エミリー・ブロンテの『嵐が丘』は大好きな小説ですが、なんと60歳にもなるのに映画『嵐が丘』を今年になるまで見てこなかったことに気づき、このままでは一生『嵐が丘』の旧作映画を見ないで死にそうな気がして、このためだけに合宿をすることにしました。
ひとつのことしかしない期間を強制的に設ける。それを「合宿」と呼んでいます。
時々、おにぎりをたくさん作って自宅にこもる「経理合宿」や「原稿合宿」もやりますが、今回は楽しい本当の合宿。
そもそも自宅のような他のことも出来てしまうような場所にいると、なかなかひとつのことに集中できない。わたしが配信映画を自宅で見るのが苦手な理由は、それです。
というわけで、今回は友人が前に行ってとってもよかったと絶賛していた旅館を「じゃらん」で確保。
旅館というか、ペンションという名前なのですが、ほんとに簡素だけど、必要なものはすべてそろっており、温泉もあり(24時間OK)、かつご飯がお魚中心で最高に美味しい。
…ということで行ってきました。で、実際それはその通りでした。なんといっても一人旅にも優しいお値段!! そして東京からも簡単に行ける。
というわけで、スタート!
まずはリストを作り、わたしの配信環境で見られる『嵐が丘』が4本あることを確認。さすがに4本もあると8時間だから結構時間がかかる。お風呂にもゆっくりつかりたいし、結構タイトなスケジュールです。
合宿時間内にちゃんと見終わるかな…。
なので1本目は電車の中で見始めました。グリーン車に乗っちゃった! お弁当、最近のお気に入りは「海苔弁山登り」。普段はもちろんお魚を買うのですが、今回は行った先でお魚は死ぬほど出るだろうということで、チキンにしました。
まずは1939年の作品から。
子供時代の感じは原作に近いとは思いました。大人になってからのヒースクリフはもちろんローレンス・オリビエ。エキゾチックでセクシーな俳優さんです。
キャシーの女優さんも、ひたすら美人。時々必要以上にアップになり典型的女優ライティングで、瞳にキラキラと照明をわざわざ入れてるのが、いかにも昔のハリウッドのスタイル。
かつソフトフォーカス多発。モノクロ。そしてあきらかにヒースクリフはジプシーだという認識で物語は進んでいきます。(私も原作を、そういう認識のもとに読んでいました)
最新作で最高に良かったイザベラの存在は、この作品ではやや平凡です。でもやっぱりちょっとバカっぽいかな。召使の名前はネリーではなくエレン。嵐が丘を訪ねてきたロックウッドに物語を語るのは原作通り。
それにしてもセリフがめっちゃ多い。常に誰かがしゃべってて、誰かが説明しています。かつ音楽も相当入ってきます。ラブ・シーンになるとヴァイオリンのハイノートがすごい。この時期の映画って、みんなこんな感じよね…。
あ、あとのちほど深掘りしたいヒースクリフのセリフがひとつ。「踊りましょう、ワルツよ」というキャサリンに答えてヒースクリフが「ジプシー風だね」「僕らのルーツ」みたいなことを言うシーン。
ワルツってそういう認識なんでしょうか。あと原作にもこのセリフあったっけ? のちほど要チェックです。
あ、そうそう、原作でも有名なセリフ、キャシーの「私はヒースクリフよ」とか、ヒースクリフの「一人にするな」「取り憑いてでも俺のところに一緒にいろ」みたいなセリフは健在でした。まぁ、これは外せないよね。
そうそう、Wikiを読んでいたら、この時、二人の主演俳優、仲が悪くてムード険悪で、怒りまくったオリヴィエは当時付き合っていたヴィヴィアン・リーに相手の文句を言う手紙を書いた。
その事態をなんとかしようと海外からロサンゼルスにかけつけたリーを見そめたのが『風と共に去りぬ』の関係者だったのだそうです。へぇー!
やっぱり『嵐が丘』と『風とともに去りぬ』は、妙な縁があるんだなぁ。まぁ、それにしてもこの時代のいわゆる美人な女の人って大変よね。なんとなく同情しちゃう。(余計なお世話w)
あ、当然ですが、2代目キャシーの話はすっ飛ばされています。あと舞踏会の衣装とかが、どうしても北イングランドに見えないんだよな… ま、でもこれはこれで。この時代の映画だからしょうがないです。
「お話」的にはうまく原作から、あれこれ抽出されて、面白くコンパクトになっている『嵐が丘』だと評価したいと思います(なぜか上から目線)。103分。
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1939年
監督:ウイリアム・ワイラー
ヒースクリフ:ローレンス・オリヴィエ
キャサリン:マール・オベロン
音楽:アルフレッド・ニューマン
128分、U-NextやPrimeで配信してます
ちなみにこの39年の『嵐が丘』。電車の時間では見終わらず終わり20分くらいはチェックインしたお宿にて見ました。なんとオーシャンビュー!(電線あるけど・笑)
このあと1回目のお風呂に入り、ポカポカしたところで続いて見たのが、こちら。1988年の日本制作の作品です。データを見てびっくり。当時ぶいぶい言ってたセゾン系!ではないですか。
渋谷の西武がもうなくなってしまうというニュースを見たこのタイミングで、この映画を見るのも、なんだか香ばしい。
まぁ、ひどい言い方ですけどバブル期の産物ですよね。でも監督はこれの制作に28年かけたとか
Wikiにあり、そういうのを見るとつい弱いわたくす(笑)。なるほど入魂の作品なのねとちょっと同情したのでした。そうそう、これは131分と一番、今回見た中で一番長いです。
しかし私にとっては、そもそも「侍セッティング」「日本セッティング」なのが慣れないというか苦手でした。タイトルを見なければこれが「嵐が丘」だなんて気づかない人も多いかもしれません。
「山のたたり」とか言っちゃうあたりが、80年代よね…。八つ墓村が流行ったのは何年だったっけか(1977年でした)。あれ大当たりしたんですよね。
何度も言いますが日本映画、しかも時代ものは私は苦手分野。やたら仰々しく、みんな芝居がでかい。なんでみんなあんなに芝居がでかいんだろう。舞台じゃねぇーっての(笑)
そしてなんとも感慨深いのは女性が汚いものとして扱われていることです。生理が来る、出産をする、それはすべてが「汚(けが)れ」。つまり汚いこと…という認識。今の価値観から見たら噴飯ものですが、80年代の日本なんてそんな感じか。
いや、今の日本でも、なんとなくぼーっっと生きてたら違和感なく見ちゃう人、多いかもしれません。
あと原作で描かれているヒステリックさが、キャサリンという女の最大の売りなのに、田中裕子さんのキャサリン…もとい「絹」は、ひたすら落ち着いていて、それが最初は違和感があったのですが、まぁ、でもこれはこれで。
松田優作さんは、いつもの通り、やたら熱血ですが、さすが二人の名優さん。見終わるころには違和感は消え去り、ただただ二人の熱演に圧倒されました。
特に田中さんのキャシーは淡々としている中に、少しずつ怖さや凄みが見え隠れしてきて、それが余計に怖いということもあり。
一方、田中さんがとにかく「色っぽい」とモテモテの時代でしたから、セクシー・シーンもそれなりに多く、おっ、こりゃサービス・シーンだなと思われる余計な場面も多数。
シーンといえば、松田さんが死ぬシーンはさすが松田優作ここにありといったところです! 死ぬところを演じさせたらピカイチ!? そうそう女性向けかわかりませんが、松田さんもセクシー・シーンあります。褌(ふんどし)姿とか(笑)
あとは巫女になるのがうんぬんとか、前世からの因縁うんぬん、相続うんぬんは『犬神家の一族』あたりの影響でしょうか。とにかく横溝作品に似ているな、と私は思いました。
分からないけど、西武's Answer to 角川って感じでしょうか? それにしても時代の空気だよなぁ。
それにしても物語はことごとく原作と違った設定なのに「鬼丸は私」という絹の決めセリフはしっかり存在し、うーん、やっぱり本作も『嵐が丘』なのよねと再確認。
それにしてもエミリー・ブロンテがこの作品見たら、なんて言うだろうな。「Give me liberty」と詩に読んだエミリーが。女には自由はない、って言っているような映画ですからね。
ちなみに西武系といえば、こちらにも資本を出してるんだよね。「地球交響曲(ガイヤシンフォニー)」。1番のテーマのひとつはケルトで、我らが鶴岡真弓先生が、エンヤにインタビューしてたりします。「地球交響曲(ガイヤシンフォニー)」
わたしの感想はここ。
そして、すごいな。今、公式サイトを見たら、なんと『地球交響曲』は
今でもガンガン自主上映されているんですね。他にもセゾン系の作品や西武系の映画事情のリストは
こちら。セゾングループ、ありがとう。
1988年
監督:吉田喜重
ヒースクリフ(鬼丸):松田優作
キャサリン(絹):田中裕子
音楽:武満徹
そして次が「もしかしたらこれが一番いいのではないか?」と期待していたジュリエット・ピノシュとレイフ・ファインズの『嵐が丘』。
長さも良い感じで105分。私にとって、映画が長さは重要要素。でも2世代目も割としっかり描かれており、それは高得点だと思います。
また舞踏会のシーンや暗い感じや家の中の寒々しい感じなどは、こちらが一番リアルで、いいかなと思いました。
ただジュリエット・ピノシュのキャサリンは、トーニャ…もといマーゴット・ロビーに比べるとパンチがないんだよあ。っていいうか、マーゴット・ロビーが激しすぎるのか? あれを見たあとだとちょっと存在感が足りないかな…というのが感想です。
あと子供時代から、すでにヒースクリフといちゃいちゃとしているのが気になりました。
そうそう、坂本龍一さんが音楽を手掛けられているんですが、なんかホイッスルとかハープがたくさん出てくるのが、「いかにも」といった感じ。ケルトを狙っていたんでしょうか。ブロンテ家はアイリッシュ系だったらしいので、確かにそれは「あり」です。
ホイッスルもちょっと「おいっ、それ尺八か?」みたいな使い方がされています。外国映画だから日本人作曲家の自分としては何か日本的なものを出そうと思ったのかな。そんなこと考えないか、坂本さんは? 実際、よくわかりません。
特にメインテーマは、なんだか「Women of Ireland」に似ている気がする。(ちなみにWomen of Irelandは「バリー・リンドン愛のテーマ」に使われていますよね。それでチーフタンズの存在を知った人も多いのでは?)
あ、そうそう、ここでアイルランド音楽ファンにとっては大きな要素が。なんとシネイド・オコナーがナレーション役で登場しています。
登場シーンは多くないんだけど、頭からがっつり登場し、十分印象的だし、何よりこの頃の彼女、すごく美人でシュッとしてて、その後の彼女の嵐のような運命を思うと、ちょっと複雑な気持ちになります。
ヒースクリフに言及するのを忘れました。こちらもヒースクリフは原作をなぞってジプシーという設定です。
若いころのレイフ・ファインズは素敵ですね。私はレイフ・ファインズは『レッド・ドラゴン』になるまでちゃんと存在を認識してなかったのですが、なかなかの演技だと思います。(あっ、すみません、また上から目線)
1992年
監督:ピーター・コズミンスキー
ヒースクリフ:レイフ・ファインズ
キャサリン:ジュリエット・ピノシュ
音楽:坂本龍一
最後はお味噌汁。伊勢海老よ。ありがとう。
そして! 最後はこちら2011年の『嵐が丘』。震災の年にこれ公開されてたんですね… まったく素通りしておりました。なんとヒースクリフが黒人という設定には驚きです。
何度も書きましたが、私の中のヒースクリフは絶対にジプシー系です。原作でもそういう言及あるし。
とはいえ、このくらいの時代になると映画も映像美やカメラの演出が本当に素敵で、うっとり。128分。ギリギリ許せる長さであり、長さを感じさせない傑作だと思いました。
こうしてみれば、やっぱり文化って進化しているのだと思います。なんというか、本作は、これより前の作品のどれよりも、監督が映画を見ている者たちを信頼して、ある程度任せてくれている、と思いました。これに比べたら1939年のやつは説明だらけだ!
映画を見ているこちら側で自主的に埋める情報がもっとも多く、おそらく実際のブロンテの頭の中の物語に近いのでは、と思いました。
そして、この映画、なんと前半1時間は子役です。で、女の子のキャサリンがめっちゃくちゃいい!! このキャサリンは、私のイメージ通り。イメージぴったりのキャサリンです。
泥にまみれて丘で遊ぶシーンや青白い肌の色など本当に素晴らしい。そして!!! ここは強調したい「英語の訛り」。この子の訛りがめちゃくちゃチャーミングな訛りなんですよ。
ちゃんと北イングランドになっている。こういう感じでなくっちゃ。キャサリンはこういう感じでなくっちゃ!!
そんなわけで芸術ポイントはかなり高得点。と思ったら、これちょっと前にすごく良かったと思った
『バード ここから羽ばたく』の女性監督じゃないですか〜。きゃ〜っっ、なるほどねー
とにかく良いのは音が静か!ということ。これはポイント高し。人間のセリフ、めちゃくちゃ少ないです。そして音楽も少ない。
とはいえ、いやだからこそ主人公の女の子が歌うトラッドや子供歌がすごく印象的に残ります。子供の歌だから上手ではないんだけど、これが本当にリアルで良い。ファーストテイクでOKした、そんな感じ? とにかく自然な歌声。映画に最高のスパイスを与えています。
そして風の音や雨の音や、自然音がすごく大きい。人間の息使いとかも。
ただ。
ただやはりヒースクリフは黒人よりもジプシーだという方が自分のイメージなので、ヒースクリフが弱かったかなぁ。いや、俳優さんが悪いわけではないです。大人になってからのキャサリンも良かったし、俳優さんたちも素晴らしいです。
でもやっぱり圧倒的なのは子役のキャサリンだよーー あの子、すごくいい! 大人になってから何かやっているのかな。あとでチェックしたいと思いますが。
あ、そうそう、エンデイングが、弁護士事務所だか会計事務所だかの名前の英国バンド…失礼!…マムフォード&サンズです。最後めっちゃかっこよく終わります。

2011年
監督:アンドレア・アーモルド
ヒースクリフ:ジェイムス・ハウソン
キャサリン:カヤ・スコデラリオ
音楽:マムフォード&サンズが主題歌 Enemy
音楽の方も貼っておきます。
というわけで、予定よりだいぶ早く4作品を見終わることが出来、しっかりお風呂に入って、ぐっすり就寝。
翌日は電車に乗る前にお花見までしちゃいましたが、昼にはまた都心に戻りました。次に「合宿」できるのはいつの日か〜。またここ、予約しよう。
そういや浦沢直樹さんと和久井光司さんの対談本を核にした「ボブ・ディラン合宿」もまだ出来てないや…。シャラメの映画も配信で見れるようになったし、次の合宿のテーマはそれにするか…な。
旅の楽しみは、なんといっても朝ごはん。私は夕飯よりも好きかも。いずれにしても誰かが作ってくれる朝ごはんは最高です。鯵が小ぶりなんだけど、もう最高に美味しかった。
翌日は『嵐が丘』にあるまじき晴天。
一応海辺まで行ってみた。
ここは坂が多く、歩いていて息が切れる… 体力ないわぁ〜自分
駅前でチラシをいただき、こちらの桜祭り会場へ
駅から徒歩3分と書いてあったけど、坂がきつくて10分くらいかかったかも… ぜいぜい。
直売所にて茎ブロッコリーと、みかん清見を購入。春だし、いいよね、こういうの。
ところで、この合宿をやろうと思うきっかけとなった鴻巣先生のこちらは、本当に必読なので皆さんにおすすめしたい。そう、私たち女性は『嵐が丘』を私たち女性の手に取り戻した! 結局わたしは近作の2本が好きです。
そうそう、水村美苗さんの『本格小説』。あれは素晴らしいです。感想は
ここ。
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◎1996年からかかげてきたTHE MUSIC PLANTの看板は2025年12月にて下ろしました。公式サイトは近日中にアーカイブ化する予定。自分の主催公演や招聘はもうやりません。ただ2026年も若干の雇われ・お手伝い案件(笑)があるので、そちらはゆっくりとこなしていく予定です。
◎現在リリースしたCDの販売は終了しておりますが、書籍はあいかわらず販売しております。アイルランド名盤ガイド。楽曲への配信のリンク(Spotify)や、来日時のインタビュー、エッセイなど充実の内容。ポール・ブレイディ、メアリー・ブラック、マーティン・ヘイズ&デニス・カヒルの3冊です。こちらへどうぞ。
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◎その日向さんは、91年の大ヒットドラマ『東京ラブ・ストーリー』のサントラを手掛けていたわけですが、そちらが35周年記念のリイシューされることになりました。
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