とある出来事


夏も終わるなぁ…


90年代前半の話だったと思う。当時音楽を売るにはタイアップが絶対条件だった。タイアップがあればレコ発が決まり、プロモーションに力を入れてもらえる、そういう時代だった。

私はすでにレコード会社を辞めていたけれど、メアリーの日本代表(レップ)という形でメアリーにはずっと関わっていた。

当時、きっかけは人の紹介だったと思うのだけど、民放テレビのプロデューサーと仲良くなった。結構頻繁に二人で飲みに行ったりもしていた。すごく優しくていい人で、慶應幼稚舎からのおぼっちゃま。いわゆる民放テレビ局によくいるタイプの人だった。

おぼっちゃまの友人は私は結構多い。おぼっちゃま的なブランドな育ち方したほど、私みたいな田舎出の雑草キャラが気に入るのだろうか? その人は某スポーツ番組を担当していた。

そしてそのスポーツ番組は、きらきらのドラマと違ってタイアップの売り込みは、レコード会社から来ていないようだった。

でも「毎週のようにXX(その放送局お抱えの音楽出版社)からカセットテープ(当時はカセットテープだった!)が来て、それが出社すると机に置かれているんだよねー」とその人は言っていた。

これが放送局と放送局系出版社の関係なんだなと私は理解した。

いわゆる放送局系の音楽出版社にロイヤリティをふらないと番組のテーマ曲なんて決まらない。

こういうことは日本独自の話で、アメリカなどではこんなやり方は独禁法違法とされている。

でもそれは日本では禁止されてないので、そうやって放送局系の音楽出版社が自分のところで権利を持っている楽曲を、番組テーマ採用を期待しながら、自社のテレビのプロデューサーの机の上にカセットテープを置くのだ。

放送でかかれば、それが還元されて音楽出版社に戻るし、ドラマのタイアップになればCDが売れて、そこからもさらに出版社へ利益が入る。まさに公共の電波使って寡占状態を生み出しているというわけだ。

まぁ、いろいろ思うところはあるけれど、日本ではそれが常識なので、その話はここではいいとして…

でも、そのプロデューサーは、本当におぼっちゃまタイプの人だったので、毎週自分の机の上におかれる、それらのカセットテープが何を意味するのか、良くわかっていない様子だった。

確かにテーマ音楽のタイアップなどで、ギラギラしているのはドラマやピカピカのゴールデンな時間帯の番組たちであって、ある意味マイナーな番組を担当している私の友人は、意に介せぬといった風情だったんだよね。

それよりも実際日々の番組を作るのに忙しくしているようだった。もちろんそれは当然だ。確かに特に音楽ファンでない限り、番組のテーマ曲に関する制作者の気持ちなんて、そんな程度なのだ。それが現実だ。

ある日、私は自分がその人と仲が良いのをいいことに、また彼が音楽にさほど興味がないことをいいことに、彼にメアリー・ブラックを番組のテーマ曲にしてもらえないかと頼んでみた。

そしたらその人の回答は「それは難しい。そこは芸能事務所Xが担当するから」だった。そして、その理由がすごかったのを今でもはっきりと覚えている。

それはテーマ曲が出版がらみであること以上に、その芸能事務所には放送局がからむイベントの動員もお世話になっているから、これを変えるわけにはいかないんだよ、という内容だった。

具体的にはこうだ。スポーツだって、トップのエキサイティングな試合でもないかぎり、試合やイベントをやっても、そこに観客が集まることがない。ところがその芸能事務所のアイドルを使えば、そこにお客が来てくれる。

イベントのオープニングで彼らにカラオケで歌い踊らせて、それで客席を埋める。そうでもしないとそのスポーツイベントには人が来ないからイベント自体がなりたたないのだ。

すごいな… 。

放送局だけではなく、そのスポーツの運営団体までもが、その芸能事務所とがっつり絡んでいるんだなぁと思った。こんなんでは私なんぞが太刀打ちできるものではない。

これは特に違法というわけではないかもしれない。単に自分たちの得意なところで、相手を補なってやる、それだけのことかもしれない。

でも、ほんとに実際やってみるとわかるんだけど、イベントに人を集めるというのは、ものすごいことなのだ。

これはまた別の話だが、私が某放送でインターネットラジオの番組をやっていた時に、新しくできたイベントスペースにケルトをネタに200人のお客さんたちを集めたことがある。私にとっては無料イベントだし、内容も悪くなかったし、別になんの無理もない想定内のことだった。

そしたらそのイベントにやってきた広告代理店の人がひっくり返るくらい驚いていた。「いったいこの人たちはどこから湧いてきたんですかね」と。

ラジオ局で、例えば局の看板を担っているDJさんが出てくる無料のイベントでも、滅多に200人なんて集まらないそうである。そのくらい、多くの事象において「ファン」には実態がないのが現実なのだ。

だから、マイナースポーツのイベントの、しかもあまり上手い人が出ていないレベルの試合に人が来ないというのは、めっちゃ想像できる状況ではある。

人が来なければ、イベントはなりたたない。すべてが倒れてしまう。つまりはこうやって「X帝国」は築かれていく、という例だ。

でも、本来は、そここそがメディアの力の見せどころなんじゃないのか? なんとかその(マイナーな)スポーツの魅力を伝え、普及することに努力するのが放送局の役目だろと思うのだけど、その放送局は自分の力を使わず、安直にその芸能事務所に動員を100%頼った。

こんな関係なのだから、切っても切れないのは容易に想像できる。


さてメアリーのその後だが、私があまりに熱心に言ったので、そのプロデューサーの彼は、メアリーの某曲を番組のエンディングで流してくれた。

番組の終わりの静かなエンディングにはまっていて、それはとても素敵だった。三ヶ月くらい流れしてくれてたかもしれない。クレジットを入れてもらっていたかは、記憶にないけれど、優しい彼のことだから、頼んだら間違いなく入れてくれていただろう。

私は当時、キングレコードの元上司にこの件を伝えに行った。メアリーがエンディング・テーマになっています。マイナーな民法の番組ですけど、一応全国放送で…と。

その元上司はいい加減な音楽業界の中でも、もっともいい加減なやつで、私をイタリア料理店に呼びだしニコニコと対応してくれたのだが、その後の連絡は一切なし。ことが進むことはいっさいなかった。

今の私は、どちらかというとそっちの方を恨みに思っている。故人だからといって容赦はしない。

ほんと音楽業界って、いい加減なやつばっか! だから私が今一緒に仕事をしているのは、音楽業界の中で、もっとも真面目で真摯な人たちばかりである。真面目な人以外とは、なるべく仕事はしない。

まぁ、レコ社なんて、こんなもんだろうなと諦めた私がそこにいたのでした。私は、もうこのレコ社はダメだと思い、メアリーは新しいレコード会社に移籍させることにした。それが95年の話。

懐かしいな…

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