荻田泰永さんとICU高等学校に行ってきました。

ICU高等学校さんが外部の識者を招いてお送りする講座。全部でだいたい30講座くらい催されるのだけど、毎年その中の一枠をいただいている。

このシリーズもだいぶ定着したよなぁ。一番最初は「好きなことを仕事にする」というテーマで自分がやり(笑)、その後は親しい友人や自分の尊敬する方達を招くという形で同じテーマで継続させていただいている。

毎年楽しみにしているイベントだ。昨年はTOKYO FMの田中美登里さんにお世話になった。

で、今年はなんとあの北極冒険家で、南極点無補給単独徒歩を達成された荻田泰永さんに登場いただくことになった。

過去には通訳の染谷和美さん、カメラマンの畔柳ユキさん、ノン・フィクションライターの川内有緒さんアルテス・パブリッシングの鈴木茂さん、探検家の角幡唯介さんサラーム海上さんなどにご出演いただいた。

サラームさんの回の時は、私が病気になり急遽入院。「申し訳ない!」と一人で行っていただいたので私のブログに記録なし。残念。

で、今回は荻田さんですよ。荻田さん、ほんと冒険家としては、ある意味完璧な人だと思う。もちろん探検家、冒険家としての身体的精神的スペックの高さ(判断力、体力、経験度など)はもちろんなんだけど、私が尊敬するのは、その冒険や探検の意味を社会に伝える、社会に対する貢献度だ。

最近は本屋冒険研究所書店も主宰され、本当に素晴らしいと思う。100マイルアドベンチャーでは、毎年夏に子供たちを連れて冒険の旅に出る。(昨日、今年の概要が発表されたみたい)

そんな荻田さんの授業ということで、いやー 高校生が羨ましい! 私も高校生の時に出会いたかった、荻田さんに!

そもそも子供のころって、大人は自分の親か先生か、親戚くらいしかいなかったよね。でもそれじゃあいけないと思う。

以下は、私が講義を聞いてメモったことです。録音したわけでもないから、間違って理解していることもあるかもしれない。文責:のざきでお願いいたします。

まず講義の前半は南極と北極の話。私も北極のこととか、わかっているようで、全然知らないことがいっぱいあって、あれこれメモった。さすが荻田さん、高校生にもナチュラルなアプローチで慣れてるよなぁ。話がめちゃくちゃ面白い。高校生も惹きつけられていました。

また「冒険」と「探検」の違いも。角幡さんの本には、角幡さんなりのこの二つの言葉の定義が書いてあったが、英語で言うとどちらも同じ言葉Exploration、Expeditionになるけれど、例えばよく見ると「探検」の「けん」と「冒険」の「けん」は違う感じだぞ、と。

うっっ、そうだったけか。今、気がついた。自分でハンドライティングしないとどんどん書けなくなる漢字…やばい。…大丈夫か、私。今まで間違った漢字使ってたかも。

荻田さんの説明によれば、探検は危険である必要はなく、検査とか検証する、さぐる…そんな意味。

冒険はあくまで危険を冒すということ。リスクが前提。安全な冒険はない。

北極を歩くことの難しさを、温めた牛乳にはった薄い脂肪の膜にたとえたのもわかりやすかった。北極の海は2,000メートルの深さで、そこに2mくらいの氷がはっている…そんなイメージ。だから氷にしわが寄って、ボコボコになり、とても歩きにくい。かと思ったら、今度は亀裂が入って歩けなくなる…等々。

そして近年、氷はどんどん薄くなって、どんどん北極行は難しくなってきている、ということ。

荻田さんの場合、氷に亀裂が入ると何日も亀裂にそって歩くわけにもいかず(特に無補給の場合は時間との戦いなのだ)最近では亀裂を見つけるとドライスーツを着てとっとと泳いで渡っちゃうんだって。

ドライスーツ、映像で初めて見たかも…シュールでした。角幡さんがチャック閉め忘れて浸水しちゃうやつだよね…命の危険!(爆)

他にも北極熊や、狼の話。人間は嘘をつくけど、野生動物は嘘をつかない。相手の様子をよくみていればわかる…とか。

あと北極点って、どこの国でもない、公海と呼ばれるエリアになるんだって。(これも全然知らなかった)

一方の南極は南極条約というものが引かれていて、領土問題はあるものの、いったん棚上げしてみんなで仲良くやっている状態になっているんだって。でも南極のパスポートコントロールの話とか、全然知らなかった!! すごいなぁ。

他にも太陽の動きが北極と南極と反対で、そんなことも頭ではわかっているけど、実際に体験すると、めちゃくちゃ腑に落ちる。この「腑に落ちる」感覚が大事なんだよ、と荻田さんは説明していた。

時計はなんで時計回りなのか? それは時計が北半球で生まれたから…という話もめっちゃおもしろかった。今までそんなこと考えたこともなったよ。(要は原始の時計が日時計だったから)

1時間ほど講義して、休憩に入ったのだけど、休憩中には、なんと高校生にして、すでに『アグルーカの行方』を読んで角幡さんの大ファンだという女子高生もあらわれ、震えたよ!! 角幡さんにこれを教えてあげたい。いいよー 彼女、人生の最短距離行ってる! 羨ましい。

しかし良いよなぁ!! だってあの『アグルーカの行方』に登場する荻田さんだよ。あの本を事前に読んでいたらこの日の講座は本当に感激しちゃうよね!! 

そして休憩後の後半はこんなクイズから。


あなたは北極点に向かって歩いています。振り向いてこんな写真を撮りました。果たしてこの写真は何時ごろの写真でしょう、と。

私なんて…実は全然わからなかった。高校生頭よくって、日の光がこうだから、こっちが東で…とかちゃんと予想してる!! 驚愕。あれ、オレって、北極のことよく知ってるんじゃなかったっけか!!!?(ちなみにこの答えは午後3時です)

後半は、どうして荻田さんが北極南極に行くようになったかという話。荻田さん、大学に行ったはいいけど、自分のエネルギーを持て余し、何をやっていいかまったくわからず、3年で学校は辞めてしまったそう。

で、その時、たまたまテレビでみた大場満郎さんに導かれ、北極を初体験。

広い世界を見てみたい…  今みたいにインターネットとかもない時代だったので、番組あて手紙を書いたら、大場さんが返事をくれたんだって。

で、北極に行ったら「何か人生が変わるんじゃないか」そう期待したものの、帰国すれば、また元通り。それでもまた北極に行きたくて、とにかく1年間うんとアルバイトしては、氷がはったころにカナダに行く…ということを繰り返していたのだそう。

この頃の北極冒険費用は100万とか200万くらい。その頃はカナダの北極圏をうろうろしていたそうで、とにかく必死でバイト生活にあけくれていたそうです。

そして2010年くらいから、いよいよ北極点を目指すようになる。となると、かかってくる費用の桁が一つあがるわけで、このころからスポンサー集めをするようになったそう。

最初は企画書を書き、アポなしで丸の内や品川の会社に飛び込み営業。受付のお姉さんに困惑される。

それでも荻田さんの独自の統計によると、そんなふうにしてあった担当者10人のうち、6人くらいはやんわり聞いてくれる。2人はめっちゃおもしろがってくれる。2人はけんもほろろ…みたいな反応だったらしい。

そんな無謀なスポンサー探しを1年から1年半やっていたら、気づいたら、仲間ができていた、と。

実際そんなスポンサー探しで、見つかったスポンサーはゼロだったけれども、あれは自分にとっては社会経験の場だったのだと今では思っている、と。

あの頃の自分は大きな会社の論理などわかっていかなった、と。

でも自分が能動的に動いていると、周りに人が集まってくる。最初は1人だったのに、気づくと、一緒に走ってくれている人がいる。

とにかく行動しろ、と。動きながら考えろ。机の上であれこれやっていてもダメなんだよ、と荻田さんは語っていた。

たとえば北極について。北極と南極の寒さの違い。北極と南極とどちらが寒いと思いますか?

統計を見ると圧倒的に南極大陸の方が気温的には寒いんだけど、荻田さんの印象は全然違う。それは、荻田さんが行くのは北極は冬(氷が凍らないと渡れないから)、南極は太陽の出ている夏に行くことになるから。つまり常に答えは相対的なのだ、と。

つまり視点が変われば、答えは変わる。視座が固定されている、普通は固定観念におさえつけられているということを自覚するのが大事。そして、意識的に視座をずらす行為が大事。

たとえばイヌイットの世界での約束の価値観、時間の価値観。自然と暮らす人の中では、日本人とはまるで違う。

視座を移動することで、人間は発展してきた。それは冒険そのもの。

そして、ここから荻田さんが素晴らしいのは、だから本屋をやっているという話になるわけですよ!!! もう感動。



「冒険は知的情熱の身体的表現」( by チェリーガラード 私も大好きな言葉です!)…という言葉があるが、人々はどちらかというと「身体的表現」の方に注目しがち。

極地を冒険してるといえば、例えば「寒いでしょー」とか、「歩くの大変でしょー」とか。「お腹すいたりしたらどうするんですかー」とか。

そうじゃないのだ、と。大事なのは(注目すべきは)知的情熱の方。

だから本屋をやっている。

ショーペンハウエルは「読書について」を例に出し、本の中に答えがあるとは思うな、と。本の中に答えを探してはダメだ、と語った。本に答えを見出すことは答えを他人に委ねているのだ、と。

ショーペンハウエルが言っているのは、ちゃんと自分の言葉でしゃべれるように、答えは自分の中にあるのだ、ということ。

例えば社会のルール。それは自分の外側にあるもの。一方で自分の中にあるのは美学とかそういうもの。それに従うのが冒険。それは視座をちょっとずらしたり、本を読んだりすることで発見できる。(だから冒険と本を読むことは同じ行為)

さりげなく、最後は「勉強しなくっちゃ!」「いろんなことを知らなくっちゃ」と思わせてくれたところが、学校での講義だということを押さえた荻田さんの真骨頂! いやーさすが。参りました。

… 良すぎるよ。荻田さん。

こちらも必見。大和市のプロモーション番組らしいんだけど、本屋さんの様子がよくわかるから、ぜひご覧ください。
 
 

荻田さんの書いた本もおすすめ。「北極男」は絶版になっちゃったんだって。見かけたらゲットすべし。

また荻田さんの本屋さん、ホームページはこちらです。私は今、本を(一部のレア本などをのぞき)すべてこちらで購入している。メモみたいなもので、じゃんじゃんオーダーをお送りしておくとまとまった時に発送してくれるのでした。マジで助かっている。いつもありがとうございます。

この前なんかすでに買った本をまた注文してしまい、「野崎さん、その本、もうお持ちですよ」と指摘されてしもた…  す、すみません&ありがとうございます。本棚の管理もお任せしたい(笑)

本を自分では選べない人のための「選書サービス」もあるよ!

荻田さん、本当にこれからも目が離せません。