なんというか圧倒的だったけど、威圧的なことはなく、なんというか、ただただ年齢を重ねている人たちに心を寄せた90分だった。でも若い頃激しく生きないとこうはなれないのかな、とも思った。いや、彼らは動けないけど、まだまだ激しいのか?
ジョージアに知識のない私からしたら、ちょっとフランスっぽくも感じたり。言葉の響きがなんか同じなんだよなぁ…なんでだろ。主人公のキャラクターがそう見せるのかな。彼女の家の内側でのシーンが多いのだけど、なぜか扉や窓がいつも大きく開放され、素敵でもある。
でも彼女はとっても不機嫌。主人公の79歳の誕生日を同居する家族は忘れている。そこに車椅子に乗り、直接会えない過去の恋人が電話をかけてくる。娘に提案され、過去あれこれあった古い友人の女性を家に迎えることになり…
いやー なんとも言えない。こうやって歳をとって、人は過去を乗り越えることになるんだろうか。一方で死ぬ瞬間まで未来をみつめていくんだろう。一方で、出歩けない彼女に町の絵を描いてみせるひ孫との関係はちょっとホッとする一瞬でもあった。
印象的なタイトルは日本の陶器を修復する技術「金継ぎ」にヒントを得たものだという。
監督はジョージア映画を代表するラナ・ゴゴべリゼという女性監督で、なんと91歳にしてこの作品を手がけた。27年ぶりの新作だという。
お母さんはなんとジョージア初の女性映画監督で、スターリン時代に収容所に送られたりしたそうだ。自身もソヴィエト連邦下の検閲に苦しめられ、91年のジョージアの独立以来、激動の日々を生き抜いてきた。
彼女のお嬢さん(わたしと同じ66年生まれ)も映画監督・プロデューサーとして活躍しているそうである。
ジョージアって行ってみたい国の一つなんだ。最近感動した映画の中に「Then we danced」がある。スウェーデン制作のジョージア映画で、繊細な男の子のダンサーの、力強いダンスにとても感動したっけ…
すごいなぁ、ジョージア。いつかこの国のアーティストを取り上げてみたいなぁ、となんとなく思っているのだ。わたしのWorking Lifeももうそれほど長くないから、実現できるかはわからないのだけれど。
それにしても同じ日の昼間見たアカデミー候補になっている映画とはまるで空気が違う。でも劇場で販売されていたパンフレットが本当に丁寧に作られていて、それがなんだか嬉しかった。こんなにも愛情をもって海外の文化を紹介する人たちがいる。
ジョージアの首都トリビシで行われた映画祭での監督のインタビュー、そしてジョージア映画といえばこの方! はらだたけひでさんの2019年のインタビュー、そして日本の公式インタビューが掲載されているほか、はらださんの入魂の解説も。
ジョージアに対するいろんな理解がまだまだ足りない自分にはとても参考になった。
こういう重厚な映画の前では、ひたすら謙虚になるしかない。自分が年齢を重ねたら、どんなふうになるんだろう。残念なことにミランダ役の女優さんは、この映画の完成を見ることもなくトリビシで亡くなったそうだ。
そして、なんと監督、次回作の話もあがっていて、それは監督のお母さんの話なのだそうだ。この「金の糸」同様、監督の娘がプロデューサーを務めるのだという。すごいな、ジョージアの女性映画監督の魂は。
音楽がよくって、ずっと頭の中にこのメロディが流れていて離れない。そして 何度も書くけどパンフレットがいい。最後のページには、ムヴィオラの武井みゆき代表による岩波ホールへのあふれる感謝の気持ちも掲載されている。必読。
それと木曜日にはトークショーも行われているそうで、こちらは加藤登紀子さんの回のレポート。このあとのスケジュールはこちら。
3/31(木)はらだたけひでさん
4/7(木)五月女颯さん(ジョージア文学・批評理論研究)
4/14(木)廣瀬陽子さん(慶応大学教授・コーカサス地域研究)
岩波ホールはあと2本で閉まってしまう。残りの2本もとても面白そう。なんとか見に行くつもり。岩波ホール。午前中はとても混んでいる。なので、早い時間帯はお年寄りにゆずって、50代の若造は15:30の回以降に行くのがいいですよ。