テリー植田『誰も教えてくれないイベントの教科書』を読みました


いや〜、イベント多い。イベント多すぎだ。ちょっとしたトークショウや店頭イベントなど「宣伝」「PR」と称して、そのイベント自体はちっともマネタイズされてないのに、東京ではあっちでもこちでもイベントが行われている。まるでカオスだ‥

こんなに無料や参加料が安いイベントやコンサートやられたら、有料で世界の最高級のミュージシャンを紹介しようとコンサートを作っている人間にはたまらない。

まぁ、みんなイベントがやりたいのだ。やる方にまわりたいのだ。確かにイベントをやれば「何かを仕掛けている」側に立つことができる。気持ちはわかる。

が、一方でイベントの功罪というのもある。イベントさえやれば盛り上がっているような空気は作れる。それが実態がなくても。そしてスタッフは時間をどんどん奪われる。それでもイベントをやめることはできない。だって麻薬みたいなものだから。そしてイベントさえやっていれば、頑張っていることを多くの人にアピールできるから。でもイベントをやったからって、単純に盛り上がるわけではない。結局はマニアックな連中を喜ばせるだけだ。主催者はやった気になるだけだ。

だいたい、そもそもそのイベントを通して何を伝えたいのか、何が目的なのか、何が売りたいのかわからないイベントや小規模の公演が多すぎる、東京は。これだけイベントが多くて、私も会場が取れなくてすごく苦労しているというのに、実際、その現場に行ってみたらガッラガラみたいなことはよくある。結局は音楽というよりも不動産業営んでるスタンスの会場、ライブハウスを喜ばせるだけではないのか?

……というのが、ついこの間までの東京の状況だった。コロナ以降、それはどう変わっていくのかわからない。

というわけで、この本である。企業で急に担当を振られ、右も左もわからない中でイベントを制作する事態に落ちいってしまった人には助け舟みたいな本じゃないだろうか。とにかく実践的な内容で良くまとまっている。

著者は基本的に誰にでもイベントは作れる、という。確かに。私も飲み会を上手に主催できる人なら、コンサートも主催できると思う。基本は同じだ。目的があり、日程を決めて、場所を決めて、会費をとって、みんなに楽しんで帰ってもらう。それだけのことなのだから。ただ「それだけのこと」がとても難しい。まぁ、それでも1回はみんなイベントを実行することはできるだろう。難しいのは「続けていくこと」だ。まぁ、それはさておき…

著者はイベント・プロデューサーで、企業のイベントをたくさん手掛けてらっしゃるのだそうだ。彼も重要なのは「人員配置」だと説く。特に受付はイベントの顔だ、とも。そしてスタッフとして大事なこと、それは「人と人がつながることを楽しめるスタッフになろう」ということ。そして主催者は、関わってくれた出演者やスタッフたちを褒めたりねぎらいの言葉を忘れないこと、と言う。これも重要。ふむふむ…と、まぁ、長くこの仕事をしてきた私も襟を正して読むべき部分が多い。

そしてもちろん企画の面白さも重要。トークショーや司会の重要性など、読んでいていろいろ勉強になる点も多かった。そして企画の掛け合わせの努力も必要だと著者は言う。1つのことではなく、掛け合わせるとコンテンツは強くなる、ということ。(例えばうちの北とぴあ祭とか、いい例かも。音楽だけではなくトータルな文化体験を作っていく。アーティストのファンじゃない人でも来やすいようにする等々。新しくて斬新な組み合わせによる驚きがイベントのワクワク感につながる、ということ。これも重要なのでここにメモる)

そしてイベントはなるべく短期的なものではなく、将来も続いていけるような内容にすること。収支を考えることももちろん重要だし、良いイベントには企業の協賛もつく。(協賛してくれる会社やクライアントに現場の熱量やお客に直接会うことができる等、イベントにはメリットが多いことを伝えること=これも、とても重要)

加えてイベントの内容だけではなく、イベントにおける物販は大事。物販においても前告知、会場内でのアナウンス、目玉商品の準備など怠らないこと。このへんはイベントをなんども主催しているプロデューサーたちも改めて心構えを新たにすることができるので、◎!

そしてイベントの宣伝においては、スリーヒットの法則(人は同じものを3回見ると覚える)を忘れないように。… 私はこれを4回と別のところから教わったが、まぁ、似たようなもんだな。つまり宣伝している時、かならず同じ人が4回見るような場所に、露出させることが重要なのだ。(まぁ、この辺は宣伝の極意なので企業秘密)

ちょっとうなずけなかったのは、集客がうまくいかない時は割り切って招待で埋める、ということ。まぁ、ガラガラの公演は絶対にNGだが、確かに集客の悪さに引きずられて気持ちが落ち込んでもいけないというのはあるけど、招待で埋めるってのは私はあまり賛成しないな…  まぁ、これはあとで詳しく書く。

あと著者の言う、成功するイベントの打ち合わせ時間は短いというのには、超共感。クライアントも何度も何度も人を呼び出し、長時間拘束するような打ち合わせをしているクライアントならこちらから切った方がいい。だいたい最初から揉めるような案件は、最後まで揉める。この辺はフリーランスで仕事をしている人はわかるんじゃないかな。「この案件はダメだ」っていう嗅覚みたいなものも重要だよね。

加えて宣伝におけるプレスリリースの準備など。この辺も常に頭を整理しておきたい。タイトル、見出し、リード文…。結論をとっとっと先に書く…等々。これ、自分も含め、ほんとにできてない人多い。もっともウチの場合、媒体の皆さんにお願いして宣伝する活動は年に1本と決めているんだ、実は。レコ社や出版社みたいに年に何度も何度もお願いしない。それが重要だと思う。そして重要なのは載せてもらえる価値のものに高めてから営業をかける。だから自分で本を読んだり、あれこれ考えて「なぜ他の音楽ではなく、この音楽を今聞かねばならないのか」の理屈を固める。じゃないと、掲載されてもあまりインパクトないし、ポロポロと露出させても「4回の法則」から外れてしまうからだ。一方であっちでも見た、こっちでも見たという環境を作れば、宣伝効果はウィルスみたいに倍々で増殖する。そうでないかぎり単なる単発瞬間風速で終わってしまい、お客さんのお財布の紐まで到達しないのだ。(と、まぁ、この辺も企業秘密なので、このくらいにしておく)

というわけで、この本を読んでの感想、そこに私が普段考えてることをまとめると…

(1)イベントはキャスティングが命。
誰がどこを担当するかでもうイベントの結果は出ている。

(2)イベントはタイトルが命。
目的がまずあり、何を伝えたいかがまずある。そしてタイトルが決まるとイベントの輪郭が見えてくる。どんな会場を選ぶべきか。どんな層のお客さんにアプローチしたいのか。

(3)コンサート、リピーターを誘いたいなら、短めに。
人間が集中できるのは70分。よく山下達郎でもスタレビでもないのに3時間公演をやるアーティストがいるが、私は賛成しない。長い時間お客を拘束すると、それがどんなに内容がよくても集中力が途切れる。これはベートーヴェンが第九を書いた時からの周知の事実。アーティストはほおっておくと延々やりたがるので、主催者はしっかり釘をさすべし。

(4)コンサート、お客さんが聞いてくれるからといってステージ上で、ぺらぺら、ぺらぺら無駄なことをしゃべらない。MCはお客さんが次の曲をさらによく深く味わってもらうためのもの。全体のフローや構成もしっかり考えること。ステージ上でセットリストを作れるグレン・ティルブルックやエディ・リーダーの域に達するにはまだあなたは早すぎる。

(5)PRにちゃんと時間をかけよう。いつも思うことなのだが、本ってなんであんなに突然出るんだろうといつも思う。ちゃんと応援したいのに宣伝の応援もできやしない。一方で雑誌やラジオのブッキングなんて、先まで埋まっているのだよ。この情報があふれる世界では、情報はどのタイミングでどう出すかが要。とにかく4回見ると、人に覚えてもらえる。だから露出をなるべく2週間以内に集中させることが大事なのだ。人はあっちでも見た、こっちでも見たというのが重なると、やっとその案件を覚えてくれるようになる。

(6)自分以外の、特にメディアが紹介してくれる記事や番組は、どんなに小さいものでもマニアックなものでも絶対に取りに行った方がいい。誰がその記事を見ているか、ラジオを聞いているかはわからないからだ。あと、重要なことは、すでにいるファンの人たちに「ここに乗りましたよ、あそこで紹介されましたよ」とブログなりSNSで報告することだ。応援してくれてるファンの人たちは、自分が好きなものに社会的地位が与えられて嬉しく思ってもらえる。すでにチケットを買っていたとしても、公演をますます楽しみしてもらえる。そこが重要なのだ。ウチの公演は1,000人とか、10,000人とか集める規模のものではない。結局信じられるのは、自社のネットワークに集まってきてくれている人たち。そこをいかに刺激し飽きさせないか、これが重要。

(7)お客が集まらないのが事前にわかっていたら、早く心を決めて無料イベントにすること。そして、それを可能にするためのファイナンス的なバックグラウンドを固めること。お客が30人みたいなコンサートや、招待だらけのイベントは立ち会っていてもつらいものがある。それにほとんど招待客みたいなコンサートにやってきたら、お金を払ったお客は自分は損をしたと思うだろう。それは最悪だ。お客さんの信用を失うことのないように。

(8)プランニングに時間をかけよう。
くだらない打ち合わせはいらないが、企画のアイディアを固めるまでに2年はほしい。そして1年前にはベストな日程で会場を押さえる。これが理想。時間をかけたイベントは良いものになる確率が非常に高い。

(9)イベントをやったら、それをちゃんと自分の財産にしよう。
例えばとても内容のよいトークイベントなのに、終わったあと消えてしまっては意味がない。書き起こしまでは無理でもせめてレポートにしてブログやホームページに載せて、イベントに来なかった人にもアピールするような展開がほしい。イベントに来なかった人も、それを見て「これ、今、こんなに盛り上がってるんだね」と思ってもらえる。よくイベントをやって、あぁ楽しかったで終わる主催者をみかけるが、それでは効果も半減だ。

…とまぁ、以上が私が思うイベントの極意の一部だ。もっときちんとまとめたい気もするが、まぁ、ブログなんで、この程度にしておこう。

さらに深い話を聞きたい方、ちゃんとコンサルティング受けたい主催者、アーティストの方はギャラいただきますので、直接お問い合わせください(笑)

とはいえ、Covid119以降、世の中多く変わってくるだろうなぁ、と思うのも事実。そんな考えもまとまったらここに書いておきたい。

いずれにしても何もやったことない人は、この本読んでみるといいですよ。背中を押してもらえること間違いなし。と言いつつも、イベントの主催をしたい人って2種類いて、1つはど素人で責任感薄いのに無理やり周りに迷惑かけつつ実行しちゃうタイプ。このタイプが音楽業界には非常に多い。特に男の人。(女のプロデューサーはもっと真面目である。そんなこと言ったら偏見かも?だけど私の体感としてはそうだ)

もう1つは勉強ばかりしてて慎重すぎてまったく実行に移せないタイプ(反対にこっちは女性に多い)。重要なのは、自分の中の両方の側面を理解しておくこと。結局は経験値が物をいう世界なので、失敗が許される範囲の小規模イベントで経験を積みながら、身の丈サイズで実行して行くのが一番良いとは思う。最後には夢が叶いますよ。

…と本日の説教終わり(笑) 今日も張り切っていきましょう!