三宅香帆『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』を読みました

 



むちゃくちゃ面白い!! よく書けている! と、思わず上から目線的な感想書いちゃったけど、この著者、ものすごく若いのよ。まだ20代。でもすごくよく書けていると思う。

新書って、ちゃっちゃと書いちゃいました的なものに時々出くわすけど、これは違う。

本と日本人という歴史を振り返り、本って最初は誰かが「朗読」して、それをみんなで聞くものだったとか、明治時代になってやっと人は自分の読みたいものを選んで本を読めるようになったとか(そして句読点が日本の文章に導入された)。

そして図書館文化、勉強すれば成功できるという考え方の定着、明治の後半には自己啓発書みたいなものが登場し、そして教養というものの捉え方、戦前サラリーマンの「円本」(なんとか大全集的なもの=これが積読の元祖!)、百科事典のブーム(この辺は月賦みたいな制度とも結びついて大ブームとなる)等々、よくまとめられている。

そして、とにかく図書館でも本屋でも「好きなものを選んで読める」という時代が、意外に短かったことにも気付かされる。

著者はまた映画『花束みたいな恋をした』(私はまだ未視聴)を題材に階級や労働に対する態度と、読書体験を取り上げていく。

そして、そうそう、あったあった、70年代のおじさんは司馬遼太郎の歴史小説をみんな読んでいた。そしてテレビからのヒット「テレセラー」の誕生。

そして「テレビなんかで紹介するとはけしからん」と言って、ドラマ化を拒否し、シーンから消えて行った作家の存在なども。うーん、やっぱりそれではダメなんだな。時代の波に乗って作品を残さないと! 

まぁ、でも今でもいるよな、作品よりも自分のプライドが大事な表現者。と言うか、そっちの人の方が多いっか。

いやー 文化は時代だよなぁ。そういやYou TubeやTikTokの書評動画を批判してた人もいたよね。今も昔も変わらないなぁ。

しかし意外だったのが、文芸誌と作家の関係。これ、今だに変わらない! いわゆる作家を食わせる方法が100年以上変わらないってのも、なんか… ちょっと…すごい!(笑)

自己啓発などの世界へ。そしてカルチャーセンターの台頭。いやー いろいろあるわ。確かに自分が知っていることも多いのだけど、それをよく体系的にまとめたよなぁ、この著者さん。

そして仕事が、常にアイデンティティの中心だという現代日本人の悲しさ。これもいつの時代から始まったことかなどよくわかる。

面白いのは
 情報=知りたいこと 知識=ノイズ+知りたいこと
という事実。

なぜ私たちは本を読まずにインターネットにつながるのだろう。それはノイズのない情報だけを取りたいから。(そしてここは前に読んだ『映画を早送りで観る人たち』の本にもつながっていく)

ノイズを排除し、コントロールできる部分に集中する。それがビジネスの役にたつ。それが『人生の勝算』であるということは、たくさんのビジネス書に書かれている。それがここまで来てしまったのではないか?

だから現代日本人にとって「本を読む」という行為は、自分以外の文脈を理解する。労働の合間に休息として癒しや豊かさを求めるおとこなう「レビュアー」ではなく、ボランティアや社会的活動、副業など自分の人生の生き得る意味となる「シリアス・レジャー」なのだ、と。(時にこれが保守に利用されているとも)

でも著者は「全身全霊で働く」というのではなく、半身(はんみ)で働くのがいいと説く。つまりはもう少し人生に余裕を持てよ、と。
 
これ、わかるわぁ。それこそ「自由」なのよね。本当に、どこへも100%全身全霊をそそがず、自由にしていること。ふわふわ いろんなものの合間をういいるように生きること。

それって重要よねぇ…といいつつ、私もかなりの仕事人間ではある。

ちなみにこの本=「情報」「知識」はすごくするどい指摘で、私の読書の仕方もそういう傾向はある。私は一冊の中に自分を見つけるのが好きだということ。著者は私とは違う生き方をしているわけで、そういた「違う人間である」「違う経験をしている」という、その時空を超えて共感できる著者の言葉を常に探している、ということ。

そして本の中に自分が共感できるポイントが多い時に、「この本はいい本だ」となる。加えて私はあまりフィクションを読まない。

角幡さんの「人生なんぞや」みたいな本やビジネス書、啓発本とかが好きなのは、自分が普段考えていることと見事一致するからだ。

それにしても日本人は「勤勉」なのだな、と思う。というか、勤勉すぎて、そこに人生の軸がありがち…というか。本来本質は違うところにあるはずなのに。

そして「知らない」ということへの不安が大きすぎるんだと思う。あれ、これ、どっか別のことでもこの話聞いたな。なんだったけか。あ、あれだ、ポッドキャストで聞いた、LGBTQ+に関する理解が進まないという話題だった。

LGBTQ+への理解が進むためには、みんなの「慣れ」が大事だと。LGBTQ+の当事者の知り合いが一人でもいれば、その人の視野はとても広がる。

ところがそういった経験がない人は、怖くて不安で、そのくせ頭が妙に働くから「知らない未来」への不安ばかりを想像してしまう。

とにかく知らないのが不安。知らないのが怖いから、当然変化も怖がる。そして最短距離で情報を取りたい、という。自分は絶対に損をしたくないと思う。それが日本人なのかもしれないね。そりゃ本じゃなくて、インターネットに向かうわな。

そしてこれは決定的だと思うのが、働き方=生き方ということになってきてしまっている、ということ。普通に仕事して、好きなことに時間は別に使うと、そういう柔軟な考え方ができない。仕事がすべてで、仕事の内容で人生を判断してしまうし、他人からも判断されてしまう。

日本人の読書は、そんなふうに日本の労働史とものすごく深く結びついている。働き方が変わっていくと、読書のスタイルも変わっていく、と著者は言う。

そういう意味でも、読書については、まだまだ可能性があると。そして最後は著者のものすごく前向きな提言で終わる。

いやはや素晴らしい内容でした。しかもこの本、売れているという。素晴らしいです。

みんな知らないことを体験しよう! 本を読もう! 

しかし、本は人気ないよな。音楽よりもその未来はもしかしたら悲惨なものなのかもしれない。このブログでも、本のレビューを書くとアクセスが減る(笑) 

でも私は本を紹介するのが好きだから、ここに本の感想を書く。まぁ、でもそんな自分の行動も、それもたくさん読んでたくさん感想文を書く、ある意味「消費」行動の一つなのかもしれない。

それにしても新書っていいよね。こんなふうに著者が真剣に書いたことが、ちゃっちゃと読めば2日で読めちゃう。

篠田真貴子さんも絶賛だよ。こちらの篠田さんの感想文に背中を押されて、私もこの本を書いました。私のチャラい感想よりも、こちらを読んで。さすが篠田さん、ポイントがするどい。

ところで本を読むのはどうしたらいいかと聞かれることが多いんだけど、やっぱり要は「好奇心」を止めないことだと思う。知らないことを、まずは「私は知りません」と正直に認められること。そしてその知らないことを知りたいと思うこと。これが大事だと思う。

まったくもって物欲は止められるが、食欲と知識欲にはあらがえない。ネットの情報じゃ全然物足りない。やっぱり本がいい。

そして物理的には、とにかく時間があいたら読むこと。私はトイレには雑誌やMOOKを置き、本を持たないで自宅のお風呂に入ることはない。

一番好きなのは、寝る前に布団の中で読むことで、だいたい1時間くらいは読む。ひどいとそのまま夜明けを見ちゃったことも何度かあるけど、30分くらいで寝落ちしてしまったりすることもある。

移動の時は必ず本を持って出る。私は新刊本を買うことが多いので、これが結構重い。

下手すると編み物も持って歩いているから、カバンはいつも膨れたままだけど(笑) 小さいカバンをちょこんと持っている女の人が羨ましい(ってのは嘘)。

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ところでこの本にあまりにも何度も出てくるので、ついに映画『花束みたいな恋をした』を見てしまった。この本を読んで、やっとこの映画を見る気になったのだ。なるほどね。これはロマンチック。

しかしこの映画大ヒットしたんだよね。正直私には全然響かなかった。いい映画だとは思ったけど、iPadで、配信で適当に見てたのがよくなかったのかな。映画館で見てたら感動できた気もしないではない。

切ないけど、まぁ、よくあることだろ…で終わってしもた。(と、超投げやり。この映画好きな方、すみません)




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