ルナサをめぐる自分なりの仕事術 1

 


ルナサの初代ギタリスト、ドナ・ヘナシー。
この日、ギターをホテルに忘れて戻ったりしたのでした。
結構ドナのそういう思い出は多い。


WOMEXというワールドミュージックの見本市みたいなイベントから「女性プロデューサーの立場からぜひコメントしてくれ」とジェンダーに関するアンケートが届いた。うーん、どの世界もジェンダー・コンシャスなのは、いまや世界標準だな。日本の音楽業界はまだまだ遅れてるけれど。

なので、そういう、ターゲットは女性とは限らないけど、もうすぐ引退する身としては、この仕事を目指している人たちに何か有益なアドバイスできないかなと思ったりしているので(偉そうだけど)今週は仕事術みたいなことを書いていこうと思います。

というのも仕事のノウハウのことブログに書くと結構アクセスが上がるんだよね。こういうの、ブログを読んでる人たちは興味があるのかもしれない。良い機会なので、それを今週は書いていきます。良いと思ったら、ぜひクラウドファンディングにご協力ください(笑)。

何はともあれ…今日はその第一回。

私はよく「良いバンドを見つけてきますね」「どうやって見つけるんですか?」と褒められることが多い。最初は「そんなことないですよ」「うちのバンドは売れなくって」と日本人らしく謙遜していたのだが、

ある時、ライターの五十嵐正さんが「あんまり謙遜しているとそろそろ嫌味だよ。良い音楽を紹介しているのだからもっと堂々としていい」とアドバイスしてもらい、そこからそんなふうに話すのは辞めた。そういうふうに言ってくれる業界の先輩には感謝だ。ありがとう、タッド!

という中で、よく聞かれることがある。「どうやってそんなふうに良い音楽を見つけることができるのですか?」

確かに、私はバンドを見つけて一度仕事をすると、割と長く良い関係が続く傾向にある。それは幸せなことだ。

この業界でワールドミュージックのバンドと知り合える一番手取り早いのはWOMEXに行くこと。そこで新しいバンドを見つけてくるのは簡単だ。

または各国の音楽エクスポート協会みたいなところが推すバンドを取り上げるのも一つの手段だろう。そうすれば、そういった団体から援助が得られることも多く、それはそれで一つのスタイルだろうと思う。

だからこの世界中、ニューヨークのカーネギーホールだろうが、シンフォニースペースだろうが、ロンドンのバービカンであろうが、 WOMEXが推してたバンドが翌年のラインアップに並ぶのをよく見る。

でもそれって私から言わせれば、ダサいんだよね。ヴェーセンなんて(確か)WOMEXも出てないし、Music Swedenからサポートをもらったことも10回のツアーで一回だけ。ひどいもんだ。ルナサも私が見つける方が、WOMEX参加よりもうんと早かった。

WOMEXって今は違うかもしれないけど、いわゆる業界向けショーケースだから、結構演奏環境も厳しく、そんな中でミュージシャンはかなりハードな環境に置かれる。

ルナサはWOMEXに行って、それは楽な仕事ではなかったらしく、しかしその時とっくにルナサを日本で推してくれていたプランクトンの社長の川島恵子さんがショーケースを来てくれて演奏を褒めてくれたので「ケイコに褒められて、涙が出そうになっちゃった」と感激屋のショーンは告白していた。

例えばLAUも良いバンドだ。でもLAUはBBCよりも、WOMEXより私の方が早かった。fROOTSの表紙は、私より早かったけど。…と、これは結構な自慢である。LAUはどっかにも書いたと思うがフルックのセーラのレコメンだった。でもその前にfROOTSの表紙になってたから、彼らの名前は知っていたし、その前に出たエイダンのソロがすごくよかったから、すでに注目はしていた。

良いバンドを選ぶのにそういうショーケースイベントや団体は必要ないし、焦る必要もない。良いバンドはなんとなく自分のネットワークの中で立ち上がってくる。必ず誰かの推薦がある。

一番早いのは、おそらく現地の同業他社のインフォだ。彼らのアーティストリスト、そしてツアーの日程表は非常に参考になる。

ツアーのベニューリストはとにかく勉強になる。ロンドンだって、どこの小屋でやるかでバンドの方向性は見えてくる。

そして、もちろん音が良いものを選ぶのは当然。レコーディングをよく聞いて吟味する。ただレコーディングは今やどうにでもなる世界なので、ライブの、なるべく長い演奏動画を送ってもらうのも重要だ。

そしてできれば、新しいバンドをやる前に現地に確認に行く。私もいまだに現地に確認にいかないでやったバンドは2つくらいしかない。そのくらい必ず現地で見る。そしてメンバーに会う。ここで彼らのやる気を確認できる。

「日本に来るなんて、けっ」と思っているバンドはここでの対応がよくない。まぁでもあまり接待などを受けたり、忖度加減が感じられるのもよくない。それが行き過ぎるとジャニーズみたいになっちゃうから。

いずれにしても最初の公演はイバラの道だから、その道を一緒に歩いてくれるバンドでないとつとまらない。

そして音だけで選べない要素が、これまた重要だ。音が良いバンドはいくらでもある。ただ音が良いだけじゃ全然生き残っていけない。「ものすごく良く」ないとダメ。

あとはバンドの年齢だ。これ言っちゃうと申し訳ないけど、若いバンドは今下手でも伸びる可能性もある。またツアーをよくしているバンドはやっぱり成長するし、上手くなる。そこも見越して見極めないといけない。

またここで重要なのは上手くなくてもいいから、「バンドの方向性」をよく見極めないといけない。楽器の上手い・下手は場数を踏めばかなり改善される。でもセンスの悪さは一生治らないことが多いからだ。

たとえばフルック。ファーストの『Flatfish』はかなり音作りが甘い部分もある。が、彼らのセンスは抜群だった。かっこいいと私は思った。フルックは次の『Rubai』でものすごく成長した。

正直『Flatfish』は日本リリースするのにはまだ早いかなと思った。でもあの頃から彼らを見つけておいて良かったと思う。

あとバンドのマネジメントも重要だ。メンバーの中にマネジメントに長けた人がいるか、いないか。もしくはちゃんとしたマネージャーがついているか。リーダーが良い人か、ダメな人か。

これらの要素はすごく重要だ。ルナサの歴代マネージャー列伝は、今回のクラウドファンディングにともなうブログで紹介したが、やはりルナサと出会ったのもマネージャーによるところが大きい。

熱心に働くマネージャーは本当に私の伴走者でもある。今まで何人もマネージャーと仕事してきたが、それぞれに思い出がある。

とにかくバンドの音が良いだけではなく、そうやって多角的にバンドを見ることが重要だ。

あと重要なのがメンバー構成。ルナサは当初ジョン・マクシェリーと、マイケル・マクゴールドリックが在籍していた。

でもジョンはどう考えても長いツアーに対応できる性格ではない。確かに上手いプレイヤーかもしれない。というか、ジョンみたいなパイプは本当に滅多にいない。すごい才能だ。

ジョンの兄弟姉妹でやってたタマリンは良いバンドだったけど、彼らは努力が足りなかった。同じ時期にデビューしたコアーズよりもずっと音楽はいい。でもコアーズはすごい努力家だったけど、タマリンは努力家じゃなかったんだよね。厳しいこと言っちゃうと。

そこが明らかな彼らの敗因だ。こういうバンドに入れ込んじゃうと、入れ込んだこちらはものすごく傷つく。

ジョンは、今はアメリカ人たちの率いるオラムに在籍しているが、これまたなかなかのバンドだ。音楽はそれなりに悪くない。しかもアメリカ人がしっかりしているから、このバンドは続いている。この先も見守りたいけど、たぶん来日させるようなことはないかな…と思っている。

ライブもかっこいいけど、まだまだ一方調子。一度見たライブは演奏は良かったけど、曲の終わり方がどれも同じでつまらなかった。MCとか公演運びもまだまだ経験が必要だ。こういうのは多くの会場をこなした経験値がもたらすもので、アルバムが出るたびにアイルランドで10ヶ所くらいみたいなレベルでは到底おいつけない。

いや、最も彼らが20年続いたら、それはそれですごいとは思うけど。

とはいえ、ジョンが今の時代で最高にすぐれたパイパーであることは事実だ。あのパイプ一本で「レッド・ツェッペリン」みたいな感じは他のパイパーでは出ない。

マイクはマイクで、カパケリーみたいなある意味コマーシャルなバンドで雇われじゃないとダメだというのはある。マイクのお家は子沢山の大家族で、ルナサみたいにバンドの初期段階でドサ周りのアメリカツアーをやるという選択肢は彼にはなかっただろう。お父さんは稼がねばならない。

ルナサにマイクがずっといたら、それはそれですごかったことだろうとは思う。でもそうなるとルナサのツアーの数は半減ろころか1/4くらいの数になり、みんなで一緒にステージで演奏することが少なくなれば、当然バンドの演奏は弱くなる。となれば今みたいなルナサにはならない。

マイクにとっては、マーク・ノップラーやポップスのバックをやって、自分がフロントでなくても、割よく雇われギャラをもらって稼ぐ方が大切なのだ。その価値をわかってあげないと、マイクと付き合うのは本当に難しい。(そうそうマイクと豊田耕三さんとの笑える話があった。そのは豊田さんのブログに詳しい

でもマイクが真剣に自分の音楽をやってたら、どうなってたかな…とは思う。ソロアルバムはどれも傑作だけど、トラッド界からはあまり高い評価を受けていないのが、本当にもったいない。

またあのアルバムの音をライブでも実現するとなると予算が非常にかかる。そんなのは不可能だ。残念ながらそれが現実だ。だから今の立ち位置がやっぱり彼にとっては一番幸せでバランスの取れた位置なのだと思う。

というわけで、悪く言うつもりはないし、ルナサ=絶対にただしいとは思ってはいないが、こういうメンバーがいてはバンドが成り立たないのである。

ちなみに今日のブログの巻頭に写真を貼ったドナ。ドナは私は大好きなプレイヤーだった。今でも一番好きかもしれない。ルナサの歴代メンバーの中で、一番キュートで、愛らしくて、そして、性格はとっちらかったメンバーだった。だから、ドナがバンドを辞めた時、私は本当に悲しかった。それにあのギターは、本当にドナだけのものだった。

でも、ルナサのバンドとしての安定感は、ドナが抜けたことで増したとは思う。それでも今でも私にとってのルナサのギタリストはドナだ。ちなみにドナの参加している時のルナサの映像をこちらにまとめました。


ドナの後に入ったポール・ミーハンもいいギタリストだったけど、やっぱりドナとは全然違っていた。でも彼は献身的にドナの抜けた穴を埋めてくれていた。そして今はフルックのエドがルナサのギタリストになった。

このスタイルのギターでは、おそらく現状最高峰がエドなので、これはこれで正しい選択だと思う。ルナサはすごくそういう意味ですごく頭がいい。なので、ここで言いたいのは、馬鹿なバンドに入れ上げている余裕なんて、こちらにはないんだよ、ということだ。

とはいえ、エド、やっぱりドナとは違うんだよねー。でもルナサを脱退したドナとアコーディオン奏者のダミアンを呼んだ時、お客さん、あんまり来なかったんだよね。だからルナサ=ドナだと思ってたのは、私だけだったのかもしれない。ま、いいや。それよりもルナサが続いていくことの方が私にとってもルナサにとっても大きいのだから。

でも、たとえばケヴィンとか、バンドが始まったころ新婚だったけど、奥さんは喜んで彼をツアーに出してあげていた。良いチャンスだから頑張りなさい、と。そういうメンバーが揃っていないとバンドは生き残れない。そうやって家族の理解もとても重要だ。

そんな調子だから、最近じゃ新しいバンド、すごいメンバーが集まったというニュースを聞いても、もう全然興奮しない。「このメンバーじゃ続かないでしょ」ってのが本当に多い。

北欧にいたっては、もうミュージシャンの数の倍、倍で新しいバンドが増えていく。この中で長続きするちゃんと活動するバンドを見極めるのは、本当に難しい。で、だいたいは続かない。みんな、4、5年で消えていく。

そういうバンドの状況や環境、年間ツアーをどのくらいブッキングしているのか、メンバーの結束がしっかりしてるか(笑)。そこを見極めるのが長く付き合えるバンドと出会うには重要なのである。

…なんて偉そうだな。「重要なのである」(爆)

でもそういうふうに続いていくだろうバンドを見極めないと、こちらも同じ泥舟に乗っているようなもんだから、やっぱりやってられない。

例えば1つ前のツアー、アルバムリリースで積み重ねたこちらの努力が積み重ならず、そのまま消えていってしまう。

そうやってこちらが目一杯頑張っていったとしても、メンバーチェンジや、バンドの解散もあったりするわけで、まったくこの仕事は割りにあわない。

でも好きなバンドに頼りにされて、一緒に泥舟を漕ぐ時、私のパワーも一番発揮できるのだ。だからやっぱり自分はこの仕事に向いていたなぁとつくづく思うのであった。

続きは明日。

というわけで、ルナサのクラウドファンディング、続行中! どうぞよろしくお願いいたします。