「特別授業“死”について話そう」を読みました

14歳から大人まで読めるエッセイ集みたいなシリーズのうちの1冊。「14歳の世渡り術」というらしい。

うーん、14歳で世渡り上手になっちゃいかんだろう、と思いつつも何故この本を買ったかというと、もちろん角幡唯介さんが参加しているからなのだが…

しかし、内容も装丁は悪くないんだけど、前書きかなんか付けて「これは書き下ろしです」と、もう少し明確に書いておくとか出来なかったのかな、と思う。最後の広告で「書き下ろしシリーズ」とあって、そうか、これは書き下ろしなんだとやっと気づく次第。

せめて「これらのライター陣にはこういう形で発注してます」とか、もう少し編集がどういう気持ちでこの本を作っているのかが欲しかったな。パッケージという1つのまとまった形における読者への親切なガイド…が、足りない。これでは、あまりにも編集の作業をしていない。というのも、この本はただでさえ一貫性にかけるというか、あまりに1つ1つの文章の調子が違いすぎて、とても読みづらいのだ。「それがこの本の面白いところだ」と言う人もいるかもしれないのだが、編集者はいったいこの本をどういう人に向けて発信したいと思ったのだろうか。私にはその意図がまるで読めなかった。明らかに1つをのぞいて14歳向けには作られていない。人気のあるライターを並べて、それぞれのライターのファンが買えばいいという意図のもと作られた安直な本だと思われても仕方ないのではないか。すみません、のっけから厳しいこと書きましたが、正直にそう感じたのでした。

先日のディーリアス本とかの、なんというか、こうあまりにも美しいパッケージとしての、最高の完成度などに接した後には、こういう本はどうなのかと思う。確かに1,200円という超努力の値段は評価すれど、そもそも1,000円以上払って、こういう紙の本を持っている意味があるのかな。とにかく1つ1つがあまりにも調子が違いすぎて、大人はいいのだが、子供は混乱するのではないのだろうか。いや、14歳だったら大丈夫か…。

しかしお目当ての角幡唯介さんの文章は最高でした。角幡さんはここでもすごく角幡さんで、角幡さんを角幡さんたらしてめている「角幡唯介性」みたいなものは超満喫できる(笑)ちなみにツアンポーで死にかけた体験が書かれているのだが、まるでいつもの角幡さんの文章で、新しいことは何もなかった。ま、でも角幡さんはこれでいいのだろう。角幡さんはそもそも共感を得るために書いているのではない。そこがいいところだ。でも角幡さんがホントに14歳向けに、普段と違うスタイルの文章で書いたら、それはそれで面白かったのではないかとも思う。ま、でもそういう器用なライターってのとも角幡さんは違うから、これはこれで良いのであろう。というか、逆にこの文章に感銘を受けて14歳が角幡さんの『空白の5マイル』などを読み始めたら、それはそれで素晴らしい。そうなのだ、場は変わっても,自分は自分に正直に。しかしまるでロック・ミュージシャンみたいだな、角幡さんは…(…と、勝手に解釈して落ち着く/笑)

いずれにしても角幡さんのところだけ速攻で読んで、あとは積ん読になっていたので、先日お風呂の中で読んだり寝る前に20分だけ読みたい時に読む気楽な一冊として、再びこの本を手に取った。

角幡さんも最高に良かったが、酒井順子も同様。私の好きな人たちは場所が変わっても、いつもスタイルが変わらない。でも酒井さんこそ普段と違う酒井さんの文章を読みたかったよなぁ。一方で、他の執筆者たちは、実は知らない名前も多く、正直「なんだこれ、分け分らん」みたいな文章もあった。平仮名を不自然に多用した文は私は苦手である。あれはどういう意図を演出しているのだろうか。可愛い子ブリッ子?(死語)TwitterやSNSもそのスタイルで書く人いるけど、なんか自意識過剰というか、うっとおしいというか… 何が言いたいんだ、これ…と思ってしまうガサツなオレ…。はい、傷つきやすい人、ホントに苦手。

一方で最高に面白かったのは「生物」の先生『ウンコに学ぶ生き方・死に方』を書いた伊沢正名先生。いや〜食物連鎖ってこうなってたのかと妙に開眼。腐ることの大切さ、そして生きるということ=命をいただくという考え方。かなり面白かった。それにしても大人になっても人間はウンコの話が大好きだ。先生は野糞愛好家で(笑)21世紀になってからまだ一回しかトイレでウンコをしていないそうだ。もうなんだかそれだけで嬉しくなってしまう。野糞のように、命を返し、生きて来た責任を果たす喜びは、本当に生き物として大切なのだ。長生き=幸せと人間は勘違いしていないか…というごもっともな話で納得感マックス。

そして「介護」の先生「14歳の看取り…死にゆく人のためにできること」も良かった。川口有美子先生。特に14歳のあなたに出来ること、と言って14歳でも出来ることが列挙されているのには妙に安心した。それは例えば:*お祖父さんのそばで宿題をしたり一緒にテレビを見ること *自分の学校や友人のことなど話す(相手が聞いていなくても)*お祖父さんがしてくれたことを思い出して話す *妹や弟の面倒をみる…などなど。とにかく読んでいてすごくホッとした。この先生がいいのは、読者がしっかり14歳だと定められているからだ。こちらも読んでいてこちらも安心だし、なんだかすごく心が落ち着いた。

あと「現代社会」の「死を知らぬまま、死を“操って”」を書いた遠藤秀紀という先生も面白かった。「現代の高度医療は、人に幸せをもたらすことに関してはほとんど無力だ」という言葉が、とても力強い。確かに高度の治療は命を延ばすことは出来るが、本人の幸せはまったく違うところに存在している。そんな医療の無力感みたいなところから始まっているのが、すごく信頼できた。

ま、正直に書きました。本1冊というのは、でも文章の固まりである以上に1つの作品だし、1つの世界のプレゼンテーションだよね。 ま、そもそもこういう書き下ろし/発注内容不明/オムニバス形式の本を読んだこと自体、私には向かなかったのかも。でもとにかく「野糞の先生」は気に入ったので、本を探してみようと思う。