ポール・リンチ著 栩木伸明訳 『預言者の歌』を読みました 


いっやーーー すごいもん読んだ。「パワフル」という言葉がぴったりなすごい小説。ディストピア小説? いやぁ〜 なんつーか人間の極限を描いた本ですね。すごいな。

あれに似てるね。コーマック・マッカーシーのあれ。あれのエンディングは100%ハッピーじゃなかったけど、妙にあったかくて好きだった。

そしてコーマック・マッカシーのあれは、ちょっと自分も体験してみたいと思った感もあったのだ…が!(そしてそれこそが、北極の角幡唯介さんに『アグルーカの行方』を書かせたのであるが)

…が! こっちは絶対に体験したくない。絶対に絶対に体験したくない。こんな状況では、私はとっとと死んだ方が幸せではないかとさえ思った。だってあまりにも怖すぎるんだもの。

場所は近未来の(おそらく)ダブリン。ダブリンとはっきり書いてはいないけれど、なんとかストリートとか、なんとかとか建物の名前が出てくると「ダブリンなんだ」と確信できる。

アイルランドに新しい政府が生まれ、新しい法律ができ、そうこうしているうちに少しずつ少しずつ社会が変わってしまう。夫が行方不明に。反対派との内戦で、国は戦争状態に。そして長男も。遠くにいる親戚は国を出ろ、と言う。認知症の父もいる。どうする主人公!

…とそういう話。

それにしても、自分以外に守らなくてはいけないものがあるのだから、死ぬわけにはいかない主人公。しょうがないよね…死ぬまで必死で頑張るしかないよね。 ちょっと私には無理!! 絶対に無理! その頑張り、私には不可能。

いや、主人公は頑張っているようで、単に日々の雑用をこなしているだけで、何も考えていないともいえる。なに、ぼーーーっっとしてんだ! 早く国を出ろ、早く!

なんというか、とにかくそういう危機的状況が、たたみかけるように描かれた小説ではある。すごい迫力。

まず改行がない。いつだったか、改行があまりに多い本を読んで(これ)、辟易してしまったのだが、あれに比べりゃこっちの方が私は好きだ。こっちの方が緊張感が伝わるし、こっちの方が文章が上手くないと伝わらない。

改行多くていいなら、私でも感動的に書ける。

 私でも、

 感動的に、

 書ける。

 感動的に、だ。

 「感動!

 感動よ!!! 私の感動!!」

 と、洋子は思った。

 「書いている私が感動することが

 読んでくれる人の感動につながるのだ!!」

…は、いいとして(爆)。

改行がないばかりか、「会話のカギ括弧」もない。だって、ポールさんの文章も改行がないから、栩木先生の日本語もそれにあわせたんですよ、ってことなのね…と洋子はブログを書くのだ、改行なしで、ポールさんの文章のあの臨場感を真似したくて書くが、自分にはその能力がない…と洋子はがっかりするのだけど、本を持つ手がふるえが止まらず、とにかくひたすらブログを書いてこの本を応援するしかない

…みたいな文章が、延々とノンストップで続く。

実はアイルランド大使館で行われたポールさんのサイン会の列に並んだ時、たまたま私の一人前は英語版をかかえた外国人(アイルランド人?)の青年だった。

私は思わず「それ、英語テキスト? 見せて、見せて」と話しかけて、彼の本の本文部分を見せてもらった。そしたら本当に改行もなく、会話の鉤括弧もなく、ひたすら文字が並んでいた。

そうか、英文もそうなんだ。(そりゃ、そうだ)

そして、私も好青年っぽい彼に「見て、見て、これが日本語のテキスト」と、彼に日本語版のページを見せて自慢してしまった(笑) 彼も「おー、すごいね」と感心してくれた。

文化交流。

それにしても、改めて、先日自分が書いたレポートを読んでかみしめる。ポール氏の言ってたこと。彼が読者に伝えたいって言ってたこと。

この本は、本当にすごい。気づいたら、もう考えられないようなひどい状況に突入しているのだけれど、最初は妙にゆっくりそれは始まる。

そして謎めいた空気のまま、物事がよくわからないまま時間はすぎていく。そして気づいたら、時間はどんどん加速していき、最後の方などは、もう嵐のようだ。

実は最後の方は没頭しすぎて、夢にまでこの本が出てきた。すごい。この究極の状況を、夢の中で追体験しちゃった。

っていうか、今の日本の状況と一緒じゃない? これは? このまま変な法律ができて、気づいたら、もう止められないような状況になっているんじゃない?

となると、ポール氏がイベントで話していた「読者に追体験してほしい」というのは当たっていることになる。

やられたよ、ポール氏! 

あぁ、やっぱりこの本を読んでからサイン会に臨めば良かったなぁ。本人に感想を伝えられたのに!

そしてさすがブッカー賞。というのは、イベントレポートで書いたことを繰り返すが、この本は、まさに人間を描いているということにおいてはイシグロの「Never Let Me Go」に匹敵していると思うからだ。

と、言うと褒めすぎか?

そう、この本は、SFなんかじゃない。(いや、SFファンの人、ごめんなさい、そういう意味ではないんです)これは、すごい人間小説だ。

とはいえエンディングは… 正直、結構モヤモヤする人が多いでしょうね。でも私は最後この主人公はこうなる、という明確な結論を自分で出したね。となると、XXしたのは、お父さんだけということになり、それはタイトルにもつながって…といろいろ解釈も広がるだろう。

うん、それがいい。

この話、映画になるならそういう踏み込んだエンディングがいいな。主人公はエミリー・ブラントでお願いします。

読んだ人、ぜひ感想を語り合いましょう。

◎1996年からかかげてきたTHE MUSIC PLANTの看板は2025年12月にて下ろし、公式サイトは近日中にアーカイブ化予定。自分の主催公演や招聘はもうやりませんが、2026年も若干の雇われ案件があるので、そちらはゆっくりとやっていきます。

◎よく聞かれるので、ここに載せていこう。最近観た中でベストな映画はこれベストな本はこれです。

◎現在CDの販売は終了してますが、書籍はあいかわらず販売中。アイルランド名盤ガイド。楽曲への配信のリンク(Spotify)や、来日時のインタビュー、エッセイなど充実の内容。ポール・ブレイディ、メアリー・ブラック、マーティン・ヘイズ&デニス・カヒルの3冊です。こちらへどうぞ。

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6月9日にはドーナル・ラニーのドキュメンタリーの映画上映と、ピーター・バラカンさんの解説あり(野崎は聴き役として登場予定)。予約スタートしてます。


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◎ケルティッククリスマス2026、発表になりました。今年はアルタンとソーラスが来日。詳細は公式サイトへ。

◎あいかわらず無印良品BGMの仕事はしております。この4月27日より昨年録音にかかわったデンマーク編が配信スタートしております。良かったら、聴いてください。店頭ではすでにその2週間くらい前から流れているようですが、結構まだBGM29のスコットランドもたくさん流れますね(のざき調査による)。

 

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