『クリエイト大阪 解体新書』を読みました



ホームページを見ているだけでもかなり楽しい、舞台監督さんの会社、クリエイト大阪。

ウチの公演は、せいぜい大きくて400〜500人なので、普段は舞台監督さんなしで小屋付きのスタッフもしくは自分たちで制作してしまう。ちなみに小さい公演であれば、確かに舞台監督さんが必要ないということもありうるのだけど、舞台を仕切るプロフェッショナルがいないステージというのは観ていて、まことに危なかっかしい。

本当にいつか自分でたくさんの予算を使って、自分の好きなスタッフのスケジュールを押さえ、たくさんギャラをお支払いして、打ち合わせの時間を十分にとり、あれこれクリエイティブなものを作っていけたらなぁと思うのだけど…  それは夢のまた夢。普段はそういう状態からは程遠いあっぷあっぷ状態。でもほんと自分のアーティストと自分だけじゃなくて、舞台監督、音響、照明、皆さんつれて、みんなで大ツアーしたいよなぁ!!

まぁ、そんな夢はさておき、そんなわけで、私はあまり大きなステージのことはわかりません。この本に出てくるエライお父さんたちのお名前もあまり存じあげない。絶対に業界内のドン的なすごい方達であることは間違いないのだが…。

でもウチは本当に恵まれていて、外部スタッフさんにお願いできる場合は、本当にいつも一流の方が来てくれている。日本が誇るトップクラスの舞台監督さんたちと仕事ができて、本当に光栄だ。大きなステージやたくさんのプロモーターと仕事をしている皆さんとの仕事は、すごく勉強になる。時々、自分が観客として行った公演で、そんなスタッフさんで見かけて(特にPAさんとか客席の中にいるからよくわかる)「そっかー 今日の音響、誰々さんかー。よかったもんなー しっかしこんな第一線で活躍している方がうちの小さな公演も手伝ってくださってるなんて、本当にありがたいことだ。すみません、すみません」と心の中で思ったりもしている。

最近ではゴサード姉妹たちと5週間におよぶツアーをしたのだけど、会場が1,000人〜2,000人クラスだったので、ステージ周りのスタッフだけでも10名という巨大なツアーになった。もっとも私は常にミュージシャンと一緒で、彼女たち+母+私の5名だけで移動。なかなか舞台のスタッフとご一緒する時間はなかった。彼らは私たちが会場に入る何時間も前から会場を設営し、演奏が終わると私たちがサイン会している間にステージをきれいにして次の公演場所へと移動していく。ゴサード姉妹のツアーでは会場で販売するCDを、スタッフの皆さんのトランポに載せてもらっていたので、CDの精算が遅いと、いつ置いていかれるかと冷や冷やだった(笑)。というか、舞台監督さんの一人に「野崎さん、大丈夫? CDはもう積んだ?」と本来ならステージとは関係ないことなのに、気を使ってあれこれ助けていただいた。それにしても、本当に皆さん、仕事が早い。あのすごい巨大なステージをあっという間に撤収していく。

ツアー中、たまにオフや移動日があると、ゴサード姉妹たちはスタッフのみんながいったい今どこにいて何をやっているのか興味津々だったが、「彼らはきっと開いた日に別の仕事を入れてるのよ、絶対に言わないけど」と噂していたものだ(笑)

本当に彼らは忙しい。私のよく知っている監督さんで「今日、名古屋を3回見た(つまり新幹線を往復してすごい数の現場をこなしている、ということ)」なんて人もいたり…



そうなのだ、あぁいうスタッフの人たちって、プロな人ほど「自分は何をしました」「僕がやった誰々は…」なんて、それこそ窓際においやられたレコード会社の親父が言いそうなことは何も言わない。そういうところが本当にストイックでかっこいいのだ。(というか、現場があまりにも忙しくてそういう余計な話をする余裕がない、ということなのかもしれないが)

そういえば彼らは打ち上げにもあまりこない。来てもらえればアーティストも喜ぶと思うんだけど、彼らはプロフェッショナルに仕事をして翌朝のためプロフェッショナルに消えていく。本当にプロ集団。でも、その日の仕事がめちゃくちゃうまくいった時は打ち上げにも来るのよ、と某女性プロデューサーが言っていたが、それは確かに当たっていると思う。ほんと皆さん、職人体質なのだよ!

私の好きな舞台監督さんが何人かいる。私がコンサートについて右も左もわからなかったころ(今でもわかっているのかはなはだ疑問であるが)大きなプロダクションといったら、お手伝いで時々はいるプランクトンさん主催のホール公演だった。プランクトンさんの現場では、本当にK子さんやH子さんにいろんなことを教えていただいたが、私が与えられるのは、だいたいミュージシャンのアテンドだったので、とにかく舞台までミュージシャンを機嫌よく連れてさえいければ、ほとんど自分のミッションは完了だった。そして会場につくとちょっとした通訳などしてステージを手伝い、よくわからないながらも、そうかー、こうやって舞台って出来てるんだーと感心しつつ、理解しているふりして図面やタイムテーブルを広げていた。当時の私なんて酷かったと思う。赤面ものだ。例えばステージの上はサウンドチェックが始まるまではスタッフのもの。必要以上にウロウロしないように、勝手に物を触らないように、彼らの導線に立ってぼーーっとしないように気をつかう等々、そんなことも最初はできてなかったと思う。そしてたくさんの人が仕事を同時に進行していく中、舞台監督さんは、とても頼りになる存在だ。舞台における問題は、彼らに相談すれば解決するのだから。

そして普段何でも一人でこなす私も学んだ。ビックプロダクションにおいては、人の仕事を邪魔しないことが一番重要なのだと。それに気づくまでだいぶかかってしまったが(笑)

プランクトンさんの仕事で出会った舞台監督のEさんには、私が右も左もわからないころから手取り足取りいろいろ教えていただいた。なんというか、Eさんは経験値が違う。例えば北とぴあで毎年やっている公演は、最初私も右も左もわからなかったのでEさんに舞台監督をお願いした。Eさんは、会場下見と打ち合わせに一緒に同行してくれて「これだけだったら野崎さんだけでも回せるから自分でやってみれば?」とステージの、私がわからないところの指示をホールの人に出すと、ギャラも受け取らずに去っていった。かっこよすぎる…「王子って面白い飲み屋はどこにあるの?」とか言いながら、かっこよく音響のKさんと消えていったEさんの背中を見ながら、私は感動してしまった。おかげで北とぴあは、ホール付きの皆さんと私と、音響のKさんだけの低予算でなんとかステージを回せている。本当に感謝だ。(そして音響のKさんには音響スタッフ以上のことをお願いしてしまってもいる。こちらも本当に感謝)

最近ではEさんと最後に仕事をしたのは、Duoで行ったウチの20周年公演だった。ルナサ、ナヌーク、ヴェーセンという3バンドが出演するので、さすがに小屋の担当だけでは心もとなくEさんにあれこれお願いした。うううう、あれも良かったよなぁ。あの日の音響はやはり大好きなKさんにやってもらったのだけど、本当に素晴らしかった。音楽的な内容もすごくよくって、あの二人に心から褒めてもらった。あの二人に褒められると私は誰に褒められるより嬉しいのだ。Eさんと、また一緒に仕事したいなぁ。まずそれには大きな公演を作らなければいけないのだけど…。

あと民音さんの公演で出会ったOさん。私はフレアーク・グローバル・オーケストラのツアーでOさんと最初に出会い、それ以降、民音さんの大きなツアーは「制作は絶対にOさんがいい!」と民音さんにわがままを言ってOさんにお願いしている。Oさんも「野崎さんとこのアーティストはいい人が多いねぇ〜」と喜んでくれていて、本当にいつも楽しく仕事をさせてもらっているのだ。Oさんからも学ぶところは多い。実はOさんはクリエイト大阪に籍があって、この本にも登場している。普段現場ではバタバタだから、いちいち話さないOさんのいろんなバックグラウンドが知れて、本を読んでいてすごく面白かった。Oさんもすごいキャリアなのに、あまり仕事の話を自分からはしない方だ。もう70overのOさんは、農夫(笑)もしていて、どちらかというと千葉の畑のこととかは熱心に語る(笑)。じゃがいもがどうしたとか、今年の何々はいまいち、とか(笑)。Oさんに、知り合ってからうんと後になって「いや〜サンプラザで象を搬入した時は…」というのをさらっと言われ、「えーーーーっっ?! あのユーミンの伝説の?!」みたいになったのだったが、いやはやすごい歴史の生き字引って感じだ。Oさんとは、また民音のツアーで(コロナが収束していれば)この秋にお世話になるので、楽しみだ。それから2022年の秋もOさんとのツアーが決まりかけている。あぁ、またあのチームでできるかと思うと本当に楽しみ!!

そしてこの本にも登場するママさん舞台監督のUさん。Uさんの、この雑誌に連載していたというエッセイ。全部読みたいよ!! この本ではその1章が紹介されている。書かれたのは2001年でだいぶ前だ。でもUさんの気持ちがしっかり出ていて、良いエッセイだった。というか、Uさん、もっと若い方だと思ってたよ、私(笑)。しかしお子さんも育てて、こういう仕事をするって本当にすごいことだと思う。特に上司の方に「あそこには呼ばれたものが行く」と言う下りにはグッと来てしまった。Uさんとは光田康典さんのゼノギアスの公演でご一緒したんだ。あの時は本当にバタバタで、ジョアンヌは飛行機乗れなくてゲネプロ当日に成田に到着するし(あぁ、もう…)、本当に大変だった。でも会場まで彼女を連れていったら、あとはUさんや他のスタッフの皆さんが本当によく面倒をみてくれて、的確な指示のもとすべてがスムーズに進んだ。あれは感動的だったねぇ… でも、ほんと舞台監督さんって、そうなのかも。舞台が舞台監督さんを呼ぶのだ。あそこには呼ばれたものが行くのだ。そういう感覚、分かる気がした。

正確に説明するとこうだ。新幹線で上司と一緒に座ったUさん。「この業界で女性がチーフにはなるべきではない」と話すUさんに対し上司の方は「客席側から仕切れる舞台監督になりなさい。あの場所で仕事が出来る舞台監督というのは、なりたくてなれるものでは無い。なるべくして、あそこへ行くのだよ。選べれて行く場所なんだ。あなたは行くべきだ。行かねばならない」って言ったんだって。新幹線が目的地につくまでに結論は出なかったらしいのだけど、この話にはちょっと涙が出たよ。ほんと私たちの世代は、女性っていうだけで、もう同性の後輩たちのためにも頑張るしかなかったんだよね。良い前例を作っていくために。そうそう、エッセイに寄せられたイラストレーター:アカサカヒロコさんのイラストもとても良い。

ちなみにこれはジョーをステージ袖でみている私を撮ってもらった写真。Uさんがくれたものだと記憶してます。こういう他のスタッフの気持ちにも寄り添ってくれる舞台監督さん。本当にありがたい。暗くて見にくいけど、いい写真でしょ?



あとこの本の本筋からは外れるがちょっと覚えておこうと思った箇所がいくつかある。今後の自分の仕事の指標にもなると思うので、メモ。

「構成はその歌手がアドリブでしゃべっているのだと感じさせつつ、実は自分のドラマ作りにしたがって歌の説明をするのでもなく、日常を語るわけでもなく、客にそのナンバーをより味わってもらえるようにするという仕事」(曲間MCについて、これは覚えておきたいことだ)

「優秀な作家というのは、コンセプトを読んだだけでイメージが沸き、そこにお金を払ってもいいと思わせるものだ」

「どんなステージでもよくしようと思ったらきりがない。最終的にはお金がないからどうしようもないということもあるが、もう少しエネルギーをかえてやればできることもある。エネルギーをかけてやらないと、仕事がおもしろくないだろう」

「金のない部分というのは、手間隙をかけたアイディアであったり、労力でおぎなえる部分なのだと思う」

「それだけエネルギーをつぎ込むと自分にかえってくるものも大きい。もっと時間をかけたらいいと思う。時間をかければ、それだけ仕事をも楽しめること思う」

「舞台監督に一番必要なのは決断」

(舞台監督を目指す人への提言)「口を開けてまっていても誰も餌をいれてくれない。食らいつく根性。自分から取ろうとする気持ちが大事」

「メディアが増えてしまっていて、あれでは共食い。作る側はおもしろいものを作っているとは思うのだけど、それを受ける側が増える結果にはなっていない」

「今コンサートを動かしているのはレコード会社。マスコミと通じてCMが決まったからコンサートをやろうとか、いま売れているやつをやる。ほとんどのイベンターがパーセンテージ契約で赤字を背負わない」

「舞監はスタッフの中で技術力を持たない業種、そのことを忘れたらアカン」「プロスポーツ選手と一緒。どれだけ仕事ができても年取ってるだけでうっとおしがられたり、もういいですよとなったりする」

「芸者と一緒。姐さん芸者はこの人がいたら場を盛り上げてくれるとかホッとできるとか、そういうことを作っていくんだ」

あと一つ考えさせられたのは、スタッフの質の話。仕事をシャープにこなす人よりも本番中は寝ていても(笑)、風呂敷を広げイメージを広げられる人がこの世界では必要とされている、ということ。これ、私も感じていた。私も今でこそかなりゆるゆるだが、若いころは結構シャープに仕事ができた。で、仕事ができないのにただ現場にいるだけで喜ばれる男性スタッフ(そう、このタイプは男性が多い)にイライラしていた。でもこの本に出てくる「●●は、尖ってないから、おれたちよりも(クライアントさんが)相談しやすい。俺たちに言われると、仕込みは何時ですかとかそういう現実的なところから入る」というところ。これはちょっと思うところがあった。仕事をたくさん得るにはそれよりもクライアント(発注者)の気持ちによりそうことが大事なんだと。
ここだけの話、とても仕事が出来るとは思えないんだが、業界の波にうまく乗れている人はすごく多い。 まぁ、だから業界内の金銭トラブルとかも多いんだけど…  あぁいう人たちを見ていると仕事を得るには、仕事自体が出来ることよりも「可愛くある」ということの方が大事なのではないかな、と思ったりする。うーん。

それにしても舞台監督さんってかっこいい。なにせビックプロダクションの頂点だものね。普段のミュージシャンと自分だけで回る小さなツアーは大好きだけど、時々ビックプロダクションで車輪の一部と化し、みんなで作り上げていく、あの独特の感じが恋しくなる。お客さんが多いと、これまたたまらない臨場感がある。

で、一方で自分のツアーに戻ると、ミュージシャンとたとえ小さくても一国一城の主だという自分にも嬉しくなったりする。どちらの世界も持っている私は本当に恵まれている。

それにしても舞台監督の皆さん!! いつもいつも本当にご迷惑かけています。これからもどうぞよろしくお願いいたします。

ところで、残念ながらこの本は非売品なそうなんですよ。もったいないと思うけど、そこは裏方に徹する皆さんのこと。業界内だけで…ということにしたんだろう。そんな気持ちもわかるような気がした。

というわけで、このブログを読んだ皆さんには、ぜひこちらを観てほしいかなぁ。動画なんですが面白いですよ。高橋真梨子さんのツアーの裏側。皆さん、かっこいい!



かっこいい。すごいぞ、クリエイト大阪!! そしてまたツアーでご一緒できるのを楽しみにしています。