テオドア・ヒアナイス著、森本智子訳『ルートヴィヒ2世の食卓 メルヘン王に仕えた宮廷料理人の記憶』を読みました

 




まだまだブックレビューがたまっています。いやー この本は…ドイツ文化のエキスパートである森本智子さんの訳、まさに森本ワールド全開!(笑)

テイストは「ビアマーグス」にも似ているけれど、これはそれと同じかそれ以上に面白かった。

友人の書いた本は、早く読んでプロモーションに貢献しなくちゃと思っているのだけれど、すっかり出遅れた。宣伝って今やタイミングが大事。同じ内容のものを4回みると人はその物や案件を記憶に残すのだという。5回以上見れば「これは流行っている」と認識し、購買につながる… というのは宣伝の知恵。

だから、たくさんコメントや宣伝がかかっている時期に自分も参加していかないと意味ないよね…とわかっているのだが、出遅れました! でもまだまだイベントもやってらっしゃるようだし、引き続きプロモーション頑張って!という感じです。 

というわけで知っている人が訳した本だからというバイアスはあるにせよ、それを抜きにしてもこの本は面白かったです。

普段ドイツの文化に接することはほとんどない私だけど、森本さん関連のはチェックするようにしてんだ。なんてったて、それによって美味しい物の情報がゲットできるし(爆)

こちらは中世ではなくもっと最近の話。いわゆるバイエルンのメルヘン王「ルートヴィヒ2世」に仕えた料理人の書いたノン・フィクションである。

話は料理人の彼が14歳で初めてお城に入って宮仕えとなるシーンからスタート。最初はドキドキおっかなびっくりながらも、少しずつ謙虚な彼は自分の職業をものにしていく。

王様のメニューにザルツブルグのあの山の形をしたメレンゲ菓子が出てきて、狂喜乱舞! ザルツブルグで食べたっけ。メニューには2人前と書いてあったけど「大丈夫かしら」と言う私にウェイターさんが「一人で召し上がる方もいますよ」とうながされ、本当に一人でぺろっと行ってしまった。あのスイーツ。

写真が残ってた…







一人で食べているのに、スプーンを律儀に2本出してくれたレストランさんが笑える。

それにしても食べ物から見えてくるメルヘン王の非凡さ。すごいわなぁ。なんとルートヴィヒ2世は、昼と夜が逆転した生活をしていたのだそうだ。なるほど、それはまさに鬱(うつ)の症状の一つかも。

でもこの本によると食べ物にはこだわりがあったということなので、となると鬱ではないのかも? これはいったいどういう症状なんだろうと思う。気分屋の王様が、ものすごい僻地に出かけていくと宮廷料理人たちもゾロゾロとそれに同行し、限られた環境の中で普段と変わらない食卓を作る。

ルートヴィヒ2世は、すぐキレて怒ったり精神的に不安定だったことで有名だったらしいのだけど、とても芸術を愛した。音楽を愛した。ワーグナーを愛した。建築を愛した。お城を愛した。

そして不思議なのは、召使たちがそれでも彼を割と慕って尊敬していたことだ。まぁ、この時代、王様に仕えないと生きていけなかったり、そもそも「生まれ」が違うということだけで尊敬しちゃうようなそういう時代だったのかもしれないが、それにしても…と思う。

この本の中で好きなエピソードがあって、それはオルゴールにまつわるものなのだけど、そのエピソードがなんかいいわぁと思って読み進めていたら、最後のオチもそのオルゴールだったりして、ちょっと笑った。音楽好きな、気むずかし王の、ちょっと素敵なエピソード。

そうそうこの本は、彼の書いたノンフィクションだけではなく森本さん他、ドイツ文化のエキスパートによるコラム解説も挿入されており、ドイツの歴史が全然わかってない私のような読者をサポートしてくれている。

ドイツには何度か行ったことがある。アイルランドの仕事ばかりしている時期は、ロンドン経由で飛ぶことが多かったけど、北欧の仕事もカバーするとなると便利な経由地はドイツなのであった。(特にロンドンと北欧はフライトのコネクションがあまりよくない。なんでだろう)

だから行ったといっても空港ばかりで、フランクフルトの空港はどうも苦手だけど、行ったことのある普通の街、ベルリンやライプチヒ、ミュンヘンは好きな場所だった。でも観光で行ってないから結局ロマンチック街道のお城は訪ねていない。

王は芸術を愛したけれど、王様である以上、私みたいに好きな時間にランニングしたりピアノを練習したり、好きな職業についたり、コンサートに出かけることはできない。王というものは、ちゃんと公務をこなしてこその王なのだ。それを思うと、ちょっとかわいそうだよな。

そんな彼は失意のもと、最後は謎の死に方をして、その短い生涯を終える。

そして! わたしはといえば、この本に促されるようにして、今まで「見なくては」と思いつつ見れてなかった映画『神々の黄昏』(3時間!)をついに見てしまったのだった。

とにかく長く、淡々と進むので、1時間見ては寝落ちしながら、3、4回に分けて見た。

まさにむせかえるようなヴィスコンティの世界。王様、ハンサムすぎる。私はどちらかというとシャープなハンサムは自分の好みではないのだが(爆)、この王様(俳優さん)は、すべてを圧倒するくらいハンサムだった。

後半の病気メイクもそのハンサムさをますます引き立てる。なんて素敵なお顔なんでしょう(笑)

そして、なんとなく思い出した。高校生の時、社会だかで入ってきた若い女の先生がヴィスコンティが大好きで、それを私はとてもおもしろがって煽っていた(笑)。

彼女から試験のペーパーが戻ってくると。彼女はその余白に「『神々の黄昏』はすごいのよー」とか言って、俳優さんの似顔絵や映画のことをちょっと書いてくれたりしていた。

当時、彼女も千葉の田舎で教師をしながら暮らしていて『神々の黄昏』を観るにはおそらく首都である東京に行くしかなかっただろう。というか千葉でそもそも上映されていたんだろうか。千葉の田舎で私が卒業したあとも、彼女は教師を続けていたのだろうか。

あの先生、どうしているだろう。私たちと年齢も変わらなかった若い先生。名前は忘れたけど、顔はなんとなく覚えている。綺麗な先生で、ヴィスコンティのことを語る彼女は、妙に活き活きとして楽しそうだった。というか、そもそも田舎育ちの私たちにとって、海外や白人男性は憧れの対象だった。

というわけで、この本に出会うきっかけは、普通の人は逆だと思う。普通はドイツのロマンチック街道を旅したり、ヴィスコンティの映画を見て「おー、あのルートヴィヒ」と興味を持たれてこの本を手に取る方が多いのではないかと思う。

私は逆にこの本で、ルートヴィヒのことを知った。私は森本先生の大ファンなので買ったのだけど、ぜひぜひドイツ文化に興味ある方は読んでみて。

歴史ってほんとつまらないと思いがちだけど、「ビアマーグス」でもそうだったけど、こういうふうにその時代を生きてきた一般の人の生活や気持ちを読むことで、ぐっと身近に感じることができる。歴史って面白いよなぁ、と大人になってから思う。学生時代、どうしてこういうこと勉強しなかったんだろう。

こちら『山猫』と一緒になってますが、素敵なトレイラー。いやぁ。ハンサムよねぇ。ヘルムート・バーガー。

 

まぁ、でもヴィスコンティはこっちだな。ワーグナーよりマーラーの方がいいし。


私は自分のイベントと重なってて残念ながら行けないけど、イベントもあり。 

 

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