吉村昭『冷たい夏、暑い夏』を読みました。すごかった…すごかったよー


すごい本だった。吉村昭さん。『破船』のすごさに圧倒されて大人買いした吉村さんの本の、何冊かの中の一冊。ずっと積読になってた。『破船』の感想ブログが2022年の5月だから、2年ちょい塩漬けにしていたことになる。

なんか最近「死」について思うところがあって、積読の山からこの取り出し読んだ。最近、自分よりうんと若い友人が亡くなったから…なのかな。なんだか最近「死」についてよく考える。

覚悟はしていたが、いやー 壮絶だった。壮絶な死だった。

正直、これは癌患者さんは読まない方がいいかもしれない。あ、自分も癌患者だったっけ(笑)。いや、心配しないで。私の場合は、まだグレイゾーンで、無罪放免になっていないというだけの話だ。

まぁ、それについては、何度かこのブログにも書いているので、興味ある人はそれを読んでもらうとして、とにかく癌で死ぬのって、こんなに辛いのかと、もう読んでいてぐったりだった。

もっとも昭和の時代の癌患者の死だから、緩和ケアもなにもなく、とにかく死が痛くて苦しくて辛くて大変だったというのはあるのだが、とにかく死ぬまでが本当に大変で、早く死にたいのになかなか死ねないし…。これ、自分も死ぬために通過しなくちゃいけない道なのであれば、たまらない。

癌が発見されてからたった1年という、あっという間の下り坂で、兄として弟に寄り添い、それを描きった著者のパワーに圧倒された。著者も自身も発熱したり体調不良を抱えながら、時には病院の近くのホテルに泊まりこみながら弟を見守った。

それにしても、弟さんが亡くなったのが81年だと知って、ちょっとホッとする。こんなに死が辛いのであれば、これは怖くてしかたがない。でもよかった40年前の話だ。今はもう違う。と、同時に自分も痛みがあまりなく、上手に死ねなかったらどうしようと思う。

そもそも告知…というか、この当時は癌は告知しないのが普通だったらしいから、やっぱり辛い。よかった、今の医学は飛躍的に進歩をし、考え方もどんどん新しくなっているのだから。先人たちに感謝だ。

…とは、思うものの、それでもこの壮絶な死は迫力で、今もなんだか思い返すとそれが重くって、今も震えがとまらない。

現代では、もっと眠るように楽に死ぬ方法があるというのは、どこかで読んだことがあるから心配していないが、いや、こんな思いをするのだったら、交通事故か何かで一瞬で死ぬ方が楽でいいよなぁと不謹慎なことを思ったりする。

普段、癌で死ぬのはいい、自分でも準備ができるし、遺族も心の準備ができる、とかほざいているくせに、私も情けない話である。

いや、ほんと、初めて死ぬのは怖い…と思った。

吉村さんと弟さんは年齢も2つしか違わず、しかも吉村さんが以前危険な病気になった時に献身的につくしたのが弟さんだったから、二人の結びつきはとても強く、この弟さんの死は本当に吉村さんにとっては辛いものだったと想像する。

実際、この本も「書かずにはいられない」といったものすごい迫力にあふれている。

そして、驚くことに、実際、吉村さん自身も、最後はチューブを自分で引っこ抜き、尊厳死的な死をもって亡くなったらしい。すさまじい。こちらは2006年の話。

弟さんの看病中も、苦しみに苦しみ抜き最後は狂うようにして亡くなったお母様の死のことがなん度も回想されたとが、この本には書かれている。お母さんの壮絶な死。弟さんを看病しながら、吉村さんにそのお母さんの幻影がしのびよる。そして弟さんの壮絶な死。

でも本当に自分が癌だということを知らないというのは、いろんな意味で残酷だよと思った。私は子供のころからドラマとかで癌や不治の病で亡くなる人を見るたびに、自分だったら知った上で死にたいよな、とずっと思ってきた。

だから、告知が普通となって、良い時代になったよなぁと思う。もちろんそれは精神的なこともあるけれど、当然、助かる見込みが向上したという、医学の新譜によるところがとても大きいわけだ。

それにしても例えば入院中の友人の訪問は嬉しいのか…とか、この本を読んでいてモヤモヤする部分はたくさんある。それが本人ではなく、その友人でもなく、遺族ならなおさらだ。

死んじゃった人はいいよね。もう「いない」んだから。でも友人や遺族は、そのモヤモヤや後悔みたいなものをかかえて生きていかないといけない。

弟さんの親友だという江口さんと原田さんの行動のあれこれにはグッと来た。「病院まで来たんだから、もういいんだ」と言いながら結局本人には会わずに帰宅していった二人。最後に一度会い、弟は嬉しそうにしているように見えた…など。

あぁ、気持ちわかるよ。気持ちわかる。

また亡くなる寸前、息がちょっと楽になった弟さんは、集まった親戚を見渡して「こんなにみんな集まってくれているんじゃ、死なないわけにはいかないなぁ」と憎まれ口をたたいたそうで、それも…なんか…すごい。

そんなユーモアを忘れない弟さんだったけれども、闘病中は、苦しい、辛い、兄貴、なんとかしてくれ、と何度も何度も吉村さんに訴えたのだそうだ。こんなふうに身近な人に死なれたら、これは重くて仕方がない。これを持って、ずっと生きていかねばならないのか。

すごい本だった。読むのが怖いという人がいるかもしれない。でも私は読んでよかったと思っている。この本はこちらのリンクから購入できます


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