アンデシュ・ハンセン『スマホ脳』を読みました。これは素晴らしい!



いやー 面白かった。スウェーデンの精神科医が書いた『スマホ脳』。キャッチコピーや書評などから内容は想像していたのだけど、まったくその通り。かつ「どうしてそうなのか」ということが詳細に紹介され、最後にはその対処法まで書いてある。これは必読です。今のところ今年のノンフィクションNo.1かな。

まず訳がよくって、すごく読みやすいです。元がスウェーデン語で書かれたということもあるのかもしれないけど、訳がすごくいい。外国語で書かれたノンフィクションを読んでいるというストレスはまったくありません。これは強調しておきたいです、はい。

内容をちょこっと紹介すると、まず作者は「先進諸国でもっとも多い死因である癌や心臓発作について、心配でたまらない人は多いはずだが、歴史的な視野でみると人間の命をうばってきたのは、地球上にあらわれてから99.9%の時間、飢餓や殺人、干ばつや感染症なのだ」と説く。つまり人間の身体は癌や心臓発作から身を守るようにはできていない。そうではなく、飢餓や干ばつ、感染症から身を守れるように進化してきた。だから脳の得意分野はそこなのだ。その苦難を生き延びてきた人間の子孫が私たちなのだから。ふむ。

有名なスタンフォード大学の先生の言葉も紹介されている。「地球上に存在した時間の99%、動物にとってストレスとは恐怖の3分間のことだった。その3分がすぎれば、自分が死んでいるか敵が死んでいるかだ。で、我々人間はというと? それと同じストレスを30年ローンで組むのだ」もともと人類が進化の過程で乗り越えてきたストレスと、現在のストレスでは質が違いすぎる。だから「うつ病」になる人は現代ではとても多い。今、スウェーデンではおどろくほどのパーセンテージの若者が抗うつ剤を使用しているのだそうだが、その「うつになる」という状態も、詳しく分析してみれば人類の進化においては、実は自らを守るための技の一つだったりもする。

また「火災報知器の原則」も覚えておいた方がいい言葉だ。私たちの脳は何かの時に鳴らないよりも、鳴りすぎる方が良い。そういう原則がそこにあるのだ。それが生き延びる術だったのだから。

また動物として食べ物を探して新しい場所、環境には希望をいだく本能があるらしく、私たちはインターネットを眺めていても、今読んでいるページより次のページに夢中になる特性を備えている。そして脳は「かもしれない」という可能性が大好きなのだ。そしてそれが人間の集中力をそぐ。これは実際にインターネットに接するようになって感じている人も多いと思う。私ももちろんその一人で、間違いなくインターネットに接するようになってから自分の集中力が格段に落ちた。何かを読んでいても、まったく頭に入らない。入ったとしても翌日、前日に何を読んだか思い出せない…など。でもこれは脳の特性からすると当然のこと。なんと脳はスマホが同じ部屋にあっただけでも、集中力をそがれるようにできているのだ。例えば会った人がテーブルの上にスマホを裏返しにしておいただけでも、そして驚くことに文章の中にリンク先があっただけでも敏感に反応してしまう。リンクがあっただけで、私たちの脳はそこをクリックせずにはおれないのだ。…ちょっと怖いよね。でも人類の過去の99.9%の時間、人間は一つのことに集中してしまうと、後ろから象に蹴飛ばされたり(笑)してきたわけだから、これは当然なのだ。気が散って当然…。それは人類史上99.9%の間、生き延びるために必要な能力だったのだから。

他にもブルーライトの威力や電子書籍と紙の本の違いなども興味深かかったし、何より怖いのが子供に与える影響だ。これは子供を持つ親ならすごく気になることではないか。今、私は自分でもそういう傾向が強くなってきている自覚があるから、非常にやばいと思っているのだが「知らない」という状況に不安をいだく機会があまりにも多くなってしまった。だってぐぐればそこに答えが見つかる可能性が高いから。つまり「知らない」を「知らない」まま放置ということが我慢できなくなった。なんでもググって調べないと気がすまない。そしてググった知識は、またググれば良いという判断のもと、あっという間に脳の浅いところを素通りしていく。よく聞く話だと思うけど子供がマシュマロを15分我慢できるかという実験もそうだ。不安な状態に耐えられない。すぐ報酬をもとめてしまう。我慢ができない。それがどんなに恐ろしいことかと思うと…

でも実際、スマホが登場してからの期間があまりにも短いため、こういった研究はまだまだだということも著者は指摘している。それでも多少、これに対抗できる方法があるとすれば、これらだ、ということで最後の具体的なアドバイスのリストにたどり着く。このリストは非常に役に立ちそうだ。詳しくはぜひこの本を読んでみてください。