「セブン・イヤーズ・イン・チベット」を読みました

読んだ。山岳文学の金字塔。友人の自宅へ遊びに行ったら「探検家になりたいなら、これを読まなくちゃ駄目だ」と言って、貸してくれたのだ。

その友達の家からの帰り道に寄った目黒のイングリッシュ・パブで、この本をテーブルの上に出して眺めていたら、パブのお母さんが「これは超名作!」と声をかけてきてくれた。そうなのだ。これは探検家にならずとも読むべきすべての人類必読の書だ。超名作。それにしてもこれほど旅心誘われる本もない。行きたいわ〜、チベットに!!!  いや、行かないけどね。仕事ないから!  行かないけど、すべてを捨てて行ってみたくなるのだ。時々。まったく違う価値観を持つ国に!   それは都会に住む多くの人が切実に思う願いだろう。

チベット。宗教による独裁国家ではあるのだが、人々は平和で優しく穏やかに心の平安の中で生活している。第二次世界大戦中、鎖国状態であったこの国に、ひょんなことから潜入したオーストリアの登山家ハインリッヒ・ハラーは、若き日のダライ・ラマと交流していく中で、この国の魅力に取り付かれていく。

ハラーは元ナチ党員だったことから、いろんなことを言う人もいるらしいけれど、彼がここにある異文化を敬い、心を開いていく様子には誰もが心を打たれるだろう。そういやブラッド・ピット主演の映画もあるそうだ。これはぜひ見てみたい。時間があれば!の話だが。

第2次世界大戦で捕虜となったハラーは脱獄し、物語の前半は脱獄と厳しい自然の中で生き残るための冒険小説としてスリリングな展開が用意されている。が、後半、ラマに落ち着いてからは、なんだか映画「ローカル・ヒーロー」的な牧歌的な空気になってくる。「ローカル・ヒーロー」はアメリカの大都会から、スコットランドのド田舎に土地を回収しにいったアメリカ人のビジネスマンが、その田舎の人たちにすっかり魅せられてしまう、という名作だ。それをちょっと彷彿させるね。素朴にシンプルに、そして穏やかに生きたいと思う。そんなべーシックでプリミティブな生活をする人々に惹かれる、白人もしくは文明度が高いところから来たとされる人たち。が、彼らは「ローカルヒーロー」のマッキンタイヤー同様、その土地の人たちの生活を、心から羨ましく思うのであった。

牧歌的で素朴な田舎の人たち。この人たちのように暮らせたらどんなに良いか。しかしハラーはついに自分では宗教を得ることは出来なかった、という。が、チベットの人たちの宗教心を傷つけないよう、宗教的な儀式の場なども尊敬の念を持って接する。だから彼は国の中枢と言えるダライ・ラマの側近になれたのだろう。ハラーは興味深く、ある意味冷静に観察眼を光らせながら、この国の魅力を余すところなく私たちに伝えている。

そしてやはり心を打つのは幼いダライ・ラマとの交流だ。ひょんなきっかけで彼はダライ・ラマと2人だけで話す時間を持ち、この幼い「神」に惹かれていく。いや、実際ものすごく魅力的な人なんだろう。たくさんのピュアで心を打つエピソードが紹介されていく。それはもしかしたら勘違いなのかもしれない。が、このなんと美しいことか。幼いラマは語学にもたけ、本当に賢い勤勉な少年だったという。

世界に散らばるチベット難民。今やそのほとんどが自分の国を見たこともないという。しかしダライ・ラマ14世は世界的な指導者として、その後ノーベル平和賞を受賞するのだ。また震災後の迷える私たちにたくさんの心震える言葉をかけてくれている。こんなのとか。

「セブン・イヤーズ・イン・チベット」では、この幼い僧が、どんなに驚くべき人物かということに触れていく。そしてチベットから亡命するくだりには涙が出る。4歳かそこらで「発見」され、チベットの指導者として象徴とされながら決して自分の自由は得られていない幼い「神」。もちろん、これはハラーが見た世界だ。一緒にすごしていた逃亡の相方は一切口をつぐんでいるという。だが、ハラーの見たチベットの、そのなんと魅力的なことか!!   貴重な小さな国の文化!

いや〜、この世界はホントに深い。時間があれば、この世界も突き詰めてみたいもんだと思う。が、自分の仕事とどんどん離れていってしまうので、チベット関係はこのヘンに止めておくつもりだ。それにしても探検ノンフィクションが、本当に面白い。人生は短いのに面白い本が多すぎるよ。このまま自分の興味の赴くまま本を読んで毎日暮らしたいと思うよ。