高野秀行「アジア新聞屋台村」を読みました。いや〜 最高!!


いや〜、今回も素晴らしい。高野さんの本は本当に読み終わった温かい気持ちになれる。「ワセダ三畳」とか好きな人だったら、是非こちらも読む事をお薦めします。「アジア新聞屋台村」

「これどう考えてもノン・フィクションでしょ?」と思うのだが,一応フィクションという設定。でも絶対にノン・フィクションだ、これは。あいかわらず登場するタカノ青年。タカノさんの「実はノン・フィクションなフィクション」は好きだ。「ワセダ三畳」は本当に大傑作だし、「またやぶけの夕焼け」とかも、どれもすごく良い。高野さんは、人をみる視線が最高にあったかいんだよね。読後感の爽やかさが、ハンパない。これも間違いなくそのうちの1冊ですよ。高野ファンを裏切ることが絶対にない。「この本を読んで,本当に良かった」と感じさせてくれる。これはホントにゆるぎない信頼の高野ブランドだ。

お話はこんな感じ。早稲田に潜伏するライター、タカノ青年のところに「エイリアン」から原稿依頼の電話がかかってくる。原稿のサイズをcm x cmで表現するきてれつな外国人編集員。とりあえず会って話しましょう、となった「エイジアン」の打ち合わせで、タカノ青年はこの編集部のはちゃめちゃな文化にビックリしながらも、その底なしの魅力にひかれていくのであった…。

文章のそこここに見えるその国の特徴や国民性、そしてその国の歴史や背景など知っているようで知らないアジアの実態がリアルである。 そして日本に来ている「実は良家のボンやお嬢様」たちの奮闘ぶり。彼らの日本社会で生きるたくましさや、これはつかの間の自由だという寂しさや、あれこれ思いを馳せる。そして彼らのもつ生きる上での、しなやかさだ。しかし編集部で働く唯一の日本人として高野さん…いやタカノ青年にかかるストレスも相当だろうに、そこは独自のユーモアのセンスで乗り切る(というか、読んでて面白いので、悲惨さはあまり感じられない)。そして「あらっっ?❤」みたいな、ちょっとした恋バナもあったりして、最後の方になると野田さんというデキる日本人のチームが登場し、そこからの展開は最高に面白くグッと盛り上がったまま、一気に最後まで行ってしまった。

この本、読んでいて楽しいだけではない。タカノ青年の「タイ人気質」のタイ語版に関するエピソードも考えさせられたし、他にも、<ふつう、会社に欧米人がいれば彼らのほうが威張っている。いや、別に威張らなくても、彼らがぺらぺらと英語をしゃべるから、他の日本人が一生懸命に英語や気をつかう。自然と欧米人たちの態度はゆったりと大きくなる>みたいな記述や、<「他人からどう思われているか」がすべてな日本人>、<多くの日本人はいまだに英語が不得意>、<日本人同士は同質性のなかにわざわざ差異を探すのが得意だが、外国人同士は異質性のなかに共通項をさがしていく。そうせざるをえないからだ>みたいな超するどく厳しい指摘がそこここにあるのだ。優しい、柔らかい文章で、すらっと読めてしまうから嫌味をまったく感じさせないのだけど、ここには、めっちゃ大切なことがいっぱい書かれている。

最後、結末を言ってしまうとタカノ青年は編集部には戻らない。ここにいては物書きとしては限界が出てしまう、と思ったのだろうか。社長に子供が出来て、託児所うんぬんの下りは、さすがにノン・フィクションなんだろうか(笑)とか、謎は尽きないけど、この作品は「アヘン」のあと「西南シルクロード」の前に書かれたようだから、ここでの決断が、あの世紀の傑作の旅へとつながっていくわけだ。それを思うと、さらに感慨深い。うーん,素晴らしいわ、やっぱ。さて次の高野本は、何を読もうかな〜