岩城けい『サウンド・ポスト』を読みました。これは素晴らしい!


フィクションって滅多に読まない。でも、吉原真里さんが「とても良い本だった。まるで自分のために書かれた小説みたい」みたいな感想をずいぶん前に言ってらしたので、速攻購入した。

で、ずっと積読になってたんだけど、読み出したら、あっという間に読み終わった。

読んでも読んでも終わらない高野秀行さんの新刊『イラク水滸伝』を傍に置き(笑)、読み始めてしまった別の本。だって、『イラク水滸伝』重くて持ち歩けないんだもの。

いや〜、この本、すごい。最初の数ページで掴まれる。話の展開が早い。もっと展開がノロノロでもいいような気もするが、最近ドラマとかみても展開早いもんなぁ。展開が早くないとダメなんだろうか、最近の本は。

で、内容はといえば異文化、言語、音楽、クラシック音楽、ジェンダー、人種…  なるほど、すべて吉原真里先生案件じゃないのーーーっっ!

シングル・ファーザーと娘の話なんだけど、周辺大人たちがみんないいんだ! 特に瑛二さん。特に二人目の先生。みんなの愛に見守られて、成長していく娘。

それにしても、この父親の献身度ったら、すごい。彼はあまり強い意志を持ってオーストラリアに来たのではない。

で、現地でフランス人の女性と結婚して、娘のメグが生まれた。お母さんが話していたフランス語がなんとなくメグの最初の言葉だ。幼稚園で、学校で、英語を覚えてくる娘と対峙する父親は英語をあまり得意とはしていない。一方娘は父親の母語である日本語がしゃべれない。

またルックスもアジア人な父親とは逆に娘は白人のルックスをしている。これではなかなか外出も難しい。(まるで白人の子供を誘拐してきたアジア人男性である)

そして音楽っていったいなんなんだろうとか、いろんなことを考えさせられる。特にアジア系のミュージシャンの卵たちが多数集まる中で、娘は白人と言われいじめられる様子など、本当にひどい。

一方、この親子によりそう、父親の仕事のパートナーである瑛二さんがナイスな存在だ。瑛二さんは家族を捨ててこっちに渡ってきた。娘(瑛二さんの姉)のピアノのレッスンのために疲弊して亡くなった母親。「学歴もキャリアもない、フツーのおばちゃんで「タカラヅカ」見に行ったり、「ジャニーズ」のコンサートに行ったりするのが好き」な母親。

それに甘えていた姉。家族を振り切って、オーストラリアに来た瑛二さんだけど、この父親と娘にはかけがえのない友人だ。

メグをさりげなくバレエのコンサートに連れて行ってあげたり、バーに連れて行って自分はカクテル、メグには大盛りのスパゲティを頼んであげたり、フォークコンサートやアイリッシュミュージックが演奏されているフェスティバルに連れていってあげたり…とか。

いやー 抜群にいい位置だよなぁ。私も親になるのは面倒くさいけど、人の子供の世話をやいたりするのは大好き。

そして無責任にも「良いおばちゃん」の立ち位置にいて「親と喧嘩したら、おばちゃんチにおいで、泊めてあげるから」的立場をキープ(笑)するのが好きなのだ。

そうそう、特にメグが音楽学校でいじめにあったシーンとかの瑛二さん、超かっこよい! 

また自分のレストランに出入りするお金持ちをシニカルに見つめる眼差し。これも最高。「貧乏暇なしで、毎日地べたを這いずりまわっているようなおれたちからすれば、少々癪に触る連中かもしれんが、あいつらもあいつらで金がらみの気苦労とか、切っても切れない縁故とか、七面倒くさいことが山積みなんだろう…」と金持ちで日本人としかつるんでない連中を静かに斬る。

日本人同士でつるむしかない人びと。その閉鎖的なコミュニティ… いろいろあるよなぁ、海外行っても、全然英語うまくならない人は実際にたくさん私も見ている。

そしてヴァイオリンを愛する娘は、音楽を完璧に演奏するだけではなく、なんのために音楽を演奏するのかを自分で掴み取っていく。そしてたどり着く「音楽って言葉なんだ」と。

これ、映画『めぐり逢う朝 All the morning of the world』と一緒だよえ。「音楽はなんのために存在するのか」という弟子の質問に、師は「言葉を持たないもののため」「言葉にできない気持ちや感情をあらわすため」と答える。

あぁ、やばい音楽って、素晴らしすぎる!! これって、なんか永遠のテーマだ。

ヴァイオリンのセルゲイ先生の言葉もいい。

「目に見える文字は、それを目にしてくれる人をひっそりと待つことができる。その中でも特に存在を値すると認められた作品は、世間から長生きをするtこおも許される。しかし、音は目に見えず、手で触れられず、おまけに一瞬の命でしかない。音は一瞬の命をもって、直接人ん心に訴えるものだ」

それにしても娘を適度な距離感で見守り、決していろんなことを強要したりしない先生や大人たちもいい。ただただ彼女を見守る。いやーー こりゃ泣けるわ。

ちょっと映画『コーダ』を見た後だったから、余計響いた。あれも親が子供を「行かせてやる」映画だから。

そして、最後は涙、涙のエンディングで、外で読んでた私は大騒ぎだったんだけど、いやー やられたー。



PS
吉原さんの新刊『不機嫌な英語たち』も、ジェンダー、人種、言語などなど最高に面白いですよ!! チェキら〜 9月26日から書店にも並んでおります。

 

こちらは著者による開封の儀。ハワイにいる吉原さんに新刊本が届いた!