「バンドにエイド」アーティスト紹介:バルトロメイ・ビットマン


若い子ってどうしてこう偏食なんだろ。いろんなものを食べさせてあげたかったのだけど、彼らはずっとお蕎麦を食べてた。バルトロメイ・ビットマン。初来日の様子です。

彼らをやろうと決めたきっかけはこうだ。ポーランドのヤヌシュ・プルシノフスキの招聘がまとまったとき、ケルトや北欧ばっかりやってきたウチのお客さんにわかりやすい彼の音楽のプレゼン方法はないかなと思っていた。なにせ5年をかけた大企画。どうやって盛り上げよう。あの超分かりにくい音楽(笑)をどうやって広めよう…

ヤヌシュにすべてをフォーカスして、この先2年のスケジュールを組む。一方で、近いうちにハンガリーのライコー・フェリックスを呼ぶことは決めていた。前から呼びたかったアーティストの一人だったからだ。ちょうど彼も出演する夏のフェスティバル(ノルウェー)にすでに行くことが決まっていたから、そこでライブが見れる。加えてマネージャーとも相談できる。

で、ライコーが決まって、考えついたのが「中央ヨーロッパシリーズ」。2年かけて3組の、新しい中央ヨーロッパのアーティストを紹介する、というもの。この「3」という数字がすわりが良いのだ。

では3組めは誰にしようと思っていた頃に、このビデオクリップがfbのタイムラインで、複数のヨーロッパの友人たちによってシェアされるようになった。ん? これなかなかいいじゃない。


でも本当に私の心を動かしたのは、映像ではなく彼らの当時の最新作でセカンドアルバムの「Neubau(新構築)」の方だった。アルバムがすごく良くできてる。特にこういう静かな曲が好き。これが1曲目なんだよね。こういう曲は自分の演奏にものすごく自信がないとできない。(「Neubau」はここで購入できます

これなら将来性あるだろ、ちょっと連絡とってみるか。

どうやら若くてまだ始めたばかりな様子だし高いことは言わないだろ…とメールをいれたら、割と速攻でチェロのマティアスから返事が来た。「僕らも日本に行ってみたい。ぜひ具体的にオファーを送ってください」と。

そして彼らは日本にやってきた。だから実は彼らには東京の空港で「始めまして」なのであった。こういうバンドはレアである。今まで… 3組かな。でもその3組とも、すべて複数回呼べるような仕事関係を構築できているのだから、私もこの仕事を長くやってきて、それなりに目が効くようになった。

まぁ、でも実際、洋楽の仕事してるからといって事前にアーティストのライブが見てから招聘を決めるなんて贅沢な話だ。メジャーのプロモーターだって、メジャーのレコ社だって、よほど大きなプロジェクトでないかぎりは会ったこともないような人の音楽をプロモーションするのが仕事だから、何かと小回りがきく私はかなり恵まれている。

確かに日本に持ってくる前に事前に本人たちに会っておくとプロモーションする時の説得力が違うから、本当は事前に見ておきたかった。でも契約から実行まで、この二人の場合は極端に短く、たった半年ほどだったんだよね。だから見に行く時間もなかった。それに、なるべく私は長くアーティスト付き合えるよう、1回目に全力投球しないのが常だ。まずは一回やってみて、様子をみる。仕事をこの先長く一緒にやっていけるのか、そこで見極める。

いずれにしても最近は会ったことのないバンドでもライブ映像なども日本からYou Tubeでたくさん確認できるから、便利な世の中になったものだ。

あと事前に見なくちゃいけないのは、彼らの仕事をする時の態度とセンス。スタイルと言っていいかな。これも彼らが送ってよこすメールをみれば、すぐにわかる。出来るやつか、出来ないやつか(あくまで私の測りで、ですよ)。向こうも「いったいどんなやつなんだろう」と探っているに違いない。果たして長く一緒にやっていける相手かどうか。正直彼らからのメールは「細かいことにうるさいな」という印象が最初はあった。ホテルはどんなところを取るのかとか。よっぽどアメリカあたりでいやな目にあったのか。とはいえ、まぁ、許せる範囲。だってお互い会ったことのない相手だから。若いのにマネージャーもなしで本当によく頑張ってるよ。しっかりしている。そんな印象を持っていた。

これが、でも通常まったくの飛び込みオファーだったとしても、アイルランドやケルトエリア、北欧関係になれば「あぁ、ヨーコね、誰々から話聞いたことあるよ」って認識してもらえるのだけど、彼らと私はまったく事前の接点がなかった。fbとかで共通の知り合いは、見事に一人もいなかった。彼らは基本クラシック畑だし、活動しているエリアがまるで違うということなんだろう。

そんなわけで、そこから始まる爆笑のツアーレポートはここ。有料になってますが、興味があったらぜひ。結構びっくりのネタあります(笑)。特に年齢の差や、会ってないならではの爆笑の話題が…



あれ、二人ともベジタリアンって言ってなかったっけ? よくよく聞いたらマティアスは結構日本食にも興味あり。手前のスプーンはお行儀の悪いクレメンス。


背もヴェーセン並みに高くって、二人とも190cm以上。かっこいー。でも食べる量はたいしたことなかったな。飲むのもだいたいノンアルビール。

下の写真は林田直樹さんのラジオに出たところ! ありがとうございました。


かっこいいだよねぇ、二人とも。


二人とも、本当にすごい取材スケジュールをこなし、朝から夜まで頑張ってくれた。インタビューにも真面目に応じてくれたので、私も鼻が高かったよ。

こちらは吉祥寺でマッサージ堪能のクレメンス。こんなに面積でかいんじゃ、セラピストのお姉さんも大変。そしてツンツルテンのお着替え(爆)


こういう写真撮るの、最近の若い子はうまいわねぇ〜 すっかり載せられた54歳。


それにしても間抜けで音楽を知らない私は… これは彼らにオファーを出した後から知ったのだが、マティアスの「バルトロメイ」というファミリーネームを見ても、何も気づかず、何も知らないまま来日を決めていた。今考えると恐ろしい話だ。マティアスはなんと世界のウィーン・フィルに120年以上仕える名門バルトロメイ家のおぼっちゃま。パパのバルトロメイは、日本に50回くらい来日している超親日家のチェリスト。音友から本まで出ている。ひいお爺ちゃんのバルトロメイはなんとマーラーのお友達だったらしい。ひぇー 知りませんでした!!

そしてマティアスが参加していたオーケストラのボスで、著名な指揮者アーノンクールについても「なんでHで始まるのにアーノンなんだろ」とか私はボケボケ考えていた。ひどいな。

でもそういう距離感の私の方が彼らの音楽に対してできることは多いのかもしれない。そういやグレン・ティルブルックやってるのにスクイーズのファンではなかった、とか。

でもこういう馬鹿な私でもこういう風にすごいアーティストと一緒に仕事ができるってことは、この仕事が、音楽の知識とはまた違う部分の筋肉が必要だということを示していると思う。そう、プロモーターは音楽マニアである必要はないのであった。それはまた別の筋肉なのであった。

マティアスがおぼっちゃま体質なのはいいとして、爆笑なのがクレメンス。ほんとやんちゃ坊主で、口が悪いというか、私、こういうタイプの子、大好きなんだよね。私に対しても物怖じせず「俺たちの国はオーストリアだ、オーストリア! 間違えるんじゃねぇ。コアラもカンガルーもいねぇんだよ。今は山に囲まれているけど、かつては海の方まで俺たちの国だったからな!」「サウンド・オブ・ミュージック? あぁ? 聞いたことねぇな」みたいなことを真正面から私に言う(笑)。なんでデュオってこんなに性格が全く違う二人が一緒になるんだろう!! 本当に笑える!

それにしても、新しいアーティストをやる時の、あのあれこれ勉強し、バイオグラフィーを作ったりする時間は本当に楽しい。私はこれを「お勉強の時間」と呼んでいるのだが、それがこの仕事をロマンチックで夢のある、ワクワクするものにしてくれている。一方で企画を作ってしまったら、あとは実行するまで… そこからは地獄の苦しみでしかないのだ(笑)。

来日が決まってふたりが最初に送ってバイオグラフィーは、全然日本の市場で戦えるたぐいのものではなかったため、古いインタビュー記事を集め、ドイツ語を翻訳してもらい、かつ二人にアンケートまで取って新しいバイオグラフィーを作った。その時のアンケートの結果はこちら。面白いのはマティアスが締め切りぎりぎりまで考える塾考タイプだったのに、クレメンスは一瞬で回答してきたことだ。ほんとにこの二人、性格がまるで違う。

それにしても前回の来日は単なるプロモで、やっと今回本格来日ということになったのに、5月のツアーが飛んじゃって、将来もある二人に本当に可哀想なことをした。

なんとかこのクラウドファンディングが成功して、彼らにツアーをやったのと同じ金額くらいのギャラを払ってあげられないかなぁと夢想している。まぁ、それはあまりにハードルが高いので、それは無理だとしても…ね。頑張らなくちゃいけないよ。

実は次のツアーの日程はすでに決定しているんだ。5月が飛んだ時、またすぐスケジュールをすぐに押さえたのだ。ただしかなり先なのだけど。それまでには二人には、また頑張って新譜を出して、それをひっさげて来日してほしいと思う。かなり時間があるので、仕込みに時間をかけられる。そうすると良いツアーが出来るんだよね。

そうそう、ツアーは流れてしまったが、NHKさん主催のTOKYO JAZZはオンラインで開催されることになり、彼らは素晴らしい映像を送ってきてくれた。NHKのプロデューサーさんからいろいろ指示をいただいた時、私はずっと「彼らは大丈夫です」言っていた。私は彼らのことを信じている。彼らも私のことを信頼してくれている…と思う。このまま良い関係でずっと一緒に仕事ができたらいいよね。なので、リモートで細かい指示を出さなかったのに、彼らはこんな素晴らしい映像を送ってきてくれた。


ロングヴァージョンもあって、それはこちらに掲載しています。良かったら、見てくださいね。

さて「バンドにエイド」のための選曲だけど、彼らは最初からずばり最初のメールで「Les Pauli」を指定してきた。私もそれがいいと思った。なんだかんだ言ってもこれが一番キャッチーでわかりやすい。新しいファンを獲得するぞーーー がんばるぞーーー!

ほんとウォリスのところにも書いたけど、彼らみたいに新しい子たちのことを考えると、もう少しこの仕事をしないといけないと強く思う。もう少し、なんとか売れてくれれば、きっと誰がやっても大丈夫なアーティストになれるよ、がんばろうね、マティアス、クレメンス。おばさんは若い二人にパワーをもらうのだ(笑)

あ、そうそう、お客様の二人のステージに対する感想ツイートで「クラッシックファンがライブハウスデビューするには最高の音楽」とか紹介してくださっていて、なるほど!と思った。それ、めっちゃいいアイディア。どうかクラシックファンの方も、この音楽、そしてウチの「バンドにエイド」を応援してください! 私もまだまだがんばらないといけない。