井上靖「氷壁」を読みました。

読んじゃったわ。時間ない時に限って読書したくなるのよね… でも面白かったよ,この本。井上靖大先生の「氷壁」。名作の1つに入るんだろうなぁ。スイスイ読めて、読むのは楽しかったけど、なんか70年代のドラマみたい…とか思った。

…ら、やっぱりドラマ/映画になってたよ! 




ただ山岳小説の必須事項…何故、人は死にそうな目にあってまで山に登るのかとか,そういう事の書き込みが弱いと思った。(…なんて、私、巨匠になって感想をっっ!?)

それに登場する女が、みんなうっとおしいし、私の好みではなかった。でもこの小説が最初に発表されたのは、新聞連載だったようで、なるほどなーと思った。話に起伏があり、とにかく読み続けることはまったく苦ではない。とにかくNHKオンデマンドあたりで、間違って昔のドラマ見ちゃいました…的なノリなのだ。

まぁ,この当時は(も)小説がドラマ化されるって、作家に取って大事な事だったのかもしれない。

ストーリーは、こんな感じ。小坂とペアを組んで氷壁を登っていた魚津だが、ザイルが突然切れて小坂は転落死してしまう。このザイルが切れた原因を巡る物語。ザイルが切れることが本当にあるのか? 小坂は実は人妻と不倫していた。そのことで悩んでいたのでその果ての自殺だったのではないかという説も出る。いや、山の男がいくら死にたかったとしても、そんな死に方をする訳が無い。そしていつしか魚津もその美しい夫人に惹かれていく。でもって、小坂の遺体捜索、ザイルのテスト、書きたてる新聞報道、そこに小坂の妹とやらも登場し、この彼女は兄が魚津のことを褒めるのを子供のころから聞いているせいか、魚津をヒーロー視して、(当時は珍しかったであろう)女の方からプロポーズ。…みたいな。悩む魚津はそんな気持ちを抱え、山へと向うのであった。

なんでこれを読み始めたかというと、「神々の山嶺」を読んだあと、角幡唯介さんの書くエッセイを再読したからであった。そのエッセイを読んだら 「神々の山嶺」のネタもとになった(らしい)この井上靖の小説も読みたくなったのだ。

でも角幡さんがエッセイで言うとおり、ストーリーラインは非常に似通っているが、主人公の心情的なものがまるで違う。「神々の山巓」の方は下界の女になど惑わされない、すさまじいまでの登山野郎が主人公だ。ちなみにあまりにすごすぎて、私には「漫画」っぽく感じられてしまったのだが、とにかくそのくらい突き抜けている。角幡さんの言うとおり、夢枕獏はこの「氷壁」を読んで、地上の次元の低いあれこれの象徴である女に惑わされ、最終的には判断を誤って死んでいく主人公にイラついたのではないだろうか。

一方の 「神々の山嶺」も 「神々の山嶺」で、超人気だ。読んだと言ったら、結構音楽の趣味があう男友だち2人から「めっちゃ良かったでしょう!」と言われた。凄い人気の本だ。いや〜、うーん、まぁ私かに面白かったのは間違いないけど、私にとってはあれは「漫画」だったな。間違いなく「少年漫画」。そしてこの「氷壁」は「70年代のテレビドラマ」である。

しかしこう思えば本も進化してるのね。クラシックな名作もいいけど、結局は絶対に後に書かれた物の方が面白い。今はフィクションだって、もっと現実的で面白いんだよ。これあまりにも安いドラマっぽくって、主人公の俳優さんの顔まで浮かんじゃったよ。女性は大原麗子とか…さ。

拡大してちょっと読みどうぞ〜
と、悪口を書いたように見えますが、いや、面白いことは間違いないですよ。でもなーんにも残らない。…すみません、巨匠の名作に。でも私は角幡さんの作品の方が同じ時間を使うなら、圧倒的に好きです。スタイルが全然違うから比較にならないのだけど、でもついつい比較しちゃう。ただこの「氷壁」の中では唯一、主人公の上司である東京支店長が面白い人で、時々彼の言葉にはハッとさせらるものがあった。井上靖が彼の口を借りて、あれこれ言いたいことを書いたに違いないね。

特に不倫相手の奥さんの旦那でもあるジイさんとの会話は最高だった。そこに出て来る。その人がお金持ちだったかどうかというのは、その人が亡くなり棺を閉じる時、使ったお金で判断される、と。お金持ちでお金をたくさん儲けた人でも、棺を閉じた時、お金を全然使っていなければ,その人は貧乏。一方で犯罪をしようが、泥棒をしようが、借金をしようが、お金を使った人はお金持ち、という発送。なるほどねぇ…

とにかく70年代のテレビドラマみたいな作品を読みたい人にはおすすめです。新田次郎の「アラスカ物語」とかもそうだけど、このテの作品は私はどうも苦手みたいだね…