ブレイディみかこ『僕はイエローでホワイトで、ちょっとブルー』なるほどこれは素晴らしい



いっやーこれは素晴らしい!! 上のリンクでかなりの部分を試し読みもできるので、ぜひ。

友達が図書館のこの本の順番待ちでめっちゃ並んでるとSNSで言ってたけど、いや〜、すごい。わたしが最近購入したら、すでに11刷という…  すごいな。っていうか、図書館でレンタルじゃなくて、これは買わなくちゃいけない本ですよ。1,500円とかなんだから、ぜひ。

わたしも英国の暮らしはある程度知っているはずだった。今でも英国人の友人は多いし、84年に初めてイギリスというところへ行ってから(当時はイングラントとか、スコットランドとか、アイルランドとか認識してなかった)、わたしの英国好きはすごかった。若かったから大抵の場所はせっせと観光で回った。行くことだけが好きだった当時のわたし。英国を歩く自分に酔っていたのかも? 行くだけなら金と暇さえあれば、誰でもできることなのにね。それがわたしの小さなプライドを支えていたといっても過言ではない。そして社会人になってからは、旅行業時代はどっぶりほぼ80%英国もの。音楽業界に入ってからアイルランドに傾倒しながらも英国人とも仕事は多かった。

すごくわかるのは、英国はやっぱりクラス社会だってこと。わたしも英国人と仕事するたびに、まずは相手の「お育ち」をさぐる。言葉のなまり具合、町のどの辺に住んでいるのか、お父さんの職業は何か… そうして、で、あぁ、そうね、やっぱりねと相手の性格に対して納得することが多いのだ。たとえばブー・ヒュワディーン、たとえばクライヴ・グレッグソン、そしてグレン・ティルブルック。ロビン・ヒッチコックは明らかにおぼっちゃまだし、ポール・ブレイディは北アイルランドだけど、やはり相当なおぼっちゃまプロフィールだ。そのくらい「お育ち」は、みんなはっきり分かれている。見た目がボロボロのミュージシャンでも「お育ち」がいいと考え方がまるで違う。こう言ってはなんだが、やっぱり「お育ち」がいい人は話していても面白い。そしてやっぱりミドルクラスのお育ちがいい自己肯定感が強い連中の方が、表現者(ミュージシャン)としての職業を選ぶよね。
相手の「お育ち」は仕事上の相手との付き合い方のちょっとしたコツに密接につながっていくから、やっぱり「お育ちさぐり」は英国諸島に住む取引先に対しては必須な行動なのであった。それが相手とのコミュニケーションを円滑にするし、相手にも不快な気持ちを与えない。

なので、この本を読んでいて「そうそう、そうよね」と思うところがあるのだが「そうか、今はこうなっているんだ」と思うこともすごくあったし「全然知らなかった」と思うことも。そして、こういう時代に子育てをすることの難しさなども感じさせる。親も迷いながら、でも確固たる意思を持っていないとつぶされそうになりながら一緒に成長していく。いつしか子供は親のことを追い抜いて、親が子供のいうことにはっと気づかされる場面がたくさんある。これって若い子と接するわたしでもそうだ。前にもこのブログで書いたが、子供や若い人って本当にすごいよね。子供のころから多様性を教えられてきた子供なんぞは、すでにウチらのいくつも先を言ってる。ひとつひとつ息子さんの言葉にドキっとする。

自分には子育ては出来ないから、こういう彼らの素晴らしさを教えてくれる本には感謝だ。すごい、本当にすごい。子供や若い子たちは本当にすごい。

っていうか、なんか人類、進化してる。こうやってわたしたちは猿から少しずつ人間になってきているのだ。子供たちは素晴らしいよ。実際、今、この時代を感受性が一番敏感な時代に生きる彼らの世界は、複雑でややこしくて、本人たちは本当に大変だろうと想像する。答えはシンプルではなく、そもそもどこの家庭も「いろいろある」のだから。が、それをしなやかに彼らはくぐり抜けていく。

1つの価値観にかたまったような教育をされてきたわたしたちと違って、彼らは必死ながらも多様性を受け入れていく。多様性は大変だけど、このお母さん(著者)が言うとおりで「でも楽ばかりしてると無知になるよ」ってのが、本当にいいんだよね。「無知」って言い方してるけど、要は「バカ」だよね。「バカ」。多様性は大変だけど、楽ばかりしてるとバカになる。そういうことだ。わたしもそうだし、多くの人がそうだと思うけど、知らないでバカになるのと、知ってて悩み多い人間になるなら、やっぱり悩みが多くなったとしても、いろいろ知っていたい。バカにはやっぱりなりたくないから。ブレイディさんが角幡さんとの対談でも言ってたけど、知ってさえいれば「それは違う」って言えるから。バカは弱いから。知っていれば、強いから。


角幡さん他、多くの人がこの本の感想で取り上げているとおり「シンパシー」ではなく「エンパシー」という「他人の靴を履いてみる」話の回は特に秀逸。また、この他どれひとつとして読み逃してはいけない。うーん、やっぱりこういう本を読まなくちゃ、と思わせてくれる力強い1冊でした。発売からだいぶ経ってしまったけど、ゲットして良かった。超おすすめです。

確かに先の元アイドルの方が書いた本とかと比べると文章のキレ味とか、テンポとかは弱いかもしれない。でも普通に読みやすいし、良質のノンフィクションにこだわる私のような読者は、そもそもノンフィクションにそんなエンタテイメント性は求めていない。それより充実した内容だ、内容。そういう意味でもこれはたいへん素晴らしいプラチナ本です。ぜひ読んでください。今年のベスト1かもしれない。かなり感動した。



PS
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