ついに読んだ!! 『安倍晋三回顧録』

 


私の安倍晋三氏に関する思いは、たくさんある。総理、首相という立場をいろいろ勝手に想像をするのも不謹慎だけれど結構楽しい。

この人の場合、奥さんがとにかく彼のアキレス腱だったのだろうといつも思う。よくいるよね、そういう男の人。ウチも旦那の仕事の現場にきて我が物顔に振る舞う奥さんや家族、自称友人に悩まされたもんだわ。

よく言うのよ「ミュージシャンは選べるけど、家族は選べない」って。

本当にその人のことを愛しているのならば、仕事の邪魔なんかしないもんだけどね。本当の友人ならば、招待券ねだらないでチケットは買ってくれると思うけどね…

それはさておき。

読みやすい本である。すいすい読めちゃう。分厚いけど、最後の1cmは資料や年表やスピーチの書き起こしなので、思ったより早く読み終わってしまった。あっという間だった。

とにかく本人が出版をストップしてたのに、夫人が出版にGOを出したというのが期待を煽るじゃないですか。またこの本のどっかに彼のアキレス腱が潜んでいるに違いないと…

ざっくり感想を言うと回顧録にしてはとにかく直近すぎて、すべてが言い訳にしか聞こえなかった。まっすぐ謝っているのは「桜を見る会」くらいで、あとはひたすら言い訳、恨み言。

こういうのって本当に思うんだけど、人のことを悪くいったら人間だめだよね。一方で、菅さん、麻生さんに対する熱い友情には、敵(?)の話とはいえ、私ですら、ちょっとグッときてしまった。(あの菅さんの追悼スピーチも、いろいろ言う人いるけど、よかったと思う)

保守親父の友情にぐっときてどうする…!? いや、保守でもないのか。極右か?  まぁ、いいや。とにかく悪口が多い本だなとは思った。

ひどいものになると、当時のなんとか担当のなんとか課長とか、実名こそないけれど、官僚をほぼ特定して批判したり。安倍さんって、経産省以外の官僚とはとても仲が悪かったんだなぁ、こんな毎日じゃストレスたまるよなぁとも思った。

特に財務省との人間関係はひどく、森友問題については、すべては安倍さんを陥れるための財務省の演出か?!とさえ思えるほどだ。いや、そんなことは絶対にないのだが。

官僚は官僚で、頼みもされないのに空気読んで忖度していて、まぁ、すごい。それを「文書の改竄なんて思いもよりませんでした」「佐川さんの指示で課長以下がかかわっていた。そこまで官邸の目は届きません」と来たもんだ!

そして「仮に官僚が忖度していたとしても、忖度される側の私には、わからないでしょう」
「そんなに官邸が強すぎると批判するのであれば、ではどうすればいいのですか、と言いたかった」と安倍さんはバッサリ切り捨てているのである。

一方で、民主党政権時代は、本当に悪夢だったらしく、そこに対するトラウマもものすごい。とにかく選挙。選挙に勝ってナンボの自民党なのだ。まぁ、これはわからないでもない。

話題になったコロナ禍の星野源さんの動画についてもまったく反省はなく 「政策的な失敗ではないので気にしていいません」「むしろ若者にメッセージが届いている側面もあるのだから、良かったでしょう」

そして極め付けが「批判した人たちには、それだけの再生回数の動画をあなたは撮れるんですかといいたい」

ちっちぇ…。よくいるよね。えらい男の人なんだけど、一般ピーポーのレベルにまで自分で降りて来ちゃう人。だって一国の首相の公式アカウントだよ? 

河合夫妻の1億5,000万円についても「決済は党の幹事長と経理局長です。逃げるつもりはありませんが、私は幹事長時代、小泉首相にお金の報告をしたことは一度もありませんでした。自民党幹事長というポストは、それだけ重いポストなのです」と幹事長マターに。うーん、そうなのか?

あと本当にまずいなと思ったのは、これ読んでて、私も結構いろんな不祥事や起こったで出来事を忘れている、ということ。こうやって国民はいろんなことを忘れていくんだよね。でもこの本を読んで「そうだ、あれもあった、これもあった」と思い出すことしばしば。

まぁ、なんだろう…  リアルに安倍さんにあって質問しているのだとしたら、こっちが聞いてもいないことに言い訳される感じ? 私も相当バカだが、安倍さんもやばい。

あと印象に残った点を下記に。

<公明党>
選挙での公明党の力は本当に大きい。
公明党を説得できなければ憲法改正は無理。一歩も前に進めない。

<英国首相>
英国首相で一番好きなのはテレーザ・メイ 
一時は日英同盟の話まで浮上していた。

<アメリカ大統領>
トランプとは本当に仲良しのゴルフ仲間
トランプよいしょ:長女のイバンカが会談に同席。彼女の長女のアナベラの「ピコ太郎」動画を褒めたらご機嫌に。(ちなみにこれは外務省の入れ知恵)
トランプとの電話は頻繁。1時間以上になることがしばしば。「恋人じゃないんだから」
オバマとはひたすらシリアスな関係。オバマは「シンゾウはそう言うが、本当にその通りになるのか」と何度も言われた。オバマは鳩山さんに裏切られたと思っていたのだろう。(ここでも民主をグサリ)
オバマの広島訪問。当初米国からは「真珠湾とセットで」とオファーされた。
オバマとの「すきやばし次郎」。「次郎」を推したのは外務省
拉致被害者は実はあまり広報されていないけど、オバマ時代にも面会は実現している。
トランプの時は、日本の注文通りに米側が応じてくれた。
人数も増やして写真も撮って、報道陣にコメントも出してくれた。

<メルケル>
メルケルは日本よりも中国。そしてメルケルは「誰でも知っていることを平気で知らないふりをする」すごいやり手だ。

<長期政権>
辞めるにあたっては心の残りは拉致被害家族のこと 次の道筋をつけられなかった。
秘書官が歴代内閣の在任日数をランキングで持ってきて、あとこれだけで中曽根さん超え、小泉さんを超えますとかやっていたそう。でも安倍さんは目の前の国会をどう乗り切るかが重要。(秘書官のよいしょぶり…まぁ、でもそうね、私が秘書でもやってたかも)

<石破さん>
石破さんとは本当に仲が悪い

<麻生さん>
麻生さんとは人間的に肌があう。安倍さんいわく、麻生さんは漢字が読めないと批判もあったがものすごい教養人で毛筆で手紙を書く。あぁいう政治家ももう最後。読んでいるのは漫画だけではない。麻生さんは、自分を悪い人間のように見せようとしている。あれはもったいない。

<菅さん>
菅さんとは同志。そのベッタリぶりは、私ですら、かなりグッと来てしまった。

<小泉さん>
中曽根に引退勧告をしたのは安倍さん。小泉さんが「おまえが言え」と言った。
小泉純一郎は郵政民営化が終わったら、あとはゆっくりと「あしたのジョー」の燃え尽き状態だった。
小泉訪朝時、金正日は「アメリカといつ戦争してもいい」と言った。逆に戦争だけはなんとか止めてくれと言う気持ちも伝わってきた。小泉さんは「そんなことは言わない方がいい。かつて日本もアメリカと戦争して大変だった」と真正直に対応していた。

<その他>
政治の世界では「辞めるかもしれない」と相談するのは、もう辞めること。
(辞める、辞めるといいながらも辞めない一般の社会とは大違いだな…)

<選挙>
そして選挙、選挙、選挙、ひたすら選挙を考える。
なるほどと思ったポイント:集会は200人の大会ではだめ。20人の会合開いて、向こうに話をさせる。そうすると相手は「安倍と話した」という好印象を持つ。

<国会でのヤジ>
中谷さんを集中的に攻める野党に私はイライラしてしまった。ヤジは不規則発言であり、言葉が過ぎたのは認めます、と。でも野党のヤジも酷かった。
 
<小池さん>
小池都知事。鳥越俊太郎が知事にならないのであれば、自分としては誰でも良かった。
菅さんは小池さんが総裁選で石破さんを推したのが許せなかった。自分は気にしていなかったのだけど、菅さんは「よく許せますね」と怒っていた。
小池さんはいい人。人たらしでもある。でも知らない間に横腹を刺してくる。
小池さんの弱点は「驚くほど実務が苦手な点です」(←ここ爆笑!)

<森友学園>
夫人の友人の娘が森友に通っていた。その友人が誘ってきたので断れなかった。籠池氏側は私や夫人の名前を語って寄付を集めようとしていたと思う。

<五輪>
五輪を決められたのは皇室外交の力。

<河野さん>
外相就任時の会見での「河野談話」について。「安倍政権は河野談話を見直すという立場を取ってはいない。が、私はあれがいいとは思ってはいない。すべては戦後70年談話だ。70年談話にのっとって対応していくと言ってくれ」と伝えると、河野さんは見事にその方針でやってくれたと評価している。原発ゼロも封印した。(河野さんの過去ブログからすべて原発に関する投稿が消されて一時話題になりましたね)
ただ(河野さんが)もし総理になったら、原発ゼロをまた言い出すかもしれないけどね
(実はこの本の中で、私が一番感動したのは、この記述。そうなのか、河野さん! 信じてるよー 涙)


<各省との関係>
厚労省の悪口:コロナ対策では恨みつらつら…

働き方改革 きっかけは電通の女性社員の過労死自殺。(そうだったけか…こういうのも、ほんとに覚えてない)厚労省の調査のミスはひどかった。野党はなぜか政権側がもっていない資料を持っていて、そこをガンガン追求してくる。「厚労省は野党と通じていると疑った」

財務官僚の悪口:財務官僚は官邸の執務室に複数できて、一人しかしゃべらない。他の人間はみんなメモをとっている。私が「うーん」と考えていても誰も発言しない。要するに情報収集が目的で官邸に足を運んでいるのです。

経産省絶賛:同じ官僚でも経産省は私の目の前で議論を始める。「ちょっと君たち、総理を無視して議論に咲かせるなよ」と思ったこともあるくらいです…と嬉しそうに。

再び財務省の悪口:財務省は本当に強い。田中角栄、竹下登など歴代の首相はみんな大蔵省と仲が良かった。小泉内閣も。自分も第1次内閣の時は、財務官僚の言うことを結構尊重していた。でも第2次内閣でこれは違うと思った。安倍政権では経産省の今井秘書官が力を持っていた。財務省にとっては不愉快だったと思う。

軽減税率は公明党の公約だったわけだけど、これにたいする財務省の抵抗がすさまじかった。

財務省はひどい、でも福田さんは別:福田さんは財務官僚の中ではめずらしく「総理、それは困りますよ」と意見するタイプ。今井さんは私に言いにくいことも率直に言ってくれた。
サウナで「安倍は打首だ」と言うおじさんたちの会話をそのまま自分に伝えた。「首脳会談で紙ばかり見ていてダメ、相手の反応を見なくちゃ」など、そういうことを言ってくれる人だった。(でも、ご存知のとおりセクハラで退陣)

外務省の悪口:外務官僚は担当地域の縦割りが激しく、個人プレーでいろいろ主張してくる。
武力行使ができない日本は「身の丈にあった外交」でいいのではという質問に:「それじゃダメなんです。どちらかというと(外交は)誇大広告でいいのです」

警察庁:警察官僚は私が暴力団の情勢に興味があったから、その説明にくるのですが、それ以外の案件で執務室にくることは稀。

法務省:死刑の執行は法務大臣の専権事項なので、首相はいっさい関与しない。相談を受けたことがあるが「それはあなたの仕事」とつっぱねた。オウムの13人を執行した上川大臣からは事前の説明はなかった。でも執行時に「今、刑場に向かっています」と連絡があった。自分は返す言葉がなく「おつかれ様です」としか言えなかった。

老後2,000万円問題:「私には事前になんの説明もなかった。マスコミ報道は鉄砲水みたいだった」(麻生さんは金融庁の報告書は受け取らなかった、大人気ないのでは…という質問に):受け取ったら認めてしまったことになるでしょう。選挙が控えているのに、金融庁は本当に無頓着。(ちなみに金融庁は財務省ではなく内閣府の機関)

…とまぁ、こんな具合である。

この本を読んで私が学んだこと:人の悪口は言えば言うほど、自分の立場を貶めますよ。人の悪口を言うのはあきらめましょう。そして物事は自分の責任として、しっかり受け止めましょう。人のせいにすればするほど、人間がちっちゃく見えますよ。

ただし。ちょっと同情したのは病気に関する記述。私も手術直後、外出していてもお腹が心配だったこともあり、こういう経験は身にしみて同情した。本当におつかれ様でした。

とはいえ、これは別のところで読んだのだけど(確か林真理子かなんかが書いていた)、夫人が外で取り巻き連中と会食してご機嫌で帰宅すると、安倍さんはだいたい一人居間で新聞を静かに読んでいたりすることが多かったのだという。

本当に友達いなかったんだろうな…と林真理子だか誰だか、その書き手は同情を寄せていた。安倍さんには昭恵さんしか友達がいなかったのではないか、と。

あ、そうだ。妻に公費で秘書をつけたことに関する「言い訳」は書いてなかったです。

でも仕事上では菅さんや麻生さん、高村さんといった同志に恵まれ、余計な友達がいなかったからこそ長期政権に集中できたのかもしれない。

そしてそれが異様な権力を集め、忖度をする人ばかりが周りに集まり、ほんとうはそんなパワーなんぞどこにも存在しないのに、それは巨大なパワーとなって日本という国を振り回した…ということだったのかもしれない。あの長期政権は色んな意味で異様だった。

それにしても、あの事件があった日の喪失感というか、今、思い出しても呆然とする。この人の人生っていったいどういう意味があったのか。

こんなに嫌われた首相もいないのではないかと思うと同時に、最後の最後には暴力がすべてをかっさらっていってしまったことも、ほんとにモヤモヤなままだ。

この本はあとで渋谷の本棚にでも持っていっておきます。値段は… うーん、600円くらいかな…。

何度も書きますが、「小池さんは驚くほど実務ができない」、「河野さんは首相になったとたんに原発ゼロを言い出す」この2点を安倍さんの遺言として私はしかと受け取りました。現場からは以上です。