あなたが好きなのは「音楽」か、「マスターテープ」か、「ミュージシャン」か?

こんなWeb Siteをエイダン・オルーク(LAU/kan)が紹介していた。



いるよな、いるよな、いるよな、こういうコレクション大好きな人。特に男の人!(投稿しているエイダン・オルークも含む)

いつだったか音楽雑誌の企画で西新宿にアーティスト連れてレコードを狩りに行くという企画をやったことがある。その時に思った。「レコード・ハントって男の人のもんよね」と。

レーベルや音楽プロダクションを経営している人を見ていると、最近は特にCD1タイトル1タイトルの売り上げが下がっているせいか、やたら多数のタイトルを一気に連発したり、旧譜をひっきりなしに掘り起こして販売しているレーベルさんの何と多いことよ!

私なんぞは「音楽業界にいるんだったら、今、生きているミュージシャン応援しなくちゃ意味ないでしょ」と言いたくもなり、実際にそういう嫌味を言ったりして、人からイヤがられている。でも、こういう人たちは「音楽」が好きなのか? 「マスターテープ」が好きなのか?と問いたくなるんだよ、私からすると。

マスターテープが好きな人たちは昔の録音物も大好きだし、レコードハントが大好きだ。そしてそのブツに自分の存在を照らし合わせて、あれこれうんちくを語ったりもする。(それはある意味、男性の美学でありカッコつけであるので、そういうのを尊重してあげられない女はもてない、ということを私はよく知っているが、実践できない)

でも、そんな価値観はお互いさま。私もいつも自分は「音楽」が好きなのか、「ミュージシャン」が好きなのかと言う疑問がある。そして最近分かったのだが、私は「音楽」ではなく「ミュージシャン」が好きだということなのだわ。その証拠に自分に関係のないミュージシャンについては、どんなに素晴らしい音楽を演奏していたとしても、興味がまるで湧かない。

だいぶ前に某大きなプロモーターさんと話す機会があって(その人は私とは桁が違う、○崎あゆみとか○xileとかをやっている)その人も「オレ、自分に関係ないミュージシャンってホント興味ないんですよねー」と言ってた。私はひどく共感し「私も同じです」と答えた。仕事のレベルはまるで違うけど、2人ともこの仕事には超向いている性格だと言えるだろう。

そりゃあ、私だってヴァン・モリソンやジョニ・ミッチェルは素晴らしいと思うが、基本的には私には関係ない人たちだ。また致命的なことに私はボブ・ディランがよくわからない。ディランが私と契約してくれるというのならもっと真剣に聞いてもいいがと言ったら、ロビン・ヒッチコックにマジでムッとされた…(爆)

そのくらい私は自分に関係ない音楽にはとんと興味がない。私は「音楽」ではなく「自分と仕事をしているミュージシャン」が好きなのである。もっと言ってしまえれば「ミュージシャンと仕事している自分」が好きなのだ、と最近妙に納得している。だから自分に関係ないミュージシャンのことを、1ファンのように「あーだこーだ」いう業界の方々を見ていると「私とは全然違うな」「自分に関係ないのに何が面白いのだろう」と思う。さらに、もっと言ってしまえば、私が好きなる対象は音楽家でなくてもいい。探検家や小説家、映画監督、俳優…など。素晴らしい表現者であればなんでもいい。素晴らしい表現者を応援することが、私のやりたいことなのだ。

しかし、この仕事もいつまで続けられるんだろうか。そんなことをあれこれ考える。この音楽業界で生き残って行くには、いったいどうすれば…。残念ながら、おそらく録音物(マスターテープ)だけやっていては、今後あまり将来性はない。特に過去のものの掘り起こしとか。もちろん過去の名曲たちは素晴らしいと思うが、それはいつか枯渇する。万が一、ビートルズの権利を持っていますとか、そういう事であれば自分が食べていく術はあるのだろう。が、その仕事にはもうあまりクリエイティビティは存在しないように思える。時にはCMや映画のタイアップみたいな飛び道具が来たりするのかもしれないが、そういう飛び道具は得てして自分の努力ではどうにもならない。となると,そういう場に新しい人材や能力はそこには必要とされないんじゃないかな…

一方で、一所懸命よい新しい作品を作っている生きているアーティストも、まだまだたくさんいるわけで、そういうアーティストにはライブ会場での感動を持って帰ってもらうための録音物も、まだしばらくは必要だろう。そこには、まだまだ需要や必要性もある。またライブ会場以外で自分のCDを売ってもらえるのであれば、アーティストにとっては、これは最高の助けになるわけで、例えば、今回、来日するナヌークのCDをキングレコードさんが出してくれるのが、どんなにバンドの励みになるか?! それを思うとその意義は果てしない。無名なバンドのCDを売る事はとても難しい。でもホントにこれは心強い。

ただし今後もスタッフや情報発信者としてこの音楽業界で生き残って行くすべがあるのであれば、やはりライブだと思う。私もCDは今でもたま〜にリリースするけど、今はコンサートの制作者として自分で企画し、ミュージシャンにギャランティを保障することを生業としている。お客さんにチケットを売って、売れない場合は自分で責任を取る。が、それもどこまで自分の体力(貯金とも言う)が持つのかは,まったく分からない。そしてその事業に必要とされる体力の量は年々増加している。もう私もあと何年もつか分からない。

そんなことが前提としてあるわけで、そんなライブが中心となってきた音楽ビジネスの世界で、一番役に立つのは「ライブのプレビュー(前パブ)」や「宣伝」「情報拡散作業」であると思われる。ライブが終わったあとにライブ評を載せても、長期的には重要だろうが、あまり業界の経済には貢献しない。加えてネット上の音楽メディアは、ビューワー数による広告費に頼ってたら、嫌でも記事を連発する方向に(自分の仕事を増やす方向に)行くしかないし、ポケモンGOみたいな消費者の時間を拘束するもんがヒットしたとたん、一気に収入は下がってしまう。そうじゃなくて音楽のどこの部分を押せば、ちゃんとビジネスになり(生きている)ミュージシャンの役に立てるかということを、もっと業界全体で真剣に考えるべきではないのか。…あ、またベキとか言っちゃったYO!(笑) でも、そういう事を音楽で食べて行きたいと思っている人たちが必死でみんなで協力しあって考えなくては、音楽業界の将来はないのではないだろうか。ミュージシャンの役に立つにはどうしたらいいか、お客さんの役に立つにはどうしたらいいか? 

先日ブルーノートさんに行ったら(お世辞だろうけど)「野崎さんのブログでパンチ・ブラザーズに来たってお客さんけっこういましたよ」と言われて、ちょっと嬉しく思ったので、こんなブログを書きました。みんなで助け合っていかないとね。

とか偉そうに書きましたが、まだまだ何が正しいかは分かりません。I am thinking loud here

現在ウチのライブ公演は以下の通り。応援してくださいね〜

10月 ロビン・ヒッチコック来日公演(東京のみ)
11月 辺境の歌コンサート with 松田美緒、ナムガル、ナヌーク(残券わずか)
11月 THE MUSIC PLANT20周年公演 with ヴェーセン、ルナサ、ナヌーク
12月 ウォリス・バード来日公演(東京,京都)

今日も頑張って行きましょう!

シャックルトン隊のワンコと蓄音機 in 南極