このイベント、各界からいろんなアクティビストや有識者を招いて学校で高校生を相手に特別授業をする、というもの。だいたい30人くらいの外部の先生が呼ばれて、生徒の皆さんは自分の好きな話題を選択し参加することができる。いいなぁ、私の通った高校には、そんな楽しいプログラムはなかった。
ここで先生として呼ばれる人は、だいたいはICUのOBやOGの中から選ばれることが多いようなんですが(なにせICUだし!)、例えばいろんな研究をされている偉い先生、もしくは意義ある社会的活動をされている素晴らしい方々が講師として招かれているのだけど、私は何故かそんな中で比較的ポップ枠(笑)を担当しています。
毎年「自分の好きなことを仕事にする」をテーマに、最初は自分で、そのあとはずっといろんな友人を招いて高校生を相手にお話をしてもらっています。通訳、カメラマン、作家、探検家…。
ちなみに昨年は吉原真里さん。その前は山口洋さんが来た。あと角幡唯介さんや、荻田康永さんも。亡くなってしまったあらひろこさんにも来てもらったことがある。あらさんの場合フィンランド講座みたいな感じの父母イベントでの演奏だったんだけど。懐かしい。
そういやFLOOKやデンマークのハラール・ハウゴー、ノルディック・トゥリーも演奏したっけ。なんだかんだで、もう10年以上ご一緒している。
で、今回はもう最初にお会いした瞬間から、来年のICUはこの方に来てもらおう!と思ったキニマンス塚本ニキさん。TBSラジオや、雑誌の連載などでもお馴染み、そして私にとっては昨年ピーター・バラカンさんがポリタスに出演した際、お世話になった、あのニキさんです。
まずはニキさんのこちらの本がとっても良かったんですよね。だから高校生に会って話をしてもらいたいなーとすごく思ったのです。(これは私の感想)
…というわけで、雨の水曜日、森に囲まれた素敵なキャンパスに一緒に伺ってきました。
以下は私が録音もせずにメモったニキさんの講義内容なので、間違いがあったり、ニキさんの言いたかったことと違っていたらすみません、あくまで文責=のざきでお願いいたします。
まずはニキさんの幼少時代。ニキさん、9歳までは練馬に住んでいらっしゃったそうで、シスターたちが運営している小さなインターナショナルスクールに通っていた頃の写真を見せてくれました。
ニキさんは、お父さまがスコットランド系のニュージーランド人で、日本語があまり得意ではなかったこともあり、お家ではお父さんとは英語、お母さんとは日本語で話していたそうです。
お父さんが困っていると、自然と通訳している自分がそこにいた、困った人の役に立てる自分が嬉しかった、とニキさん。なんか今のニキさんの活動にも通じる素敵なエピソードですね。
子供の頃はお父さんの国に行くと、日本は冬だったのに向こうは夏だとか…そういうことにとてもびっくりしていたそうです。確かにそうだ…
先述のとおり、この授業は自由選択だったのですが、ニキさんの講座は超人気でした! 女子が多いかな〜

授業では、その後、ニュージーランドに渡り、そこでのニキさんの生活を精神的にささえてくれた日本のアニメやマンガの世界へと話題が進みます。
ニキさん、オークランド大学時代は、映像学、社会学、ジェンダー学などを学び、すごく視野が広がったそうです。
みんなで作った短編映画を上映すべく奮闘したり、広めたい、伝えたいという気持ちがとても強くなり、それが自分を支えてくれて、それまでは本当にシャイで人前で喋れない自分だったけど、自分がやりたい、伝えたいということがしっかりあれば、頑張れるようになった、と。(ここ、高校生には結構重要ポイントになったと思う!)
いわゆる就職活動というものはニュージーランドにはなく、そんなわけでバイトも本当にたくさんの種類の仕事を経験してきたそうです。
中でもヴァン・ヘイレンのフロントマン/シンガーのDavid Lee Rothのアテンドをした時、「ギャラが良かった。1日X万円でした」という話に生徒さんたちは「おーーっ」とバカウケしておりました。
おいっ、おまいらの気になるところはそこかい?!(笑)
それはさておき、日本に帰ってきたばっかりの時は、日本語が結構不自由になっていて、たとえばWeek dayの「平日」と言う言葉が出てこなくて、「週末」って言葉あるから「週日」と言ってみたり… なるほど、ありうるかもしれない。言葉って本当に面白いですよね。
通訳になってみようと思えたのは、実は遅くて25歳くらいになってから。子供のころから通訳は自然としてきたことだし、他にできることがないから、というのが実際のところだったそうです。
ここで昨年出した「世界をよくするために知っておきたい英語100」の紹介。本当にこの本、新しい英語や社会の価値観みたいなのを紹介した素敵な本なんですが…
例えば「Body neutrality」 ちょっと前までは「Body positivity」という感覚だった(ありのままの自分を愛そう、みたいな)それが今はもっと進んで「体は健康、それだけでいいや」みたいな感覚になってきた、とか。
「Boundaries」仲が良くてもその人がいやなことは絶対にしない。自分と相手をしっかり分ける…みたいな。お互いをそしてリスペクトしましょう…的な。
「Quiet Quitting」確かに静かな退職を日本語で言うとそうなるよなぁ。(ここで私は「頭韻(とういん)」という言葉を初めて知りました。確かに英語でそういう表現たくさんある! 言葉のリズム感だよね)
そして、さらに『
翻訳できない世界のことば』という絵本の紹介。これ、私も大好きで自分でも持っているし、人にもプレゼントしたことがある名著。
ニキさんもこれ好きだって、知って嬉しかった。
この本でも日本語の「積読」や「木漏れ日」などが紹介されていて、確かに日本の「積読」なんかは、本当に英語でワンワードにするのは不可能。
そして、ニキさん曰く、例えばこれらの日本語は英語にするのがすごく難しいですね、と。
確かに「おかげさまです」のおかげの「かげ」は「ここに太陽があって、これがあなたの姿で、ここに影ができて、その影の中に私がいる、みたいなことなのか?」えっ、そうなのか? その影なのか?(笑)
あと、おつかれ様ですのおつかれは、それが朝で疲れてなくても言うことにとても違和感。そしてその意味はYou are honorably tired?ってこと?? えっ? ええっっ?
一方で、正義=Justice、Society=社会、rights=人権、romance=恋愛、freedom=自由、equal=平等、common sense=常識と言った言葉…というか概念は、外から入ってきたものに日本語を当てたもの。
となると、いったい私たちはそれは本当に理解しているのか。
うわーー これ、するどすぎる! 人の問題(英語で日本を紹介する)にかまけていて、そっちの考え方(外国の概念を日本語に落とし込む)、実はまったく頭になかったよ。
そして、ここで日本の漫画文化が海外でどう紹介されているかの話。
ニキさん、子供のころから日本の漫画やアニメが好きだったそうで、日本の漫画が、海外でこんな風に紹介されているんだという話は、とても興味深かった。
80年代の漫画「AKIRA」が海外に出た時は、右側から開く日本の漫画と左側から開く海外の本とのギャップを解消するため、なんと絵をすべてを反転させて英語版を作ったいたのだそう。知らなかった!! すごい手間!
そして、他にもいわゆる日本のオノマトペを海外の人が理解できるよう、どう翻訳するか。これが難しい。
でも、今では(たくさんの漫画が翻訳されるようになって、反転とか丁寧な仕事をしている余裕がなくなったのか)日本の漫画も右から読むんだよという「日本の常識」が割と世界的にも定着してきているんだそうです。
知らなかった!
つまりニキさんが言いたいのは、そんなふうにいろんな国、いろんな文化圏の人の頭の中は、こんなふうに日本とは違っているんだよ、ということ。そして、それに対するお互いの理解が重要で、わずかだけど、それを解消すべく、少しずつ進んで来ているんだよ、ということ。
最後に今回の授業のテーマに戻って「自分の好きなことを仕事にする」ということ。仕事というのは、社会参加していくということ。そして自分の行動が、回り回って、自分に影響があることだ、ということをしっかり認識する、と。
例えば年金がどう使われているのか。運用のために人を殺す武器を作る軍需産業に投資されているではないか。そして、そういうことを知り、自分は少なくともそこには加担しない仕事をしたい、とニキさんは思ったそうです。
ニキさんは、そうやってNPOやNGOの人たち、社会派のドキュメンタリーを作っている人たちを手伝うことになっていった。そうする中で、自分が思う、より良い世界になるように手伝うというモチベーションが自分の中に生まれてきた、と。(これぞまさに職業だし、英語で言うとcallってことになるのかな)
自分は自分の人生を選ぶ権利がある、と。例えば電車の中のインバウンドさんたちに会ったとき、自分にとっては当たり前なことを違う文化圏の人たちにどう伝えていくのか。それを好奇心をもって考える、それが自分の仕事になる、と。
例えばこちらは「5」の数え方。真ん中は日本もふくむ中国などの漢字圏での5の数え方、左はよくみる英語圏の数え方。そして右は初めてみたけど、フランス人や南米の人は、こういう数え方をするんだそうです。びっくり!
こんなふうにいろいろ違うんでしょ、ということを前提に考えていく。
いやー すごいなぁ。すごい大事なことだなぁ。言葉のことを言っているんだけど、イコールこれは生き方のことを言っている。
そして自分が守りたいものはないか? そしてそれを脅かす存在は何か? それを考えていきたい、と。
なんかもう、今の社会問題や、いろんな問題を解決するすべのことが、ニキさんの授業にあるような気がして、私はめっちゃ感動したのでした。生徒さんたちもそうだったと思う。
ニキさん、ありがとうございました。これ、もっと他の学校でもやりたい! めちゃくちゃ有意義な時間でした。
授業の後は、「いま、この日本で「ひとりで暮らす」ということはどういうことか」というテーマで授業をされた
和田靜香さん、そして「「生きていけない」日本に暮らす難民・仮放免者」というテーマで語られた(生徒から質問ぜめだったらしい)「つくろい東京ファンド」の
大澤優真さんと学食でランチしたのでした。
最初のポリタスの写真(笑)は、その時のものです。皆さん、本当におつかれ様でした。また来年が楽しみ!
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THE MUSIC PLANTとしての次の公演は、こちら。
Caoimhín Ó Raghallaigh クイヴィーン・オ・ライラwith 黒木千波留
7月24日(木)南青山曼荼羅19:00開演
¥6,000(+ドリンクオーダー)
野崎は作曲家:日向敏文さんのマネジメントおよび宣伝をお手伝いしております。6月25日に新作「the Dark Night Rhapsodies」がリリース。配信でもすぐ聴けるようになりますので、みなさんもぜひ。こちらが
特設ページ(Sony Music Labels)。
そして、その日向さんのひさしぶりのパブリック・イベント。6月26日 代官山「晴れたら空に豆まいて」にて。詳細はこちら。ニューアルバムの視聴会&公開インタビューと言った感じ。出演:日向敏文、松山晋也、オノセイゲン
民音さん主催でゴサードシスターズの来日ツアーもあります。詳細は特設ページへ。
ポール・ブレイディが12月にケルティック・クリスマスで来日します。詳細は
こちらへ。
2年前にレコーディングした無印良品BGM29 スコットランド編がやっと公開になりました。良かったら、聞いてください。プロデュースはLAUのエイダン・オルークにやってもらいました。