映画「チョコレートドーナツ(ANY DAY NOW)」を観ました

これは最高にパワフルな映画です。やられたーって感じ。「チョコレートドーナツ」(ANY DAY NOW)

とにかく今、この映画の事を思い出せば、もう速攻ですぐに泣ける、ってくらいすごい映画です。とにかく大ヒット中。激混みなので、早めに映画館に行かないとダメです。私は30分前に行って、ギリギリ入れました。

見終わった後、感激して久々にパンフレットも買っちゃった。そこに書いてあった有名人/著名人の皆さんのコメント。今やどんな映画でも、宣伝の目的で、こうやって推薦/応援コメントを集める事をするわけだが、最近、これらのコメントを映画を見終わったあとに確認するのが結構好き。

今回は20名ほどの方がコメントを寄せているが、実は2つのコメントをのぞいて、どれもいまいちだと思った。「愛の本質!」とか「大切なもの」とか「純愛」とか「隣人愛」とか。

なんか、違う,違う,ちがーーーうう! 全然分かってない!

私が良かった思う2つのコメント。1つは綾戸智恵さんのコメント。これは100%ではなく、半分良いと思った。「ルディが最後には髭のはえたたくましいオカンに見えてきた」っての。私もそれは思った。でも最後じゃなくて、かなり最初の方から、そんな風に思った。もう彼は絶対に間違いなくお母さんだ。エキセントリックなところ、情熱的で優しさや愛情をストップさせないところ、とにかく「お母さん」なのだ。とても「お母さん」なのだ。

そしてもう1つのコメント。これこそ私の中でのドンピシャだったんだけど

「私たちにいま まっとうな人間への一歩を踏み出させてくれてるのは、
こんな人びと、こんな映画だ」

という清水眞砂子さんという児童文学者の方のコメント。これにはかなり共感。これこそがこの映画の本質だと思う。ホントにそうだ。サルが人間になってからこっち、私たちはこうやって偏見をなくし少しずつ真っ当な人間になろうとしているのだ、ということ。

ゲイの自然なラブシーンがある映画、最近増えて来たと思いませんか。そりゃ昔もゲイのラブシーンはあった。でも最近のは男女のそれとまったく変わらないくらい素敵。私も「恋するリベラーチェ」で始めて自然な男同士のラブシーンを観た時は「おおっ♥」と思ったもんだが、今はホントに男女のラブシーンと変わりなく見る事が出来る。私もこうして少しずつ人間になっていく。だってルディみたいな人だったら、ポールみたいな彼と恋に落ちるのもすごく自然なことだもの。ホントに素敵なカップルだと思う。カップルってのはね、こうやって自分と違うタイプの相手に惚れるのよね。

そして、この映画,間違いなくは感動させ泣かされるのは、親が自分の子供を取り返そう、って話だからだ。これは、もう泣けないわけがない。

子供であるマルコを演じる、アイザック・レイヴァが本当に素晴らしい。ダウン症のマルコを演じる、実際本人もダウン症である若手俳優。今回のがデビューになるのだけど、実は私はこの子はじめて見た時、ここに協力してた俳優の子と同じ子かな…と思った。

この動画は、What would you do?  あなたならどうしますか?というアメリカのテレビ番組のシリーズ。この回は、スーパーマーケットで障害を持つ人が働いていて、それをあからさまに侮辱するような人が現れた時。あなたならどうしますか、というテスト。俳優などを配置し、隠しカメラで様子を取るのだけど、時々ものすごい心の美しい、勇気ある人たちが現れて、ホントに泣けるのだ。



でも今、こうやって映像を見返してみれば分かるのだけど、全然違う人だったね…(笑)

すみません、話がそれた。

アイザックは今回が映画デビューとなるそうなのだが、とにかく、この子が本当に最高。笑顔とかがいいんだ。もうピュアで、嘘がなくて…この子が大きな笑顔を浮かべるたびに、もう映画館中が号泣の嵐!! もうホントにやばい!

それにしても、70年代の懐かしものの西海岸の話で、ゲイと障がい者が出て来て、これだけ盛ってる話なのに、全然お涙ちょうだい話になってないのは、とにかく脚本のすばらしさに寄るのではないかと確信する。これはものすごいパワフルな脚本だ。100分ほどで、ものすごくテンポがいい。全然長く感じない。あっという間に終わってしまう。

どうやらもともとは大ベテランの脚本家、ジョージ・アーサー・ブルームが書いたもので、実はジョージの近所に本当に実在したルディという人物がモデルになっているのだという。ルディの近所には精神的にも肉体的にもひどい障害を持った子どもがいて、その子の母親は薬物中毒だった。で、ルディはこの子を面倒をみている事がよくあって、ジョージはこの二人の関係にインスパイアされて、養子縁組についてのフィクションを書きあげたのだそうだ。で、このシナリオについて何度か映像化の企画が立ち上がったものの上手くいかなかった。

そしてこの本は20年以上も忘れさられたままになっていたのだけど、ある日、音楽監督のPJブルームが「オレの親父がこのシナリオを書いたんだけど」って、本作の監督/製作のトラヴィス・ファインに見せたんだって。実際の映画はこのオリジナルの本を相当書き換えて、舞台をLAにしたり、ポールの登場シーンを多くしたりした物なのだそうだ。

映画の感想をググってみるとアラン・カミングが最後に歌う「I shall be released」が圧巻!という評価がすごく多いんだけど、私は彼が歌は格別に上手いとは思わなかった。とはいえ、この歌に心を動かされない人はいない、ということは断言できる。だって、ものすごいパワフルで、しっかりこのルディという人物の上にある歌なのだもの。これが心を打たないわけがない。映画のタイトルの「Any Day Now」は、この曲の歌詞から取った。「いつの日か良い時代が来る。それはきっと明日にでも」

あぁ、やばい。私たちは早くいろんな偏見やしがらみを捨て、人間にならないといけない。70年代から今まで、たいへんな努力により、だいぶ人間になってきたと思うけど、でもまだまだだ。そして人生は短い。

90年以上生きた英国のクイーンマザーは「時代は良くなったと思いますか?」と聞かれて「もちろん」と答えていたという。今、この映画が東京の銀座の映画館で、多くの人の共感を呼び、涙を流させていることを考えると、それはホントにホントにそれだけで、またなんだか泣けてくる。

それにしても良い映画だった。「ANY DAY NOW」もいいタイトルだけど、極めて英語的な表現だから、このままカタカナじゃ意味を理解する人は少ないだろうし、「チョコレートドーナツ」をキーワードにし、ポップなイラストでポスターを作った配給会社さんは、すごく偉いと思う。

それにしてもアラン・カミングの演技はすごかった。と、思ったら,彼、私生活でも普通にゲイなのね。そしてそういった偏見をなくそうという活動にもすごく積極的に参画しているらしい。この映画のエグゼクティブ・プロデューサーの二人も、同様だ。だから説得力があるんだね。とはいえ、そんな事は映画の内容とはあまり関係ない。とにかく心を打つ映画だ。



PS
…なんてことをブログに書いてたら、山口洋がこの曲を紹介してた。恋人のことではなくお母さんのことを歌っているんだって。で、映画のことをまた思い出し、号泣中。こりゃ、まぁ、当分泣けるわ(笑)