高野さん、期待の分厚い新著である。もちろんもっとポップなリリースはいくつかあったけど、これは『ソマリランド』以降、最大のディープな作品ではないだろうか。
同時期に『トルコ怪獣記』も発売になった。『怪獣記』はもちろん読んでるけど(過去の感想はこちら)、こちらは解説が読みたくてゲット。ファンとはそういうものである。
『イラク水滸伝』と『トルコ怪獣記』、どちらも船に乗る高野さんの姿を捉えるところが、探検のハイライトなのだが、とても対照的だ。
長く品切れてた『怪獣記』が『トルコ怪獣記』としてこのタイミングで再発されるのも、なんか感慨深い。
それはさておき『イラク水滸伝』、この私でさえも(笑)読むのにえらく時間がかかった。というのも、やはり中東のあれこれは難しい。結局中東のあれこれは比較的斜め読みで読み進め、高野さんと隊長の面白探検部分をひたすら読んでいた。
あと本が分厚くて持ち歩けないということもある。これ、文庫になったら上下巻になるんだろうか。とにかく、私は本はだいたい夜寝る前に布団の中で読むのだが、本があまりに重くて寝っ転がると持ち上げられないのも、なかなか進まなかった理由かも。
が、そんな物理的な問題を吹っ飛ばすほど、内容は最高に面白かった。というか、仕事を辞めて、ゆっくりできる時間ができたら、ぜひじっくりイラクの歴史を踏まえつつしっかり読みたいもんだ。ちなみに私は『水滸伝』すら読んでいない、大馬鹿ものである。
それにしても、やっぱり高野本は面白い。とくに船を漕ぎ出す姿を写真に収めるシーンはハイライトだし、最後の方に書かれた布地のエピソードの数々には息を呑んだ。
というか、すごいんだ、このテキスタイル。本の巻頭にグラビアページがあるんだけど、そのものすごい手仕事に圧倒される。私も1枚欲しいよーーー
それにしてもすごいなぁ、イラク。そもそもは文明の発祥の地。キリスト教文化圏なんて、ここ2000年の話じゃないの、って感じなんだよ。やっぱりすごいなぁ。
そしてこの本のテーマである「プリコラージュ」というコンセプト。確かに今の私たちにかけていることなのかも。いろんなこと考え出すとキリがないし、目の前にあるもので、なんとかする。こういうふうに生きてる人は強いよなぁ、私なんてシステムの外に出たら、何もできることがないかもしれない。
実際、未来を心配してたらキリがないけど、とにかく目の前にあるものでなんとかやりくりして、自分の人生を生きていこうじゃないか、と思わせるパワーもある本だ。ソマリランドもそうだけど、自分の中のいろんな常識がガラガラと崩れていくのがわかる。
なんだろう、日本に生まれて自分は恵まれているなぁと思うことは多いけど、こんなふうに湿地で生きいている彼らはたくましいし、本当に心から尊敬する。
そうそう文中では、山田隊長のイラストが高野さんの文章をさらにわかりやすく説明してくれていた。これはわかりやすくて理解が進んだ。
それにしてもどこへ行ってもイラクの人たちの歓待の連続で、お腹を壊した高野さんと体調絶不調の山田隊長はかなり可哀想。結構過酷だし、旅って、きついスケジュールでもぽんぽんとスムーズにスケジュール通りにことが運べば、それほど「きつさ」は気にならないんだけど、待たされてたりすると、ほんとにつらいんだよね。わかるわー
とはいえ、食べ物がめちゃくちゃ美味しそうなのであった(笑)。