢えた寂しい感じは、晋三も一緒だ)

そして、お父さんも、おじいちゃん同様、子供のころから大変頭がよく、苦労のすえ東大を出ている。(一方の晋三は生涯一度も受験を経験することなく成蹊大学を卒業した)

晋太郎は、戦争中は特攻隊に志願した経験もあり、戦争を止めないといけない、ということについては、政治家活動中、ことのほか強調してきた。

というか、晋太郎はもともと毎日新聞政治部の記者で、嫁の親の岸に頼まれて政治の世界に入った。だからもともとジャーナリズムの人なのだ。

そして、お父さんも政治家だったから政治家2代目なわけだけど、父の選挙基盤は、寛の後継である他の人がすでに引き継いでいたため、晋太郎氏は自分の独自の基盤を作らなくてはいけなかった。だから、ただ選挙基盤をオートマチックに引き継いだ2代目とはちょっと違う。

寛も、晋太郎も、そんなだから本当に人柄を感じさせるいろんなエピソードが満載である一方で、3代目の晋三の中には本当に何もない。

まぁ、わからなくもない。晋三が子供のころとか、いろいろ想像しちゃうよね。岸は孫をベタ可愛がりしていた。

また今みたいに政治家の情報だってなかなか手に入らない。インターネットなどないし、普通の人ならテレビで首相の顔くらいしかわからないだろう。

そんな中で、子供だった晋三ちゃんとしては、「無名のしかし信念の政治家安倍寛の孫」よりは「岸信介首相の孫」という立ち位置の方が良かったのだろう。そちらのアイデンティティが強く育ってしまった…のかもしれない。

「俺のおじいちゃんは安倍寛、信念の政治家だ!」と自慢したところで、いったい何人の人が安倍寛の存在を知っていただろう。一方で、首相ともなれば、一般市民でも顔くらいはわかる。

そして私が思い出す安倍首相の生前の姿といえば、マリオの始球式でもなく、by my アベノミクスでもなく、「うちへ踊ろう」でもなく、ただただ国会のヤジのシーンなのであった。

とにかくこの「安倍三代」すごく面白かったので、みなさんも是非是非読んでみてください。

ところで先日、朝日のポッドキャストで聞いたこの話題がすごくおもしろかったので、ここに紹介しておく。いわゆる「加藤の乱」の話。

当時の森首相は支持率がもう絶望的で、おそらく国民全員が「あいつをなんとかしてくれ」と思っていた。そんな時に起こった「加藤の乱」。


懐かしいなぁ。当時の自民党が懐かしい。私は当時、日本の政治について「これ以上悪くなりっこない」とよく思ったものだった。いやいや、底は、まだまだ深い場所にあった。

いろいろ考える。