さてこの映画。褒めようか、貶そうか、とっても悩む映画ではある。褒めようと思えば、延々褒められる完成度の高い作品だし、貶そうと思えば、これまた貶せる映画でもある。
ちょうど「これ見にいくんだよねー」と見にいく前日にご飯した友人に話したら「あれって、超賛否両論らしいですよ」とのことだったので、覚悟して見た。
吉田大八監督、好きなんですよね。『桐島、部活やめるってよ』も面白かったし、特にテレビドラマ(テレ朝)の『離婚なふたり』(リリー・フランキーと小林聡美)は最高だった。そして『羊の木』も良かったし、映画の『紙の月』(女優対決すごかった。小林聡美と宮沢りえ!)も相当面白かった。
というわけで、期待して見に行ったんですよ。映画『敵』。
というわけで、良いと思った点。老人の日常や考えていることが、めちゃくちゃリアル。偉い大学の、その筋の権威だった高齢男性。日々、丁寧に料理をし、ルーティン通りに生活している感じは、まるで映画『Perfect Days』の役所さんのようである。
しかし同じ男性の一人暮らしで役所さんが幸せそうに見えたのに、こっちの男性は幸せに見えない。
役所さんは、生活のひとつひとつが自分が選択したルーティンに規則的に従い、そしてきちんと生活し、掃除をする姿も妙にストイックだけど楽しそうでもある。
役所さんが朝起きて、空を見上げる時、サントリーの缶コーヒーを飲む時…などなど。彼の幸せを視聴者は共有することができる。
一方、こちらの男性はしっかり料理をし、丁寧に過ごしているようで、日々の感情があまり感じられない。ご飯を食べても美味しそうな感じがしない。そもそも社会的に成功した元教授だったりで、共感できるポイントが薄いのか?
でも、高齢男性のそんな感じが非常に丁寧に描かれている。最後の方の、言ってみれば、彼の「妄想」的なものも含め…。
で、一方貶そうと思えば、「ま、老人の男性が考えてることって、こんなもんでしょ」みたいな意見も頭をもたげてくるよね。そして、それが何のカタルシスをもたらすわけでもなく、映画は淡々と終わる。
モノクロで撮影されている映像は十分美しい。音楽も良かったし、エンドロールで流れる音楽+生活音も、すごく良かった。ただこれを絶対に見なくちゃいけない映画…とするのは、ちょっと違うかな、とも思う。とは言え、見ないのは惜しいかな、とも思う。
また別の友人によれば、本の方はもっと面白いそうだ。原作があるのか。読んでみたくもある。筒井康隆ねぇ…
あ、そうだ、俳優さんたちのことを書くのを忘れた。長塚京三さんは素晴らしく、本作が彼の代表作のひとつとなっていくことだろうと確信する。私が結構好きだったのは、謎な女子大生、河合優実さん。まったく自然で、これアドリブで言ってんのかなと思っちゃった。
登場人物、みんな魅力的だったよね。編集者と、その編集者についてくる若造みたいな新しい編集者。ずうずうしくお鍋に合流してくるところなど、いったいどこまでがリアルなのか、どこからが老人の妄想なのか、まったくわからない。
いやぁ吉田監督すごいなぁ、コメディからこう言う作品まで撮れちゃうわけなんだから。また次の作品もたぶん見にいくだろうなぁ。
松尾潔さん、大好きなんだけど、夕刊の連載が終わってしまったそうで。こちらが最後の記事。そしてそこでこの映画について語ってらしてる。おつかれ様でした。
本日(1/30)発売 #日刊ゲンダイ 連載コラム #松尾潔のメロウな木曜日 第129回。
— 松尾潔 (@kiyoshimatsuo) January 30, 2025
無念の打ち切り! 22年9月から続いた本連載もこれが最終回です。ご愛読いただいたすべてのみなさんに心からの感謝を。
映画『敵』、そして森永卓郎さんについて。#島田雅彦 #中森明夫#長塚京三#吉田大八#筒井康隆 pic.twitter.com/3X7vRjYbHV
松尾さんはこちらの記事も書かれている。いいタイトルだよね。人権より大事な芸術なんてない。まずはそこから。
#西日本新聞 の月イチ連載「#メロウな徒然草」(イラスト #遠藤舞 さん)。先週紙面に掲載された第5回を全文公開。
— 松尾潔 (@kiyoshimatsuo) January 30, 2025
昨年10月にディディことショーン・コムズを取りあげた「作品に罪はあるのか」 の続編。今回は、昨年末のNHK紅白歌合戦に出場した星野源さんの曲目変更について考えます。 pic.twitter.com/REVW6iMwAZ
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